タイとラオス住民が猛反発、メコン川上流の中国ダム

7月24日(水)6時0分 JBpress

ラオスを流れるメコン川

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(PanAsiaNews:大塚智彦)


 中国南部・雲南省を中心とする地域を流れるメコン川(中国名・瀾滄河)上流域に中国が建設し稼働を始めている水力発電用のダムによる影響が、ラオスやタイなどの下流域の周辺住民の生活環境、自然環境に深刻な影響を及ぼしていることが明らかになった。

 予告なしのダムの放水などによりメコン川下流域で水位が上昇したり、流れが変化したりして、周辺住民の漁業や農業、水運業、そして観光業まで被害を被っているのだ。

 タイやラオスの当局関係者や環境保護団体、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムなどメコン流域国で構成する「メコン川委員会(MRC)」などはこれまでも中国側に放流の事前通告やさらなるダムの建設中止、関係当局による協議を求めているが、中国側は「共存のための開発」と一方的な理屈で押し通そうとしており、軋轢が生じている。

 そんな中、中国側のメコン川開発について、タイの代表的英字紙「バンコク・ポスト」紙上で在タイ中国大使館の報道官が中国政府の意図を説明、それに対し環境保護団体が厳しく反論する事態となっており、中国とタイの対立が大きくクローズアップされている。

 メコン川は遠くチベット高原から中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムとインドシナ半島を貫いて流れる全長4200キロに及ぶ東南アジア最大の河川で、周辺流域の住民生活を長年にわたって潤してきたことから「母なるメコン」と呼ばれている。雨期などには水嵩が増して洪水になることや、逆に乾季には沿岸が干上がることもあるが、こうした季節による変化が周辺住民の生活リズム、自然環境のエコシムテムを支えてきた側面もある。


中国のダムがメコンに深刻な影響

 ところが近年、中国が自国領内のメコン川に複数のダムを建設し、電力需要に応じた計画発電やダムの貯水量の調整のために大量の放水を実施し、下流域が季節に関係なく水位が急に上昇したり、水流が激しくなったりという変化に見舞われている。

 特に2010年に完成した雲南省にある景洪ダム(発電量1750MW)による放水は、ラオス北部ボーケオ県やタイ北部などの流域住民の田畑、家屋、漁業に被害を与えていると米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」などは伝えている。

 中国では景洪ダムのほかに現在7つの水力発電ダムが稼働し、さらに雲南省、青海省、チベット族自治区などで20のダムが建設中あるいは計画中といわれ、下流域への影響のさらなる深刻化が懸念されている。

 MRCやタイ環境保護団体などによると、メコン川の水位や水流の季節に無関係な変化は流域住民の生活に加えて、周辺の自然環境にも影響を与え、生息する魚や水生植物、生物などにも減少や絶滅の危機といった問題を引き起こしているという。

 7月には環境NGOなどがバンコクの中国大使館に対し深刻な事態の実態を訴えるとともに流域の被害住民への補償を求める動きもみせている。


英字紙上での中国主張に反論掲載

 そうした中でバンコク・ポスト紙上に発表されたのが、前述の署名記事だ。7月12日の同紙に、在タイ中国大使館のYang Yang報道官による「誤った報道はメコン川での協力を阻害する」とする署名記事が掲載されたのだ。

 この記事の中で中国側はタイ国内でのメコン川に関する中国ダムの批判的な影響に関する報道について「報道は中国への誤った批判に満ち、メコン川流域の住民に資するために水資源を有効に利用しようとする中国、タイ及び関係国による共同の努力を無視するものである」と批判。

 その上で「中国は以下の事実を改めて確認したい」として①メコン川の環境保護は関係国の人々の生命の保護でもある、②関係国による環境アセスメントを実施して環境に与える被害を最小限にしようと努力している、③最近のメコン川の洪水や干ばつは地球的規模の気候変動によるものであり、中国のダム建設はこうした気候変動に対応するもので、乾季には水を流し、雨期には貯水することで水流を調整して下流域の経済的損失を軽減している、④中国は下流域各国に配慮し、緊密な意思疎通を保ちながら水力発電ダムのデータを共有しメコン川を友好の川、協力と繁栄の川とするため共に努力している、などと持論を展開した。

 これに対し同じバンコク・ポスト紙は7月17日紙面にタイの環境保護団体「チャンコン保護グループ」共同創設者でメコン流域8地方の関係者でつくる「タイ住民メコンネットワーク」のニワット・ロイゲオ氏の反論記事を掲載した。

「中国はメコン問題に真摯に向き合え」と見出しを打たれた記事の中でニワット氏は「中国大使館報道官が紙面で主張したような中国がメコン川の資源を活用して地域住民のために協力しているという趣旨には同意することができない」と反論。
「いかに美辞麗句を並べても中国が実際に行っていることはメコン川の環境を破壊し、損害を与えているだけである」「中国の上流のダムははっきり言って、下流住民の生活や自然環境になんの利益にもなっていない」とタイの立場から手厳しく中国側の主張に反論している。

 そしてメコン川の洪水や干ばつは「季節の変化によるもので、長年周辺国の流域住民約6000万人はそのサイクルの中で生活を営んできた」として自然と共存してきたことを強調し、「上流ダムの放水がそのサイクルを変化させた」と人為的な環境変化が中国によってもたらされ、それが生活環境、自然環境を破壊し、損害を与えているとの認識を改めて示した。

 その上で「我々は同じメコン川の水を飲んでいるという中国の主張は必ずしも同じ理解と協力関係を保障するものではない」と中国側の一方的主張に釘を刺した。

カンボジアのカンダル州を流れるメコン川で魚の頭を落とす女性。メコン川下流域の国々では近年魚類資源の激減が報告されており、その原因は上流に造られた中国のダムにあるとの批判も上がっている(2018年1月5日撮影)。(c)AFP PHOTO / TANG CHHIN SOTHY〔AFPBB News〕


周辺国の間でも対中国で温度差

 中国のこうした「独善的」な主張に基づく水力発電ダムの建設で大きな被害を被っているメコン川流域の各国だが、タイやラオスは中国との外交関係に一定の配慮を示しながらも「流域住民の生存権に関わる」としてメコン川問題に関しては厳しい姿勢を貫こうとしている。

 しかしその一方で同じ下流域にあるカンボジアはMRCのメンバーでありながらフン・セン政権が中国からの多額の経済援助のため「対中弱腰外交」と周辺国から批判を浴びる外交戦略を展開しているため、メコン川問題でも、被害や影響の細かい情報が不明で、特にことを荒立てる構えもみせていない。

 こうしたMRC内部の足並みの乱れも中国側に付け入る隙を与える結果となっているとの見方も強く、「母なるメコンの危機」をどのように回避して、メコンとともに生きる東南アジアの人々の生活と自然環境をどこまで守ることができるのか、流域関係国のみならず、東南アジア諸国連合(ASEAN)全体の問題として対処することが急務となっている。

筆者:大塚 智彦

JBpress

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