ノートルダム大聖堂がレーザー光線の館になる?

6月18日(火)6時0分 JBpress

工事が行われている仏パリのノートルダム大聖堂(2019年5月10日撮影)。(c)BERTRAND GUAY / AFP〔AFPBB News〕

 4月15日から16日にかけて発生した、フランスのパリ・ノートルダム大聖堂の不幸な火災の後、数本のコラムをお届けし、大きな反響をいただきました。

 6月に入りパリ第四大学パリ・ソルボンヌ、ならびにフランス国立音楽音響研究所の招きでパリにやって来ましたので、仕事帰りに焼け落ちたノートルダムの天蓋を確認してきました。

 予想以上にいろいろな意味で酷いことになっていることを知り、ショックを受けています。

 ノートルダム大聖堂を巡る近況をパリからお届けしたいと思います。


「透明」になってしまった上層壁

 パリ地下鉄、メトロ11番線「ランビュトー」駅の目の前に、かつては「奇抜なデザイン」とされたポンピドーセンターが立っています。

 そのはす向かい、地味な建物の地下にフランス国立音楽音響研究所 IRCAMが「埋設」されています。

 目の前の地上は「ストラヴィンスキー広場」で、噴水に奇抜な色彩の彫刻が並んでいるのを御覧になった方も多いかと思います。

 この「地下」ならびに、ごく穏当な建物の中で仕事を済ませてから、南に数百メートル歩いて下ります。

 やがてセーヌ川とその中洲であるシテ島が見え、橋を渡って進んで行くと、今は立ち入り禁止になっているノートルダム大聖堂前の広場に突き当たります。

 いきなり目についたのは武装警官でした。数人で、銃を手に隊列をなして歩いています。

 持っているのは、銃身の長い機関銃です。

 腰にピストルをさしている日本のお巡りさんと違って、片足に重心をかけ、どこか態度の悪そうな姿勢であたりを睥睨していました。

 率直に言って気持ちの良いものではありません。

 銃口こそ下を向いていますが、相当目つきが悪い。テロの危険性がありますから、仕方ないとは思いますが、ノートルダムの広場も残念なことになったものです。

 直近では限界がありますので、セーヌ川を「左岸」側に渡り、いわゆる「カルチェラタン」側から大聖堂を半周するように歩きながら観察してみたのですが・・・。

 これは何とも、酷いものだと思いました。

 補修のため、焼け残ったものも取り外しているのかと思うのですが、石の柱や窓の向こうが透明に透けて見えています。何もない。

 よく見えるように、再び橋を渡ってシテ島側に戻ってみると、痛々しい現場がよりはっきりと確認できました。

 内部の被災状況は分かりませんが、総とっかえの状態になってしまったのは間違いないでしょう。

  隣に浮かぶサン・ルイ島を経由して再びセーヌ右岸に戻り、川を挟んで反対側から眺めてみると、左岸側からは樹木があってよく見えなかった、尖塔部に近いあたりの燃え残りが見えてきました。

 基本、燃えるものは燃えてしまって、向こうが見えている。酷いことになってしまったものです。

 しかし、現地で友人たちに聞くと、「復興計画」として検討されているものが、さらに酷い状況になっているそうです。

 音楽家や大学教授など、母集団は偏っていると思いますが、パリ地元の人々からもさんざんの酷評を聞かせてもらいました。


何を再建するべきか?

 4月の火事からちょうど2か月、今回燃えた後に、どのような天蓋や尖塔を修復すべきか、あるいはすべきでないか。

「全世界にアイデアを公募する」というフランス政府の発表が、あまりにも素早くなされたため、一部のパリジャンには計画的な放火だったのではないか、といった陰口もささやかれたと今回聞きました。

 それくらい、その種の政府発表について、悪い評判ばかり耳にしています。

 そもそも、今回焼け落ちた「尖塔」は、決して12〜13世紀の創建当初からあったものではありません。

 フランス革命(1791−)の混乱の中、一度は荒れるに任せられたノートルダムが再建されたのは1845〜64年にかけてのことで、実はたかだか150年ほどの歴史しかありません。

 燃え落ちた尖塔などはウージェーヌ・エマニュエル・ヴィオレ・ル・デュック(1814−79)ら19世紀の建築家が作ったもので、当時なりの意匠であって、決して13世紀ではないという主張も、一方では根強くなされています。

 しかし、日本なら出てきそうな「12世紀の元来の姿に戻す」といった、穏当かつ学術的な議論は、ほとんど耳にしません。

 やれ、「屋上を空中庭園にして緑化するだ」とか、「全面をステンドグラスの屋根にしてネオンサインのように輝かせよう」だとか、「物理的な塔ではなく、レーザーを使って光の塔を建てたらいいだろう」だとか、様々な「今風」の意見が取り沙汰されています。

