こんな店なら通いたい 中国で見直し進むリアル店舗

6月6日(木)6時0分 JBpress

中国・上海の繁華街

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 ECサイトの急激な成長とキャッシュレス化の進展によって、今や世界の小売業の最先端を行くともいわれる中国。そのなかでリアル店舗はどのように生き残りを図っているのか──?
 2019年1月に中国で『实体店价值 要这样体現!(リアル店舗の価値はこうつくれ!)』(南海出版公司)という中国語の書籍が発売された。栃木県でカメラ販売トップシェアを誇るカメラ販売店チェーン「サトーカメラ」の佐藤勝人副社長と佐藤勇士IT事業部部長・想道美留貿易(上海)総経理による共著書である。
 日本では中国の小売業の先端的なデジタル戦略が伝えられている。しかし、中国で店舗運営のコンサルティングを行ってきた著者の1人、佐藤勇士氏は、中国では今リアル店舗の価値が見直されつつあるという。同氏に中国小売業の最前線の状況を聞いた。


店に置いてあるだけではもう売れない

──『リアル店舗の価値はこうつくれ!』は誰に向けて書いた本ですか。

佐藤勇士氏(以下、敬称略) 主に中国のカメラ販売店のオーナー、店長向けです。

──出版の経緯を教えてください。

佐藤 サトーカメラは2014年から中国でキヤノンさんの販売店、ショールーム向けに店舗運営のコンサルティングを行い、店舗によっては売上が2倍になるなど大きな成果を出すことができました。その過程で、キヤノンさんからマニュアルのようなものはありませんかという話をいただき、書籍を作ることになりました。サトーカメラが日本で出している本の内容をそのまま中国語にするという方法もあったのですが、せっかく中国で発行しますので、完全に中国の販売店向けに書き下ろしました。

──中国でのカメラ販売は現在どういう状況ですか。

佐藤 5年ほど前までは、店に商品を置いておけば勝手に売れるという状況でした。販売店がすることと言えば、基本的にメーカーと仲良くして新製品を卸してもらうことだけ。あとは、メーカーが商品の棚を作ってポスターからPOPまで用意してくれるので、何もする必要がなかったんです。

 でも、中国のカメラ市場はすでに頭打ちの状態です。中流以上の中国人の間にカメラがだいたい行きわたってしまったので、もう店にカメラが置いてあるだけでは売れません。おまけにお客はネット通販に流れ、価格競争も激化しています。販売店は2〜3年前くらいから「このままじゃまずいよね」ということでいろいろ手を打っているんですが、なかなか結果につながらず、現在は本当に追い詰められている状況です。


リアル店舗はやるべきことをやっていない

──やはりネット通販の拡大が打撃になっているわけですね。

佐藤 でもカメラに関して言うと、ネットでの売り上げも高止まりしてきています。お客さんは高額商品になればなるほど実物を見てみたいし、触ってみないと怖い。ネットには偽物も出回っています。だから、メーカー側も、やっぱり店って大事だよねと気がついてきました。現在は、キヤノンさんをはじめカメラメーカーがリアル店舗に力を入れていこうという流れになっています。

──中国ではリアル店舗が見直されつつあるということですか。

佐藤 売り上げを伸ばすためにリアル店舗がやるべきことは、本当は無限にあります。でも、どこも「やっている、やっている」と言いながらやってないんですよね。だから少しやるだけで店は劇的に変わるんです。

 たとえば、商品のPOPを作るときも、ほとんどの店が「新商品」って書いて価格を載せているだけ。それだけではPOPとは言えません。本当は、誰に向けた商品で、どういうシーンで使えるのかといったところまで商品特性を落とし込んだうえでPOPを作るべきなんです。

 最近、小売業界はどこもデジタル戦略に力を入れています。もちろんデジタル戦略は大切ですけど、その前に店舗がやるべきことはいっぱいあります。商品も接客も弱くて、戦略も立てていない。そんな状況でデジタル戦略に走ってもうまくいくわけがないと思います。


店の土台は哲学と理念

──そこで、『リアル店舗の価値はこうつくれ』を執筆したわけですね。具体的にはどういうことを書いているのでしょうか。

佐藤 あくまでも本筋は変えずに現地に合わせて調整したサトーカメラ流の店づくりの方法と、実践の事例をふんだんに紹介しています。

──中国の店舗経営者に最も伝えたかったのは、どのようなことですか。

佐藤 店の土台は理念です、理念がいちばん大事なんですよ、ということをベースに書いています。単に金儲けをしたいのならカメラを売らなくてもいいんです。「そもそも何のために店を開いているのか」を考えてほしいということです。

 サトーカメラの場合は、「すべてはお客さんの想い出をきれいに残すため」というのが基本理念です。商品構成も接客も、お客さんに想い出をきれいに残してもらうためなんです。この本には、そういう理念を持って店を運営してください、それが結局はお金になるんですよ、という話を書いています。中国での普段のコンサルティングでも、哲学と理念が大切だということを訴えています。

──そう言うと、中国人の経営者はどういう反応を見せますか。

佐藤 2〜3年前だったら聞く耳をもたなかったんでしょうけど、最近はちょっと反応が変わってきました。市場がどんどん厳しくなっていくなかで、みんな本当にいろいろなことをやっているけれども、どれもうまくいかないんですね。もがき苦しみながら、結局、俺は何をやっているんだろうと考えるようになってきた。ちょうどそういうタイミングなんだと思います。

 ただ、基本的には中国の店舗経営者のほとんどは、やはりお金がすべてです。現場スタッフも同じです。だからいきなり「理念が大切ですよ」と言うんじゃなくて、「儲けたいですよね? そのためには理念が大切なんですよ」というロジックで訴えるようにしています。


リアル店舗にできてネット通販にはできないこと

──リアル店舗が見直されているとはいえ、やはりネット通販の拡大は不可逆の流れですよね。今後、店で買い物する人はどんどん減っていくのではないでしょうか。

佐藤 そうは言っても、上海の洋服屋とかカフェとか、休みの日はもうとんでもなく混んでますからね。どこもかしこも人だらけですよ。やはり実物の商品を手にできることとか、店の雰囲気とか、店員とのコミュニケーションとか、リアル店舗には魅力があるんですよ。

 お客さんに新しい生活や楽しさを提案できることもリアル店舗の大きな価値だと思います。

 たとえば僕たちは、ふらっとお店に入ってきたお客さんに声をかけ、普段どんな写真を撮っているのかを聞いて見せてもらいます。そして、「この写真をプリントしてみませんか。今ちょうど安いですから」と言ってプリントしてあげる。プリントした写真を見ながら、いい写真ですね、もっといっぱい見せてくださいとお願いして、また見せてもらいます。すると、いい写真がたくさんあるんですよ。写真を見ながら話をしていると、みなさん気がつくんです。ああ、自分はこれだけいい写真を撮ってたんだ、これだけいい人生を歩んできたんだと気がつくんですよ。

 そのことに気がついたお客さんは、写真を撮ってプリントすることがどんどん楽しくなっていきます。そして、プリントした写真を家や会社の机に飾ったりするようになる。お店にも毎週来て、店員といろいろな話をするようになります。そうやって趣味が増えて、生活がどんどん楽しくなっていくわけです。

 ネット通販では、まだそこまでできないですよね。リアル店舗にはそういう価値があります。それなのに、多くのお店の人たちは自分たちの価値に気づいていない。それはとてももったいないことだと思います。自分たちの価値に気づいて、どんどんそれを生かしていってほしいと思います。

筆者:鶴岡 弘之

JBpress

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