失政続きの習近平がゴミ問題に熱心に取り組むワケ

7月11日(木)6時12分 JBpress

(福島 香織:ジャーナリスト)

 中国湖北省の武漢市新洲区で6月末から7月にかけて、ゴミ焼却発電所建設計画に反対する大規模な住民デモが連続して起き、警察と衝突する騒ぎが起きた。

 香港の大規模デモの国際報道の影に隠れているが、中国では近年、けっこう大規模デモが起こっている。特にゴミ処理場建設にまつわるデモが目立つ。というのも中国は今や世界最大の都市ゴミ発生国。都市部の焼却ゴミは、2015年は1日あたり23.5万トン前後だったが、2020年には59万トン以上に増える見込みだ。2030年には米国の3倍のゴミ排出国になるという推計もある。このため習近平はゴミ政策を中心に環境問題対策にたいそう熱心である。2017年暮れには海外ゴミの全面的禁輸措置に踏み切り、「中共ゴミ革命」ともいえる政策を打ち出した。また、各地でゴミ焼却施設の建設プロジェクトが一気に進む中、2019年6月初頭にはゴミ分別処理に関する大号令を発令した。

 習近平政権はなぜ、ゴミ政策に熱心なのか。中国の“ゴミ”をめぐる問題について、俯瞰してみたい。


増え続ける住民の建設反対デモ

 武漢の反ゴミ焼却発電所建設計画デモは6月28日から始まった。最初は百数十人程度の住民が建設計画説明会の日に建設反対のチラシをまいたりする程度の集会だったが、地元政府側が警察を呼んだため、住民の怒りを呼び、大規模化。夜には衝突が起きた。このとき、警官隊がデモ隊に暴力を振るう様子の映像が一部ネットに流れ、それがさらに住民の怒りを呼び、連日大規模化してデモが繰り返されていった。1万人規模にまで膨らみ、解放軍の“タンク”出動といったデマも流れた。最終的にはデモ隊とほぼ同じ規模の警官隊が投じられ、高圧放水車や装甲車まで出動して、デモは7月4日までに鎮圧されたという。逮捕者は20人前後出た模様だが、工事自体はとりあえず止まっているようだ。

 このデモが大規模した背景には、この地域の“ゴミ処理場”汚染が長年にわたり深刻な状況にあることが挙げられる。

 建設予定地は陽邏新城という地域である。もともとあった陽邏村という村が都市化された地域だ。12年前にこの地域に埋め立てゴミ処理場が造られたが、以来、地下水・土壌汚染が続いていた。村民に“がん患者”が異様に多いとも言われ、「雨が降るたびに黒い水が付近の川に流れ込んでいた。その川の魚は全部死に絶えた」と住民は訴えていた。

 地元政府は住民の訴えを聞き入れ、2020年にゴミ埋め立て処理場を閉鎖することになった。だが、この埋め立て処理場あとに、再びゴミ焼却発電所が建設されるという話が一方的に進められていた。住民はこれに気づくと当然反対した。武漢にはすでに5カ所のゴミ焼却処理場があり、これら焼却処理場による環境汚染はCCTV(中国中央電視台)などでも報じられていた。

 SNSの書き込みをみると、住民たちは「ゴミ焼却発電所建設に絶対反対ということではない。もう少し居住区から離れたところにしてほしい、ということだ」と主張。現在の建設予定地と一番近い居住区はわずか800メートルしか離れていない。半径3キロ以内には20の居住区に30万人が暮らし、学校も2つあるという。政府は「住民の声に耳を傾け住民の同意がなければ、工事は始めない」と説明するが、住民は政府の言うことを信じていない。

 近年、中国ではゴミ処理施設をめぐる地元住民の抗議運動が増え続けている。広東省雲浮市郁南建でも6月19日から、ゴミ焼却発電所建設に反対するデモが発生した。こちらは3日後、郁南県政府が計画の白紙撤回を発表。湖北省仙桃市でも、着工して2年目のゴミ焼却発電所プロジェクトが大規模デモに遭い、6月26日に仙桃市はプロジェクト中止を決定した(その後、住民を説得し計画を再開したという情報もある)。

