「日朝対話が急進展する可能性」にザワつく韓国メディア

2023年6月9日(金)6時0分 JBpress

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後、南北関係は険悪化の一途をたどっている。韓国では「北朝鮮は主敵」という概念が5年ぶりに復活、これに対して北朝鮮からは韓国の保守政権を揺さぶるための挑発が度重なっており、朝鮮半島に緊張感が高まっている。

 そんな中、北朝鮮が国際舞台への復帰を狙って日本との対話に乗り出すのではないか、と見方も浮上している。


米国も反対しない「日朝対話」

 5月27日、日本の岸田文雄首相が日本人拉致被害者問題の解決のために「金正恩朝鮮労働党総書記と前提条件なしで会う用意がある」と言及してから2日後の29日、北朝鮮は朴相吉(パク・サンギル)外務次官を通じた談話で「会えない理由はない」と発表したことがひとつの契機になっている。

 韓国メディアは、北朝鮮側が岸田首相の発言に対して、「過去に縛られずお互いをありのまま認めるなら」という前提条件を付けながらも前向きな態度を示したことに注目している。さらに岸田首相がさらに一歩進んで「首脳会談のための高官級会談を開くことを望む」と述べたことについては、膠着状態に陥った南北関係の代わりに日朝関係が朝鮮半島情勢を主導することになるかもしれないという観測も出ている。

 公営通信社の『聯合ニュース』は、「北朝鮮と日本が対話に向けた探索を本格化した」と評価し、「ひとまず米国は日本の対北朝鮮対話に肯定的な態度を示す可能性が少なくない」と展望した。

 対話による北朝鮮核問題の解決を重ねて強調してきた米国としては、同盟国の日本が北朝鮮と対話を始め、外交チャンネルが整えば、北朝鮮核問題をより効果的に管理できる。ただ、南北関係が悪化した隙を狙って日朝対話が始まれば、韓国政府としては困惑する立場に置かれるという点も指摘した(聯合ニュース電子版の6月3日の記事<対話探索する日朝…南北対話の空席を狙うのか>)


すでに水面下で接触?

 日朝間に水面下の接触があった可能性を提起した専門家もいる。世宗研究所のチョン・チャンス日本研究センター長は『世界日報』とのインタビューで、こう分析した。

「最近は新型コロナ感染病による国境封鎖局面が変わり、急速に水面下接触があった可能性がある。しかも在日同胞などの人的ネットワークを持っている日本としては可能な話だ。(北朝鮮が)経済的イシューや米国との疎通などの目的があり、手を差し伸べる可能性もある。(日朝対話は)北朝鮮としては韓国政府を抜いて主導権まで握ることができる方法」

 進歩政権の金大中、盧武鉉政権で統一部長官を歴任した丁世鉉(チョン・セヒョン)氏も、「北朝鮮が深刻な食糧問題を解決するために日本との首脳会談を望んでいる」と主張した。

 丁氏はラジオに出演し、「3年間も新型コロナ禍で国境が閉ざされていて、食べ物や着るものなどが中国やロシアから何も入ってこなかった。2006年から始まった国連の対北朝鮮制裁によって物資が入ってこずにいるうえ、今年は中国から肥料が入ってこないため田植えに大変苦労している」と北朝鮮の深刻な食糧難に言及。

 そのうえで「日本と植民地統治の賠償問題を2009年に議論していたところ進展がなかったが、今回また(日本と)会えば必ず決着をつけるという計算があるだろうし、そうすれば大金が入ることを北朝鮮は期待しているだろう」と付け加えた。

 ちなみに韓国の外交専門家の間では、日朝国交正常化の過程で北朝鮮が得られる対日請求権補償金は、少なくとも50億ドルから最大200億ドルに達するものと推算されている。


金正恩は「メイド・イン・ジャパン」愛好家

 北朝鮮専門家のイ・ヨンジョン記者は、「在日韓国人出身の母親を持つ金正恩総書記は生まれながら日本に対してそれほど敵対感を持っていないという点が日朝関係の鍵になり得る」と説明する。

 金正恩氏は、日本製品愛好家として知られている。2020年、水害現場までレクサスSUVの最高級モデルのLX570を直接運転して現れ、労働党幹部と軍兵士に会う時もこの車を愛用していると伝えられる。今年の3月、火星17型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射を参観する際には、ニコンの双眼鏡を持ち出しており、昨年12月に少年団大会に参加した5000人の子供たちにはセイコーの時計「ALBA」をプレゼントした。イ・ヨンジョン記者は、金総書記のこのような行動が母親の高英姫(コ・ヨンヒ)の影響を受けたためだと分析する。

「在日朝鮮人総連合会出身の北送同胞である高氏は1960年代末、家族と共に北朝鮮に移住し、万寿台芸術団で活動していたが、金正日の目に入り28年間一緒に暮らした。

 金正恩氏が幼い頃、実母の高氏から受けた影響は、今も彼の意識を支配しているものと見られる。たとえば、金正恩体制に入って、北朝鮮の日本に対する態度が変わりつつある。日本に対する非難のレベルや頻度は、最近になってはっきりと低下している。非難はするものの、反日感情がそれほど骨身に染みてはいないという感じがする」


「日本は過去に、韓国が予想もしていない局面で北朝鮮との国交交渉を行っていた」

 イ・ヨンジョン記者が特に注目している状況は、5月2日に行われた日本人拉致被害者家族会の米国訪問だ。

「日本人拉致被害者の家族が4年ぶりに米国を訪問し、拉致問題解決に向けた米国側の支援を要請したことは示唆するところが大きい。北朝鮮の核・ミサイル脅威が最高潮に達する状況で行われた家族会の訪米は、日本の政界と社会がどれほど拉致被害者問題に全力を尽くしているかを示している。

 訪韓期間中、韓国メディアの関心を集めた岸田首相の胸上の青いリボンは、拉致被害を忘れないという日本国民の願いが込められた象徴だ。金正恩総書記の脳裏には『日本カード』が残されており、すでにこれをいじっているかもしれない。

 振り返ってみると、日本は韓国が意外な状況だと考える局面で北朝鮮との国交交渉を行っていたし、誰も事前に知ることができないほどの第三国での水面下の接触を通じて行われた」

 日本と北朝鮮との高官級協議の可能性に関するメディアの質問に対し、韓国外交部は「韓国と米国、日本は北朝鮮との対話の扉が開かれていることを一貫して明かしてきた」と答えた。尹錫悦政権はすでに、北朝鮮の非核化対話を前提にした米朝関係正常化に外交的支援を行うという意志を表明しているだけに、北朝鮮のパートナーが米国でない日本でも立場には変わりがないという意味だ。

 南北間の対話の扉が閉ざされた状況で、最近日本と北朝鮮との間に流れている微妙な気流が朝鮮半島の情勢変化の突破口になりうるか。韓国の人々も固唾をのんで見守っている。

筆者:李 正宣

JBpress

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