 一般にフランスの世論は保守的で、新しいものに懐疑的な大衆がいるのも事実です。

 他方、そんな中で創建当初はおよそ「パリの景観を破壊するもの」としか見られなかったエッフェル塔のように、世界で最も高い建物をパリにという、割り方つまらないコンセプトの鉄塔が建ったりもします。

 もともとはフランス革命100周年を祝うパリ万国博覧会の目玉として企画され、鉄橋建設で有名になっていたエッフェル社の技師、モーリス・ケクランを中心に提案、承認されて建てられたものです。

 日本で言えば「大日本帝国憲法」が作られた年の産物で、すでに130年の時間が経過しています。

 もともとエッフェル塔は「醜い」ので「時限つき」で建設が許可され、元来は取り壊されることになっていました。

 ところが、無線の電波塔として使えるという2次利用の可能性が出てきたました。

 実際に役に立つのと、第1次世界大戦のごたごたで結局取り壊されることがなく、戦後はラジオ放送が実用化したため今に至っているという、偶然の経緯で残ったものでありました。

 では、レーザーで映像だけライトアップして作る「ノートルダムの尖塔」に、そんな2次利用の可能性があるかと問われれば、まず99%、ないと私は思うのですが・・・。

 このあたりが、ポストトゥルースの限界であるように思います。エッフェル塔はそうではありませんでした。

 普仏戦争でドイツに負けた後、鉄血宰相ビスマルクのプロイセンに対抗して、空に向かって鉄の技術で国威を発揚した建物は、技術そのものがしっかりしていました。

 そのため、その後の電送線の鉄塔や電波塔の模範ともなり、70年後の日本にも東京タワーというレプリカが生まれるほど、しっかりした技術のモデルとして、20世紀の電波コミュニケーションを支え続けました。

 その間、エッフェル塔はすっかりパリの風物詩と化し、いまやエッフェル塔のないパリを想像する方が困難になっている・・・。

 そういう実体を顧みず、今回ノートルダムが燃えたのをいいことに、とてつもない客寄せパンダを作り出せばよいのだ、式の議論が一方にあります。

 こうした風潮を「またマクロン一派の最悪なネオリベラリズムがフランスを食い物にしていく・・・」と、苦々しい目で見ている良識的な知識人、学識経験者も少なくないようです。

「彼らは何でも商売のタネにしかしない。誰かの不幸だってキャンペーンに活用するような連中だ」と、ある友人は吐き捨てるように言いました。

 ここ15年ほどドイツとの縁ばかり深く、パリは久方ぶりでもあり、反マクロンのデモなど直接目にはしていなかったのですが、「なるほど」と、改めて首肯させられた次第です。

 もちろん、反論もあります。

「ポンピドーセンターも、オペラ・バスティーユも、レ・アルのショッピングモールも、最初は奇抜に見えたかもしれないが、今では誰もが普通だと思っている」

「あれだけ評判が悪かった、ルーブル美術館のガラスピラミッドも、結局はみな慣れてしまった。目新しいのは最初のうちだけで、どんな奇抜な代物が登場しても、すぐに飽きられてしまうだろう」と話す友達もいました。

 醒めた見解を示した彼はコンピューターサイエンスが専門で、伝統といったことに懐疑的な意見でした。

 しかし、逆に「新たなものを作り出していくこと、革命こそがフランスの伝統なのだから、今回も一大変化があった方がフランスらしいと言えるだろう」といった見解もありました。

 賛成反対、いろいろな声を耳にしましたが、私と同年配のある教授職の友人の言葉が一番私の胸には響くように思われました。

「いろいろな案があると言うけれど、本当に自由にいろいろな案が出ているのだろうか。私は疑問だ」

「ニュースで報じられるは、すでにその時点で選ばれたものであって、その中のどれが通っても、誰かが儲かることがすでに決まっているのかもしれない」

「自由でも何でもなくて、あらかじめ検閲された『候補』だけが広く報じられ、その中には最初からダミーとして紛れ込んでいるものもあるように思う」

「公募して選ぶなどといっても、しょせんは何も自由などなくて、すべては出来試合、しかも利権だけが決まった出来試合で、ノートルダムのことなど、どうでもいいんのではないだろうか?」

 歴史と伝統に深い思索のある人の言葉として、このような観点からの新自由主義批判は、非常に重みが感ぜられました。

「儲かりさえすれば何でもいい」

 あるいは、百歩譲って

「多くの人の耳目を引いて、支持が集まるように見え、お金の流れが作り出せれば何でもいい」

「フランスとはそういうものではなかったはずだが・・・」という言葉が、心に深く残りました。

筆者:伊東 乾

JBpress

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