 ゴミ焼却発電所建設反対のデモが頻発するのは、このようにデモによって建設計画が中止になるという成果を上げているからだ。ゴミ焼却発電所建設プロジェクトに関して、習近平政権は庶民の反応や世論をかなり気にしながら進めている。


環境汚染を引き起こしてきた「ゴミの焼却」

 中国のゴミをめぐる問題は、中国人の生活水準の向上に伴い、きわめて深刻化している。

 2017年の外国ゴミ禁輸措置も、中国人のゴミ問題への意識の高まりが背景にある。当時、中国のゴミ汚染があまりに深刻で、国内で発生するゴミを持てあましているのに外国からリサイクルゴミを輸入することに、住民は矛盾と嫌悪を感じていた。政権はそうした住民の感情を無視できない状況になったため、外国ゴミ禁輸措置を導入することになった。

 中国の都市部のゴミは、これまではだいたい6割が埋め立てられ、3割が焼却、未処理廃棄が1割の割合で、主に農村地域、郊外で処理されてきた。だが、ゴミの埋め立ては、農村の土壌や水質を汚染する。埋められたゴミが、“がん村”と呼ばれる、やたらがんの罹患率の高い農村を生んでいるとも言われ、しばしば農村デモや官民衝突の原因となってきた。

 ゴミの埋め立てによる環境汚染を防ぐために急がれているのが、ゴミ焼却発電所の建設だ。政府は「欧州レベルの先進技術を使い、しかもその熱を発電に利用するので、エコな再生エネルギーを利用できる」と訴えてゴミ焼却発電所の建設を推進してきた。しかしこれまでのゴミ焼却処理施設は機能が弱いまま大量のごみを分別せずに焼却していたため、深刻な環境汚染を引き起こしてきた。このため「ゴミ焼却」と聞いただけで、住民は激しい拒否反応を起こす。

 過去、大規模な抵抗運動として比較的大きなニュースとなったのは、2014年の杭州で起きた大規模デモの官民衝突だ。このときは10人のデモ参加者が負傷し、警察側も29人が負傷する騒ぎとなった。デモの発生を防ぐために政府が住民に十分に説明せずにプロジェクトを進めようとする場合もあるが、それがさらに強い不信と抵抗を生んでいるのは言うまでもない。実際、いくら機能の高い焼却施設でゴミを燃やしたとしても、灰に有害物は混じっている。ダイオキシンが全く発生しない焼却施設の建設も難しい。住民が抵抗するのも無理はない。


習近平が発した「ゴミ分別」大号令

 こうした状況で習近平は6月初め、「ゴミ分別」大号令を出した。ゴミ処理の問題は、リサイクルと、ゴミを出さないという意識を徹底させるしかない、ということだ。新華社通信(6月3日付)によれば、習近平は“重要指示”として、ゴミの分別を実行し、広大な人民群衆の生活環境を守り、資源を節約することを強く打ち出した。さらに「ゴミの分別で重要なのは科学的管理の強化であり、効果的なメカニズムの形成であり、習慣の養成だ」とし、「広大な群衆にゴミ分別の重要性と必要性を認識させ実行させるために有効な監督と指導を行う」「多くの人々に行動を起こさせ、ゴミ分別のよい習慣を育て、全社会すべての人が一緒になって生活環境改善に努力し、ともにエコを発展させ、持続可能な発展に貢献しよう」と呼びかけた。

 習近平は2016年12月の中央財経指導小組会議の席でも、「ゴミ分別制度の普遍的推進とゴミ分別の収集、運輸、処理のシステムの確立を急ぎ、関連の法律制定を急ぎ、政府で推進し、全民参与で、その土地に適したゴミ分類制度を打ち立てよ」と指導。以来、ゴミ分別は習近平の政策の中でもかなり優先順位の高いものとなっている。目標としては、2019年から、全国の地区クラス以上の地方都市で、全面的に生活ゴミの分別工作を開始、2020年に46の重点都市で基本的なゴミ分別処理システムを建設し、2025年末までに全国の地区クラス以上の都市でゴミ分別処理システムを確立するという。

