【舛添直言】中国対抗軸となるG7、意気込む各国、板挟みの韓国

6月12日(土)6時0分 JBpress

(舛添 要一:国際政治学者)

 6月11日から13日まで、イギリスのコーンウォールでG7が行われている。新型コロナウイルスの感染拡大で昨年はリモートでの会合であったが、今年は対面で行われている。菅義偉首相もこれに出席するため、10日に羽田から政府専用機で飛び立った。


G7「影の主役」は中国

 今回のサミットの「影の主役」は中国である。軍事的にも、経済的にも巨大化する専制国家、中国に対して、民主主義諸国がどう対応していくのかということが、G7の最大のテーマである。

 アメリカが覇権国として世界を支配する体制、つまりパックス・アメリカーナは今なお健在である。1980年代のバブルの頃は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などともてはやされた日本が、アメリカを凌駕し、パックス・ジャポニカを形成するのではないかという観測すらあった。しかし、バブルが崩壊するとともに、日本礼賛論は姿を消し、日本の長期的凋落に歯止めがかからなくなっている。

 一方、東西冷戦の敗者、ソ連邦は解体され、プーチン大統領の指揮の下、ロシアは再興への道を歩んでいるが、その道のりは、長くて厳しい。核兵器を保有する軍事大国であるが、経済力などアメリカに伍するだけの力は持っていない。

 中国は、1978年12月、鄧小平の指導によって「改革開放」政策が決められ、市場経済原則を採り入れて、目覚ましい経済発展を遂げてきた。今や、GDPで日本を追い抜いて、アメリカに次ぐ世界第2位の地位にまで来ている。

 現在の中国を率いる習近平主席は、外交面で「一帯一路」政策を掲げ、世界中に拠点を設けようとしている。G7の中でも、イタリアはこの構想に協力的で、中国との交流が深まっている。それが仇となって、イタリアでは昨年、新型コロナウイルス感染拡大につながったのである。これまでに、感染者は423万人、死者は12万6000人にのぼっている。

 軍事面に注目すると、海外拠点作りで関係諸国の顰蹙を買っている典型例が南シナ海である。西沙(パラセル)諸島、南沙(スプラトリー)諸島などにおける中国の強引な進出である。西沙諸島は中国が実効支配しているが、ベトナムと台湾が領有権を主張している。南沙諸島は、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張しているが、中国は岩礁を埋め立てて人工島を造成し、軍事拠点化している。

 日本の尖閣諸島にも毎日のように中国の漁船や海警局の船が出没し、尖閣領有の既成事実化を図っている。韓国が竹島を占拠しているのと同じ状態にしようとしているのである。


想像以上に可能性高まっている「中国の台湾侵攻」

 そして、深刻なのが台湾である。習近平は、中華人民共和国建国100周年の2049年に世界一の大国となることを目指しており、その過程で台湾を統一することにしている。

 そのような状況に危機感を持つ台湾の国防部(国防省)は、「台湾海峡で軍事衝突のリスクが高まっているという報告を立法院(国会)で行っている。アメリカも同じ認識で、4月30日にインド太平洋軍司令官に就任したアキリーノ海軍大将は、3月23日の上院軍事委員会の指名承認公聴会で、中国による台湾への侵攻が「大多数の人びとが考えているよりも極めて間近に迫っている」と述べている。

 ブリンケン国務長官も、台湾を侵攻することは「重大な間違い」と4月11日のNBCテレビの番組で語っており、「台湾関係法」に基づいて、アメリカが台湾への責任を果たすと明言している。

 バイデン政権は台湾との交流を深めており、そのことに習近平政権は危機感を募らせている。4月16日にワシントンで行われたバイデン大統領と菅首相との会談でも台湾問題が議題となり、共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記された。中国は、これを内政干渉だとして反発している。


G7に韓国、インド、豪州、南ア首脳を招待した意図

 中国は急速に海軍力の増強に全力を挙げているが、日米は軍事面での中国封じ込めを図っている。これには、オーストラリアも参加し、またイギリス、フランス、ドイツも空母や艦船をこの地域に派遣し、民主主義諸国の対中安全保障網を形成しようとしている。

 今回のG7で、議長国のイギリスは、7カ国のみならず、韓国、インド、オーストラリア、南アフリカも招待したが、そこにも軍事的意味が込められている。インドは、すでに対中包囲網に参加しており、中国への配慮から躊躇しがちな韓国をこの戦略に参加させることを狙っているのである。

