「青二才の出しゃばり」北朝鮮国内で金与正氏に批判
2020年6月20日(土)5時43分 デイリーNKジャパン
北朝鮮は16日午後、2018年に行われた南北首脳会談後に建てられた南北交流の象徴とも言うべき、南北共同連絡事務所を爆破した。
それに前後して、北朝鮮各地では脱北者を糾弾する大会や学習会などが開かれているが、同時に国営メディアも、大々的な反脱北者、反韓国キャンペーンを繰り広げられている。
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は18日、「裏切り者どもには無慈悲な懲罰のみが下されるだろう」というタイトルで、16日に行われた開城(ケソン)工業団地内の南北連絡事務所の爆破について北朝鮮国内の「各界の反応」を伝えている。
電力工業省の局長、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍官(将校)、社会科学院の社会政治学研究所の所長、朝鮮職業総同盟中央委員会委員長など、「各界」というには限られた業界の錚々たる顔ぶれが、韓国と脱北者を口汚く罵っているが、ここでは平壌建築大学の学生、リ・ヒョクソン氏の意見を一部抜粋して紹介する。
北南協同連絡事務所の爆破は、南朝鮮の人間のクズどもと、やつらを庇護する者どもの特大型挑発妄動を一切許さないというわれわれの断固たる懲罰意思の示しで、挑発者どもに下す恐ろしい鉄槌だ。
使いみちのない見にくい姿が消え、3年間溜まったつかえがスッキリ解消したようだ。
しかし、これは始まりに過ぎない。
われわれの命と同じ最高尊厳を冒涜し、汚いゴミクズを撒き散らし、神聖なるわれわれの地を汚した汚らしい犬どもを絶対にそのままにしておくわけにはいかない。
(中略)
山を丸ごとひっくり返し、海を全部埋めたとしても、湧き上がる復讐心を抑えられないのが、今のわれわれ青年の心情だ。
わが人民の湧き上がる怒りをよく知る朝鮮人民軍総参謀部は、既に各前線において、当該地域を人民に開放する立場を示した。
一旦前線地域が開放されれば、われわれ青年大学生たちは、人より先に走り寄り、醜悪な人間のクズどもの生息地である南朝鮮の地にスッキリとビラの雷を浴びせかける万端の体制を整えている。
国営の朝鮮中央テレビも17日のニュースで、「われわれの最も神聖な最高尊厳をあろうことか冒涜したゴミどもと、その妄動を黙認した裏切り者どもを徹底して懲罰しようとするわが人民の報復の熱気が日ごとに熱くなっている」として、平壌市民の怒りの声を伝えた。
国の行うキャンペーンに合わせて大規模集会や学習会を開き、メディアに「怒れる人民の声」を伝えさせるのはいつものパターンだ。
北朝鮮の人々は、毎週行われている生活総和(総括)などで、政治思想や決められたテーマに沿って、「自分の意見」という名の建前を並び立てることに慣れているため、マイクを向けられると、「南朝鮮の人間のクズは…」などと自動的に出てくるのだろう。
一方で、国営メディアが決して伝えることのない北朝鮮の人々の本音が伝わりつつある。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)市の幹部の話として、爆破シーンを見た幹部たちは「まともな建物を破壊したのが何の自慢か」と、情けないという反応を示したと伝えた。
「北南和解の象徴だった連絡事務所を爆破したことは、政治的、経済的利益も得られず、国際社会の敵対感を大きくする、青二才指導者の早まった行動」
「開設されて2年も経っていないのに、頭にきたからと爆破してしまえば、国際社会がわが国をどのように見るだろうか」(幹部)
この幹部は「昔から『雌鶏歌えば家滅ぶ』ということわざがあるが、最近青二才があれこれでしゃばって、大騒ぎしていると思ったらついにやらかしてしまった」と述べ、「女性がでしゃばればうまく行かない」という前時代的なことわざを使って、金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長を批判した。
中国に駐在する北朝鮮の貿易機関の幹部も、国が貧しいのは世襲制のせいだとして、米韓を敵視し、核とミサイル開発で国庫を使い果たし、国民を犠牲にしていると、体制批判に及んだ。
またこの幹部は、制裁にコロナ対策による苦境で生活苦に追い込まれた人々の怒りが、当局に向かっており、体制安定のために韓国と脱北者という外部の敵を利用するといういつものやり方を使っているが、結局は破局をもたらすとも述べた。