 この“中共ゴミ革命”の尖兵に選ばれた都市の1つが上海だ。人口2600万人以上の上海から出る生活ゴミは毎日2.6万トン、年間900万トン以上。上海では7月1日から「上海市生活ゴミ管理条例」が施行され、生活ゴミは、リサイクルゴミ、有害ゴミ、生ごみ、乾いたゴミの4種類に分類して捨てることが義務付けられた。違反すれば、個人に対しては50〜200元の罰金、企業には最高5万元の罰金が科される。

 上海のゴミ分別は2018年11月に始まった。習近平が上海を視察したときに「ゴミ分類こそ新しいファッションだ!」と発言。鶴の一声で生活ゴミを完全に4種類に分別して捨てることが決められた。

 ちなみに、このゴミ分別号令は当初、上海市民をかなり混乱させた。貝殻は乾いているのに生ごみ、紙おむつは湿っているのに乾いたゴミに分類されるなど、何が生ごみ(中国語では湿ゴミ)で何が乾いたゴミ(乾ゴミ)なのか、分別の基準が分かりにくかったためだ。住民は「分別が難しすぎる」と悲鳴を上げていたが、厳しい監視があり、しかも罰金を科せられるようになれば、面倒くさがってはいられない。

 飲食店やホテルではゴミになるものをできるだけ出さないよう指導されているので、これまで当たり前のように提供されていた使い捨て容器やホテルのアメニティなどは積極的には提供されなくなった。

 7月1日の条例施行第1日目、上海市では3600人のゴミ検査人が出動し、4000の居住区やホテル、店舗のゴミ分別状況を検査し、600枚の違反切符を切ったという。ちなみにこの条例の適用は、上海居民だけでなく、旅行者も含まれるので、上海旅行中にうっかりゴミを分別せずに捨てると罰金が科せられる。


習近平が熱心にゴミ問題に取り組む理由

 ところで、中国の最高指導者が自ら先頭に立ってアピールする政策がゴミ問題、というのはちょっと奇妙な感じもする。“ゴミ分別革命”の大号令の前は、“トイレ革命”があった。農村のトイレの衛生環境改善のために、中央財政から70億元の予算を投じて、3万の農村に1000万個の農村トイレを造った。ゴミ分別も農村トイレも確かに中国庶民にとって切実な問題だ。だが中国は外交と経済で大きな岐路に立ち難しい舵取りを迫られているというのに、最高位のトップが先頭に立って号令をかけるテーマなのか。

 これについては、中国のネット上でもいろいろ論評されている。1つは、習近平は外交でも経済の舵取りでもすべて失敗続きなので、最近はトイレやゴミの問題くらいしか自ら主導権をとれなくなったという見方。もう1つは、庶民の支持を勝ち取ることができれば、外交や経済のマクロ政策での失敗をうやむやにできると考えているのかもしれない、ということだ。習近平はトイレとゴミの問題だけでなく、養老院サービス、児童の視力向上(中国の近視人口は6億人で世界一)、病死家畜の廃棄問題といったミクロな政策に異常なほど熱心にコミットしてきた。こういった暮らしに密着したミクロなテーマは、庶民に善政を執り行っている、というアピールには有効だ。

 いや、それ以上に習近平が一番恐れているのは米国でも経済減速でもなく、中国大衆、ということなのかもしれない。実際、庶民が大規模デモを起こす理由は、外交政策でも経済政策でもなく、ゴミ問題をはじめとする切実な暮らしの問題だ。しかも環境汚染問題に伴う住民デモは農村と都市の両方で起きており、広範化、大規模化しやすい傾向がある。

 米国の中国語ニュースサイト「多維新聞」は、1986年の台湾の鹿港鎮における米デュポン社の化学工場建設プロジェクトに反対する抗議デモが国民党一党支配を揺るがし、戒厳令終結をもたらし、台湾の民主化運動の契機の1つになった例を挙げて、中国指導者が環境汚染抗議活動を特に恐れていることを示唆している。

筆者:福島 香織

JBpress

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