ロシア、投資獲得狙い地方間の競争が激化

6月20日(木)6時0分 JBpress

ロシアのサンクトペテルブルクで開かれた経済フォーラムに際し、国際メディアの代表者らを前にした会見に臨むウラジーミル・プーチン大統領(2019年6月6日撮影)。(c)YURI KOCHETKOV / POOL / AFP〔AFPBB News〕

 サンクトペテルク国際経済フォーラム(SPIEF)についてはすでに安達祐子氏が触れているが(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56678)、参加者や分科会のテーマを詳細に眺めてみると、普段では気がつかない意外な点が見えてくる。

 その一例として本稿では、フォーラム枠内で開催された地方の投資環境ランキング評価について取り上げてみたい。


注目を集める「地方の投資環境評価」

 SPIEFはロシア政府が「ロシア版ダボス会議」として、ロシア国内外、特に欧米の政府や企業関係者への自国の立場などをアピールする機会の一つともとらえられている。

 毎年大統領を筆頭に主要経済閣僚やロシア企業幹部が大挙して参加し、それぞれの立場からプレゼンテーションや参加者との議論に臨む。

 ウラジーミル・プーチン大統領が各国首脳を招いて開催する全体会合や、日露をはじめとした二国間の企業関係者による「ビジネス対話」のほか、テーマに基づき様々な分科会が開催される。

 その中で、近年注目を集めるようになってきたのが「地方の投資環境評価」だ。

 投資環境評価のセッションにはプーチン大統領こそ出席しないものの、今年は大統領府からベロウソフ経済担当補佐官、連邦政府からムトコ副首相(地方財政担当)が参加した。

 各連邦構成体(以下「地方」)の投資環境改善への取り組みに、政府としても強い関心を示している。

 地方の首長も大挙して参加する。

 上位の地方はランキング発表の後にコメントの機会が与えられるが、コメントできない地方の首長も多く参加する。このセッションは、いわば各地方の首長の「成績発表の場」なのだ。

 ロシア国内の関心の高まりとともにこのセッションに参加する報道関係者の数も年々増えているようだ。

 今年は報道関係者やロシア側の参加者が多かったため、外国人はほとんどは入れなかったとの話も聞こえている。


詳細なパラメーターで評価

 地方の投資環境評価は2014年に21の地方を対象にパイロット版が発表され、2015年以降は全国に調査対象を広げて実施されている。

 評価するのは、プーチン大統領が監査役会の会長を務める政府関係機関「戦略イニシアチブ庁」(ASI)および産業家起業家連盟(RSPP)、実業ロシア、オポラロシア、連邦商工会議所といったロシアの主要企業団体のほか、ロシアの大企業の経営者らも参加する。

 結果を取りまとめ、SPIEFの場で発表するのは例年ASIの長官である。

 各地方は、

(1)行政アクセス(企業登記、資産登録のしやすさ、事業免許や建設許可の取得の容易度など)

(2)企業・投資家への支援体制

(3)人材、ファイナンス、インフラへのアクセスの容易さ

 など50前後の項目(項目数は毎年少しずつ変化する)の基準で評価され、ランクづけされる。分析手法・順位を判定するパラメータはかなり細かい。

 ロシア語のみであるが、興味のある方はこちら(https://asi.ru/investclimate/rating/Metodology_2019.xlsx)から項目や分析手法の詳細をご覧いただくこともできる。


モスクワ市が初めて首位に

 2019年の結果を見ると、モスクワ市が評価の開始以来、初めてトップの座に立った。

 そのほか、タタルスタン共和国、チュメニ州は順位の変動はあったものの、モスクワを含め2年連続でベスト3の地位を維持した(上の表)。

 4位には前年の13位から大きく順位を上げたカルーガ州が入った。同州には独フォルクスワーゲンや三菱自動車、韓国のサムスン電子などの工場が立地することをご存じの方も多いだろう。

 同州は州政府による工業団地整備や投資関連手続きの窓口一元化など、2000年代の外資誘致のトップランナーといってもよい地方だ。

 評価の開始以来、常にトップを狙う位置につけていただけに、昨年の「トップ10からの陥落」はアルタモノフ知事にとって悔しい出来事だったに違いない。今年は見事に返り咲いた形だ。

 第5位のサンクトペテルブルク市には、トヨタ自動車や日産自動車などが工場を持つ。

 2000年代前半はマトヴィエンコ市長(現上院議長)のもと、当時としては先進的な優遇措置、外国企業との対話窓口の設置などで日系企業を中心に大型製造投資をひきつけた地方だ。

 ロシア最大のコンテナ取扱量を誇る港湾など、物流面でも優位性を持つ。改めて投資誘致制度の整備が進めば、そのポテンシャルに再び火がつく可能性は高い。

 上位10地方は安定して上位につけているところが多い。その一方で、大きく順位を上げるところもある。

 例えば、ロシア北西に位置するノヴゴロド州は、前年から15順位を上げて14位にランクインした。

 スモレンスク州も初のトップ20入りを果たした。バシコルトスタン共和国もトップ20に返り咲いた。


投資環境改善の競争が激化

 大きく順位を上げた地方があるということは、ランク外に転落する地方も当然ながら出てくる。しかし、それらの地方は「投資環境が悪くなった」ことを意味するものではない。

 カルーガ州の例を見て分かるように、投資環境整備の先頭集団を走る地方でも、他の地方がそれを上回る施策を打ち出せば順位を大きく下げる。

 これが意味することは、地方間での投資環境整備の競争が激化しているということだ。

 今年の順位を発表したASIのスヴェトラーナ・チュプシェワ長官は、「トップ20にランクインするのは年々難しくなっている。今年の20位前後の地方の投資環境整備状況を見ると、昨年のトップ10と大差はない」とコメントしている。

 少し手綱を緩めれば簡単に順位が落ちてしまう。これは各地方の首長にとって大きなプレッシャーだろう。

 だが立場を変えて外国企業の視点で見ると、また違った風景が見える。

 投資環境の改善がロシア全土に広がれば、それだけビジネス拠点の選択肢が広がることにもつながる。

 筆者は以前、在ロシア日系企業への活動実態調査アンケートの結果をもとに、ロシアでのビジネスは意外に儲かるとする論考をお届けした(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56059)。

 在ロシア日系企業はモスクワに大部分(200社弱)が拠点を置き、あとはサンクトペテルブルクとウラジオストクに40〜50社がそれぞれ立地する。

 日系自動車部品メーカーの多くは、ロシアの自動車産業の中心であるヴォルガ川流域に立地する。

 地方の投資環境改善が進めば、より自社の戦略に即した地方に工場を立地する、あるいはビジネス拠点を構えることもしやすくなることが期待できる。

 ロシアの投資環境整備は、国全体の動向を見るだけでなく、地方の動向にも目を配る時代になってきた。

筆者:梅津 哲也

JBpress

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