「苦難の行軍」以降で最悪…北朝鮮の食糧難、口揃える専門家たち

2023年6月17日(土)6時1分 デイリーNKジャパン

北朝鮮は今、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難に突入していると言われている。そのきっかけとなったのは、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために2020年1月、国境を封鎖し、すべてのモノと人の行き来を止めたことだ。


食糧難は年を追うにつれ悪化し、各地からは窮状を伝える情報が寄せられている。


英国BBCは、デイリーNKの協力で、3人の内部情報筋とのインタビューを行った。


首都・平壌に住むジヨン(仮名)さんは、知り合いの一家3人が餓死したと証言した。


「3日にわたって人の出入りがなかった。それで水を届けようとドアをノックして入れて欲しいと声をかけた。しかし、返事はなかった」


北朝鮮の中では非常に優遇されている首都・平壌ですら餓死者が出るのは、食糧事情がいかにひどいかを示している。



ジヨンさんは、なんとかして2人の子どもに食事を与えようと頑張っているが、2日間何も食べられなかったこともあり、寝ている間に死んでしまうかもしれないと思ったという。また、平壌の路上では、多くの人が物乞いをするという今までになかった状況となっている。


「多くの人が路上で物乞いをしている。中には横たわっている人がいるが、確かめてみると多くが事切れている。自宅で命を絶つ人もいれば、山に入って行方をくらますひともいる。こんなことは今までに聞いたことがない」


また、監視と取り締まりが以前以上に厳しくなり、2020年に制定された「反動文化排撃法」で、詰問されることもしばしば。どこにスパイが潜んでいるかわからないこともあり、相互不信が広がっている。


中国との国境に面した地域に住む建設労働者のチャンホさんは、食糧供給の不足で、村に住む5人が餓死したと述べた。


「最初はコロナで死ぬことを恐れていたが、だんだん餓死を恐れるようになった」


チャンホさんは、友人の話として、3人か4人の人が脱北を試みて失敗し、室内で処刑されるのを目撃したと伝えた。


「一歩踏み外せば死刑だ」
「私たちはここに閉じ込められ、死ぬのを待つばかりだ」


北朝鮮北部で密輸で入ってきた商品を売って生計を立ててきたミョンスクさん。市場で扱う商品の4分の3が中国からの輸入品だったが、今では全くなくなったという。彼女の家には、空腹に耐えかね、食べ物を乞いに来た人もいるとのことだ。


ミョンスクさんは、密輸で入ってきた商品を取り扱っていたが、国境警備が強化され、もはや国境の川を渡ることは不可能になったという。このような状況に、金正恩総書記に対する北朝鮮国民の感情も悪化しているようだ。


「コロナ前、人々は金正恩氏を肯定的に考えていた。しかし、今ではほとんどのひとが不満に満ち溢れている」


専門家たちは、今が「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難だと指摘している。


北朝鮮経済を専門にするピーター・ワード氏は「平凡な中産階級の隣人が餓死していることは非常に憂慮される」「未だ全面的な社会の崩壊や大規模な餓死ではないが、状況はよくなさそうだ」と述べた。


韓国のNGO、北朝鮮人権情報センター(NKDB)のソン・ハンナ国際協力局長は「過去10年から15年で、餓死の事例はほとんど聞いていない。北朝鮮の歴史上最も苦しかった時期を思い起こさせる」と述べた。


北朝鮮は昨年、63回のミサイル発射実験を行い、その費用は5億ドル(約706億円)に達すると見られるが、北朝鮮国民全てに食糧を配給してもまだ残るほどの額だとBBCは伝えている。


北朝鮮は中国、ロシアからコメや小麦粉を緊急輸入する対策に乗り出したものの、まだ全国民を飢えから救うほどには行き渡っていないようだ。コロナの再流入を極度に恐れ、輸入後の消毒などを行っているが、そのキャパシティを超える量の輸入はできないためだと見られる。


まもなく麦の収穫が始まるが、生産性の低い北朝鮮の集団農業では、すべての国民を救えるほどの麦を確保するのは難しいだろう。また、今年も異常気象による日照りや集中豪雨が予想されている。

デイリーNKジャパン

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