<コラム>中国の超音速ステルス無人機「暗剣」とは?ネットで広まった写真に注目

6月24日(日)15時0分 Record China

6月5日、中国の無人機「暗剣」の画像が中国インターネットのソーシャルメディアに現れた。中国航空工業第一集団の瀋陽航空機設計研究所が開発するこの無人機は、ステルス性能を持ち、超音速で飛行できると推測されている。写真は「暗剣」の模型。

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6月5日、中国の無人機「暗剣」の画像が中国インターネットのソーシャルメディアに現れた。中国航空工業第一集団(AVIC)の瀋陽航空機設計研究所が開発するこの無人機は、ステルス性能を持ち、超音速で飛行できると推測されている。しかし写真に写るこの機体が単なる実物大模型なのか、それとも飛行可能な実証試験機なのかはわかっていない。「暗剣」の開発がどこまで進んでいるのかに関心がもたれている。

「暗剣」についての情報は少ないが、その外観から、かなりの運動性があり、相当な空対空戦能力があるのではないかと推測する記事がある。電子版Jane’s 360(2018年6月7日付)では、「暗剣」を運動性の高い超音速の無人制空戦闘機、もしくは敵地に深く侵入する攻撃機ではないかと考えているようだ。

一方で、「暗剣」が試験実証機的な特徴を多く持っているとして、無人僚機技術試験プラットフォーム、または先進航空機製造技術実証機ではないかと推測する記事、あるいは高速標的機ではないかという推測もある。

「暗剣」の模型がはじめて公になったのは2006年の珠海航空展である。また縮尺型の実証機がすでに飛行していたことが報告されていた。しかし、実物大のものが確認されたのは、今回が初めてだ。

アメリカの軍事ジャーナリスト、ディビット・アックスは、アメリカの電子メディア、デイリー・ビースト(2018年6月18日付)で、「現在の『暗剣』がたとえ飛行できないとしても、中国航空工業第一集団が飛行可能にするのに、そう長い時間はかからないかもしれない」「アメリカからの知的財産の組織的な窃盗に支援されて、中国の防衛産業は急速に先進的な兵器の設計・製造能力を得ている」としている。

中国のステルス戦闘機J−20が最初に飛行したのは2011年で、7年後には実戦準備が整ったと中国空軍が宣言した。対照的に、アメリカのF−22戦闘機が初飛行したのは1990年だが、開発し前線に配備するのに15年かかった、と記事でアックスは書いている。

「暗剣」の目立つ特徴の一つが、F−35などに見られるダイバータレス超音速インレット(DSI)が採用されていることである。ターボファンエンジンは給気口から入った超音速の空気をエンジンに届くまでに減速させないと効率が悪くなる。そのために空気を減速させる複雑な構造が必要になるが、DSIならそれなしで超音速飛行が可能になる。またDSIは重量軽減やステルス性能の向上に効果があるとされている。

中国は広く自国の戦闘機にDSIを採用しており、その特徴はJ−20、J−31、JF−17、J−10などに見られる。DSIではマッハ2前後を超える速度を出すには不利になる。「暗剣」にはいろいろな噂がありその中にはマッハ5以上で飛行する極超音速機ではないかという推測もあった。しかしDSIが採用されているのを見ると、「暗剣」はマッハ2をはるかに超える高速で飛行するような機種ではないことがわかる。

ネットに現れた写真からは、給気口の側面に「暗剣」という文字が中国語で描かれているのがはっきりとわかる。一方で、機体の尾部は右側の垂直尾翼の後ろ以降が見切れている。写真からは左側の降着装置(着陸用の車輪と脚柱)の扉の縁がノコギリの刃のようにギザギザになっていることが見て取れる。これはステルス機の特徴で、Xバンドのレーダーに対しての低観測性に効果的で、特に交戦精度のトラッキング(追尾)を難しくさせるのに効果があるとされている。

写真では、スタッフらしき人々と一緒に「暗剣」が写っており、人間の大きさから「暗剣」のだいたいの大きさが推定できる。澎湃新聞(2018年6月12日付)では、「暗剣」は「全長約13メートル、最大離陸重量12トン以上、ペイロード1〜1.5トン程度、機内燃料での作戦半径約1000キロメートル程度」と見積もっているようだ。「エンジンは1基であり、『暗剣』が十分な性能を発揮するには、おそらく現在開発中の大推力エンジン、WS−15が最適となるだろうが、技術的な問題などで量産が難しい場合は、WS−10の改良型が搭載されるかもしれない」としている。

ビジネス・インサイダー(2018年6月5日)に掲載された英国王立防衛安全保障研究所の航空戦の専門家、ジャスティン・ブロンクの発言によると、「暗剣は全く異なった設計理念を表している」「安定した上下の動き(ピッチ)のために、『暗剣』は幾分長い機体になっており、F−22様式の垂直尾翼を持っている。それは超音速での性能と戦闘機としての能力に適合させていることを示唆している」としている。

さらにブロンクは、もしも大量に製造されれば、どう少なく見積もってもアメリカ軍戦闘機のミサイルを吸収し、それだけで効果的な戦闘機になりうるとしている。また、大量生産ができれば、物量が質となるとも言っている。

F−22やF−35のような戦闘機に代表されるアメリカ軍の戦術戦闘機で現在よく挙げられる問題点の一つが、搭載できるミサイルが少ないことだ。空対空ミサイルは、ステルス状態を維持したときにはF−22では最大8発しか搭載できない。F−35ではさらに少ない。

次世代戦闘機を語るときには、しばしば何度も撃てるレーザーのような兵器の話題が上がる。しかし、敵の航空機を攻撃できるような実用的レーザーが戦闘機のような大きさの機体に搭載されるのはまだかなり先になるだろう。

