苦しいロシア:ITに活路見出す

6月27日(木)6時0分 JBpress

あなたはプーチン大統領の活動を支持しますか? (出典:レバダセンター)

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 6月20日モスクワ時間正午、毎年恒例のウラジーミル・プーチン大統領のダイレクトライン、すなわち国民とプーチン大統領の直接対話の生中継が開催された。

 これは毎年末に開催されるプーチン大統領とジャーナリストの直接対話と並んでプーチン大統領が重視するイベントである。

(英語同時通訳付き映像はこちら=https://www.youtube.com/watch?v=JFyfu9um_Ts )

 第1回のダイレクトラインは2001年に開催され、今回は17回目(2004年、2012年は未開催)となる。

 今年は国営テレビチャンネルを中心に6局、ラジオ3局、さらにインターネット上でも同時中継が行われた。

 イベント開催前の全ロシア世論調査センターの発表によると、回答者の75%が同イベントを視聴すると回答、うち29%は番組を最初から最後まで見る、30%はプーチン大統領の回答を新聞、テレビ、インターネットで見ると回答、そして10%が見るつもりはないと回答している。

 プーチン大統領に対する質問は電話以外にも携帯電話のSMS、スマートフォン上のアプリ、インターネットの特設ページ、さらにロシア国内で最もポピュラーなSNSである「VKontakte」と「OdnoKlassniki」からも送ることができる。

 この多チャンネル化のおかげでイベント直前までに150万件の質問が寄せられたという。

 質問に答えるのはプーチン大統領はもちろん、ビデオコンファランスで各州の知事、官庁の大臣もスタンバイしている。

 これはまさにデジタル時代の目安箱である。

 しかしデジタルゆえのデメリットもある。番組のコールセンターは放送中に終始海外からの大規模なサイバー攻撃に晒され、生中継に支障をきたすこともあった。

 今年のダイレクトラインでは81問の質問が取り上げられ、プーチン大統領は4時間15分にわたってこれらの質問に回答した。

 景気低迷が長引くなか、今年は年初に年金支給年齢の引上げ、付加価値税税率引上げなど、国民に不人気な政策を導入したこともあり、国民から厳しい質問・苦情が寄せられることが予想されたが、大きな混乱もなく例年通りイベントは終わった。

 筆者はこのイベントを最初から最後まで見ていたわけではないが、周到な事前根回しが行われていることは想像に難くない。

 それでも4時間にわたる生中継をそつなくこなすプーチン大統領の能力には毎年感心させられる。

 今年のダイレクトラインの内容を個々に取り上げているときりがないので割愛するが、筆者がダイレクトラインを見て感じたのは、プーチン大統領に寄せられた質問・要望の多くが「ナショナル・プロジェクト」を意識させるものであることである。

 ナショナル・プロジェクトとはプーチン大統領が3度目の大統領に就任した2018年5月に発表した施政方針(May Decree)を具体化したもので、政府が優先して取り組むべき経済・社会問題12項目を定めたものである。

 その12項目とは①人口、②医療、③教育、④住宅・都市、⑤環境、⑥道路、⑦労働生産性・雇用、⑧科学、⑨デジタルエコノミー、⑩文化、⑪中小企業、⑫輸出促進である。

 この中で筆者が注目したのは⑨デジタルエコノミーである。

 今回のダイレクトラインの会場には、ロシアの最大手インターネット企業であるYandexのエレーナ・ブーニナ社長、大手セキュリティソフト会社Kasperskyの共同ファウンダーで現在はセキュリティシステム開発会社Info Watchのファウンダー・CEO(最高経営責任者)を務めるナタリア・カスペルスカヤの2人が招かれ、プーチン大統領への質問を行っている。

 従来、こうした国家的イベントに招かれて発言を求められるのはガスプロムやロスネフチといった大手政府系エネルギー企業、あるいはズベルバンクのような政府系銀行のトップであることが多かった。

 プーチン大統領のデジタルエコノミーへの思い入れの強さを物語っていると言えよう。

 プーチン大統領はこの日のダイレクトラインでYandexはロシア国内市場において巨人グーグルを凌ぐ優良企業であると称えた。

 そのおかげかどうかは定かではないが、Yandexの株価は同日史上最高値を更新するというおまけつきであった。

 ところで、今月末のプーチン大統領来日、日露首脳会談を前に気になるのは今年のダイレクトラインでプーチン大統領は日本に関して何を発言したのかであろう。

 6月21日付の産経新聞には「対日関係については『両国民は最終的な関係正常化を願っている。安倍晋三首相が私と同様、平和条約締結を望んでいることを確信している』などと述べた」と報じられている。

 しかし、筆者がロシア大統領府のサイトにアップされているプーチン大統領の発言テキストを確認したところ日本に言及しているのは2カ所のみである。

 一つは産経の記事にもある、欧米諸国による経済制裁がロシア経済に与える影響に関する質問に対してだ。

 2014年来の対ロシア経済制裁でロシアは500億ドルの経済損失を被った一方、西側諸国はEUが2400億ドル、米国が170億ドル、日本が270億ドルの機会損失を生じたと発言している。

 もう一つは各国の国防支出に関して、ロシアは480億ドル、ランキングは米、中、サウジアラビア、英、仏、日本に次いで第7位であるというくだりである。

(なお、世界的に問題になった「イルカ監獄」に関する部分で「日本海」という単語も出ている)

 いずれも日露間の平和条約締結という重要なイシューの文脈ではない。

 プーチン大統領の発言が削除された可能性もあるが、平和条約のような重要事項を削除するのも不自然である。内外各社の報道を見ても産経以外に日露平和条約に関する言及はない。

 どうも腑に落ちないので、クレムリンの公式サイトを念入りにチェックしてみた。すると、プーチン大統領の当該発言は、ダイレクトライン終了後に行われたジャーナリストとのQ&Aでの発言であることが分かった。一番最後に指名された時事通信のロシア人記者の質問に対する回答である。

 さて、今年のダイレクトラインはプーチン大統領の支持率回復に寄与するのであろうか。

 BBCが報じるところでは、ダイレクトラインを同時中継したガスプロム系テレビ局NTVのユーチューブチャンネルでは「高く評価」6100件に対して「低く評価」が7万5000件に達した。

 他のテレビ局のユーチューブチャンネルでも同様の傾向であったという。

 プーチン大統領の支持率を少し長いスパンで見てみよう。

 このところプーチン大統領の支持率低下が強調されるきらいがあるが、プーチン大統領の支持率が低下したのは今に始まったことではない。

 2008年に景気がピークアウトして、その後の景気減速に合わせて支持率も低下、2013年11月にはボトムとなる61%を記録している。

 その後の支持率急回復はウクライナ紛争を契機とした愛国心の高まりという特殊要因によるものとみるべきであろう。

 筆者はプーチン大統領の支持率の根幹は経済にある、すなわちロシア国民を豊かにしたことにあると考えている。

 1990年代の2000%を超えるインフレの日々、つまりルーブルが紙切れになった時代を終わらせたのはプーチン大統領の最大の功績である。

 今年のダイレクトラインでプーチン大統領が1990年代の経済の話題を持ち出したことは、現在の経済政策が手詰まりであることを如実に示しているようにも思える。

筆者:大坪 祐介

JBpress

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