 新型コロナウイルス対策もG7の大きな課題であるが、発展途上国へのワクチン支援でも、G7と中国が鎬を削っている。バイデン米大統領は、ワクチン5億回分を100近くの国に提供することを表明しており、ワクチン供給によって支援国を増やそうとしている中国を牽制している。G7としても、10億回分を世界に供給することで合意を図っている。

 また、バイデン政権が、コロナ発生源として、武漢のワクチン研究所からの流出説に言及し始めたのも、対中国戦略という文脈で理解できる。ジョンソン英首相は、来年末までに全世界でワクチン接種を完了させることをサミットで提唱し、中国のワクチン外交を牽制している。


「巨大市場」中国の封じ込めは非現実的

 人権問題もまた、中国を専制国家として非難する材料となる。G7は民主主義の理念を共有する国家の集まりであり、新疆ウイグル自治区やチベットや香港での人権無視や民主化運動の弾圧に対して厳しい態度をとろうしている。バイデン政権与党のペロシ下院議長は、来年2月の北京五輪について、ジェノサイドが行われている国に各国首脳が行くことは止めるべきだと、「外交的ボイコット」を呼びかけている。

 中国と先進民主主義国は、先端技術の分野でも熾烈な競争を展開しており、中国が世界の技術を盗み出している現状にも危機感を露わにしている。アメリカ上院は、中国との覇権争いに備える包括法案「米国イノベーション・競争法案」を可決した。総額2500億ドル(約27兆円)をかけて、半導体、5G、AIなどの先端技術の競争力を強化しようというものである。

 法案に賛成が68票、反対が32票であり、与野党を超えて、対中強硬姿勢が強まっているのである。下院でも可決されるのは確実である。これまでの自由競争から、国家主導の産業政策で中国に対抗するという大きな政策変更である。

 しかし、14億人の人口をかかえる中国は、市場としても、また消費財や部品の供給基地としても重要な意味を持っており、G7も相互依存関係を深めている。日本やドイツをはじめ、多くの国が強硬な中国封じ込め政策には否定的な姿勢をとるのもまた当然である。


「人口減少」が中国でも現実的に

 そのような中で、中国では、国内問題として、人口減少への対応が大きな争点となっている。

 中国共産党は、5月31日の政治局会議で、1組の夫婦に3人目の出産を認めることにした。

 1979年以降、中国は人口抑制策として「一人っ子政策」を実施してきたが、少子高齢化が進み、一人の子どもが両親と祖父母の老後の面倒を見るという苛酷な状況が生まれた。

 そこで、中国政府は、「一人っ子」を緩和し、2016年に「二人っ子政策」に政策転換したが、その後も、少子高齢化に歯止めがかかっていない。2019年の合計特殊出生率は、日本が1.36、中国が1.30である。

 そこで、今回の「三人っ子政策」に変更したのである。

 中国では、夫婦共稼ぎが普通であるが、大都市に住む若いカップルにとって生活費、とくにマンション価格の高騰は深刻な問題になっている。

 また、子育て、とくに教育に費用がかかりすぎ、2人目の子どもを持つのは無理になっている。お金がなくて結婚を断念する中国人男性が増えている。

 人口が減少したのでは、世界の大国として影響力を行使できなくなる。人口世界一の座は、インドに奪われそうである。

 私は、中国の大学で講義をしたり、市民を相手に講演したりする機会が多いが、日本の元厚労大臣として、少子高齢化にどう対応すべきか、介護保険制度の全国的導入は可能かといった課題についてよく質問される。アメリカとの競争よりも、身の回りの社会保障制度のほうが遙かに切実だからである。

 少子高齢化問題は、民主主義か専制主義かという政治体制の違いを超えて、日本や中国が直面する問題であり、この分野での日本の経験を中国に伝えるのは大いに意義がある。中国の利益にもなるし、日本にとっても対中関係をこれ以上悪化させないための材料にもなる。

 経済的関係のみならず、このように両国が共通して直面する課題について、協力しあうことは、安全保障面で高まっている緊張を緩和させるのにも役立つ。あらゆるチャンネルを使って、日中関係の極度の悪化を避ける方策もまた、模索せねばならないのである。

筆者:舛添 要一

JBpress

「G7」をもっと詳しく

「G7」のニュース

「G7」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