「先祖の遺体を掘り起こし火葬せよ」北朝鮮国民が当局命令に激怒

2019年7月14日(日)7時5分 デイリーNKジャパン


朝鮮民族にとって、先祖の墓は非常に大切なものだ。墓の場所を定めるには、風水師を呼んで明堂(気の集まると言われる吉地)を選ぶ。間違った場所に先祖を葬れば、その災は子孫にも及ぶと言われているからだ。


ソウルの東郊外にある忘憂里(マンウリ)の共同墓地は、山全体が土饅頭で覆われており、旧正月や秋夕(チュソク)ともなれば、数多くの人が家族連れで墓参りに訪れる。先祖が家族の絆をつないでいるこうした光景は、軍事境界線の北側にある北朝鮮でもさほど変わりない。


そんな大切な墓に対して、北朝鮮当局が撤去命令を出し、人々の怒りを買っている。


平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、当局が今月中に道路の周囲にあるすべての墓を撤去、つまり改葬せよとの指示を下したと伝えた。「墓の並びが無秩序で、山林緑化と風致造成に支障をきたす」というのが理由だ。期限までに撤去しない場合には、無縁墓とみなして撤去するとの警告も付け加えた。


庶民をさらに怒らせたのは、当局のこんな命令だ。


「墓を撤去した上で遺骨を火葬せよ」


朝鮮半島では、儒教の影響が強まった朝鮮王朝時代以降、土葬が行われてきたため、火葬に対する抵抗感が強い。特に亡くなった親を火葬することは「二度殺す」と言って忌み嫌われ、火葬は青少年死亡時や自殺などの場合を除いてあまり行われてこなかった。


韓国では墓にする土地の不足や管理の大変さから火葬を選ぶ人が急激に増え、1993年に19.1%だったのが2017年には84.6%(韓国の保健福祉省の集計)にまで高まっている。 ただ、北朝鮮の人々は依然として火葬に対して抵抗感を持っているようで、次のような怒りの声を挙げている。


「先祖代々の墓を撤去するだけなく、火葬せよとはどういうことだ」 「家の運まで奪われる」 (地域住民)


怒りの火に油を注いでいるのは、その火葬に使う燃料を「自力更生」、つまり自費負担せよという命令だ。火葬にはかなりの量の薪や油が必要となるが、経済制裁で庶民の暮らしが圧迫される中で、自費で賄うのは非常に負担が大きい。平城(ピョンソン)の市場では今月初めの時点で、ディーゼル油1キロ(1.17リットル)が6500北朝鮮ウォン(約84.5円)、薪1立米が17万北朝鮮ウォン(約2210円)で取引されている。


庶民から先祖の墓を奪うことになったそもそもの原因は、この国の最高指導者にある。


金日成主席は1974年、農業生産を増やす目的で「全国土段々畑化計画」を打ち出したが、「単純に耕作地を増やせば、生産量が増える」という生兵法だったため、著しい弊害を生んだ。


行き過ぎた段々畑の造成は、山林の破壊、自然災害(とくに水害)の多発、農業生産の減少、そしてついには1990年代の大飢饉「苦難の行軍」を招いた。国の配給システムが崩壊し、食べ物に窮した人々は、生き残るためにさらに山を切り開き、畑を作った。



韓国の国立山林科学院の資料によると、北朝鮮の山林899万ヘクタールのうち、全体の約3分の1にあたる284万ヘクタールが荒廃している。


それを修正するため、金正恩党委員長は2012年、朝鮮労働党の政治局会議で「10年以内に失われた山林を復旧し、全国の樹林化、原林化、果樹園化を完工させる」という計画を打ち出した。大筋としては間違っていないこの政策だが、その強引な進め方が庶民の暮らしを圧迫しているのだ。


「山林復旧戦闘第2段階の課題を積極的に推し進め、園林緑化と都市運営、道路管理事業を改善し、環境汚染を徹底的に防止しなければなりません。」(金正恩氏)


強引なやり方の一つが、庶民が苦労して山を切り開いて作った畑を、植林するからと有無を言わせず取り上げることだ。当然ながら強い反発を呼び、畑を潰した後に植えた苗木を引っこ抜いて作物を植えなおしたり、監視の目が届かない山奥に入って木を切り倒して畑を作ったりするなど、様々な抵抗にあっている。


そもそも、植樹節(みどりの日)の日にちの設定が間違っているとの指摘もある。元知は毎年4月6日だったのだが、金正日総書記が自分にまつわるエピソードにちなんで3月2日に変えてしまったのだ。ところが、北部はまだ雪解け前。気を植えようにも土が凍っているため、植えるフリだけして放置する。


こんなことのために、人々が心の拠り所としている墓が破壊されるのだ。

デイリーNKジャパン

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