F−22などに搭載されているミサイルの多くは電波で誘導される。ロシアや中国は電子戦技術を非常に発達させており、レーダー誘導のミサイルはジャミングされて命中率が下げられてしまうといわれている。状況にもよるだろうが、強力なジャミング環境下でアメリカ軍が敵機を撃墜しようとする場合には、より高い命中率を期すために、一つの目標に同時に2発以上空対空ミサイルを発射しなければならない可能性が指摘されている。この場合、アメリカ軍の戦闘機が一度の出撃で攻撃できる敵機の数はさらに少なくなるだろう。そこに中国の大量の無人機が現れたらどうなるだろうかという課題を、「暗剣」の存在は暗示している。

無人機を戦闘機として使用する場合の利点としてよく挙げられるのは、無人機は大きな荷重に耐えられることだ。人間が耐えられる荷重は9Gくらいが限界だが、無人機にはそのような制限がない。他に利点としては、機内にパイロットやその脱出装置などを乗せる空間やペイロードもいらない。また有人機ならコクピットを覆うのに必要な透明の大きな窓(キャノピー)が必要だが、無人機ならいらない。キャノピーはステルス性能を相当悪化させると言われているが有人機では妥協している。

ドッグファイトで無人機に有利な点は多い。しかし、まだ無人機の空対空戦闘は実現的ではないという主張は多い。

無人機を地上から遠隔操縦する場合、無人機のセンサーが情報を送信し、地上の操作員がそれを見て操作し、さらに信号が無人機まで送られて実際に無人機が反応する一連の動作に、約2〜3秒くらいかかると言われている。対地攻撃無人機がすでに実用化されているのを見ればわかるが、地面にある目標を攻撃する場合には3秒の応答の遅延はそれほど問題にはならない。しかし、すばやい反応が求められる戦闘機同士の空中戦において、3秒の遅延は致命的な欠陥となる。

空対空無人機の別の可能性としては、遠く離れた陸上にいる操作員の反応を待たず、無人機自体が自身のAIで判断して空中戦を行うことだ。空中戦でAIが熟練したパイロットを破ったという報道はすでにある。この対戦がどのような状況で行われたかはわからないが、おそらく厳しいルールが課せられるなど、かなり制限された状況であったのではないかと推測される。なんでもありの実戦では、人間の頭脳はまだまだAIよりすばやく柔軟な反応ができるとされている。

機械が独自の判断で人を殺すことが許されるのか、という倫理的な問題もある。それを除いても技術面で自律型AIが有人戦闘機相手に空中戦を行えるまでには、さらなる技術の大幅な進歩が必要で、時間がかかるだろう。

中華網(2018年6月7日付)では、「暗剣」が無人僚機実証機の可能性があるとしている。J−20の設計者である楊偉は言う。「未来の第六世代戦闘機では、有人機と無人機が共に行動するようにならなければならない」「より高性能な第五世代機が完全に新しい設計の無人機を随伴させて共同作戦を行うことで、(第六世代機が)実現できるかもしれない」。記事では、「暗剣」がもしもJ−20に随伴する“無人僚機”であるなら、あるいは比較的小型のレーダーを搭載し、前方に進出してレーダー・プラットフォームを担当し、機内に2〜4基の空対空ミサイルを搭載して、有人のJ−20戦闘機と共同作戦を行うとしている。

有人機と無人機との密接な連携はすでに実現しつつある。AH−64アパッチ攻撃ヘリコプターと、無人機による連携がアフガニスタンの戦場で実際に行われている。使用される無人機は、RQ−7シャドーやMQ−1Cグレイ・イーグルだ。アパッチ攻撃ヘリコプターの搭乗員が近くにいる無人機の飛行経路をコントロールし、無人機からリアルタイムに得た映像を利用することで、効果的に敵を攻撃できるとされている。無人機を前方でセンサーとして使用できるようになれば、有人機が危険な場所に深く近づく必要はなくなる。

無人機が将来の戦場で、ますます重要な役割を担うようになるのはまず間違いない。今回の実物大「暗剣」の写真の登場で、中国が無人機を重視し、多額の投資をしていることが伺える。

中国は無人機の輸出にも力を入れている。300キロメートル以上飛行できる無人機については、MTCR(ミサイル技術管理レジーム)という国際的合意があり、かなり厳しい条件に合格しないと輸出できない。特に対地攻撃能力のある無人機の輸出は難しくなっている。MTCRは大量破壊兵器の運搬手段となりうる無人機やミサイル、及びそれらの部品・技術の輸出を規制するものだ。

ヨルダンやアラブ首長国連邦、エジプト、サウジアラビアは、アメリカに無人機の購入を申し出た。しかし、MTCR規制もあり、アメリカはこれを拒否している。結果、これらの国は無人機の購入先として中国へと目を向けることになった。

すでに中国は対地攻撃能力のあるCH−4偵察無人機のような先進的なシステムを9カ国に販売している。資料によって違うが、CH−4は最大345キログラムのペイロードを持ち、40時間滞空でき(武器搭載時は14時間)、1600〜5000キロメートルもの航続距離を持つとされている。

MTCRには、日本やアメリカ、ロシア、英仏独伊、インドやカナダ他、世界で重要な役割を果たしている多くの国が参加している。中国はMTCRに参加していない。

■筆者プロフィール:洲良はるき
大阪在住のアマチュア軍事研究家。翻訳家やライターとして活動する一方で、ブログやツイッターで英語・中国語の軍事関係の報道や論文・レポートなどの紹介と解説をしている。月刊『軍事研究』に最新型ステルス爆撃機「B-21レイダー」の記事を投稿。これまで主に取り扱ってきたのは最新軍用航空機関連。

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