W杯で奇跡を連発させたロシア、剛力彩芽もびっくり?

7月25日(水)6時12分 JBpress

モスクワ市内を巡回する現代自動車(韓国)の走る広告バス。W杯では、日本代表チームよりも先に消えてしまった韓国代表だったが、広告企業はそんなこと御構いなしに、派手な広告を打っていた。

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サッカーW杯ロシア大会準々決勝、ロシア対クロアチア。ロシアのマリオ・フェルナンデス(下)のタックルをかわし、アレクサンドル・サメドフも振り切るクロアチアのイヴァン・ラキティッチ(右、2018年7月7日撮影)。(c)AFP PHOTO/Adrian DENNIS 〔AFPBB News〕

 ここ数年まだか、まだか、と指折り数えて待っていたW杯は、筆者の心の中では本当にロシアで開催できるのか、という不安に変わっていた。

 4月のモスクワ訪問時でさえ、延々と続く地下鉄入り口のお化粧工事や、道路周辺の舗装改修工事に、「これは大混乱になる」という失敗確信説に全面的に偏った中での7月の訪露は、しかし、まさに驚きの連続だった。

 モスクワに到着した筆者の目の前にはこれまでで一番美しいモスクワの光景が広がる。この国では物事はあっという間に180度転換する。

 世界はドナルド・トランプ米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領の首脳会談顛末を巡って騒いでいるが、ロシアで実際に日々何が起こっているかを押さえておかないと物事読み違えまい。

 まず、アエロフロートの東京発便が到着するシェレメティエボ空港Dターミナル。


乗り換えサービスが親切を加えて復活

 機内から到着ゲートに出ると、そこにはロシア人のSU(アエロフロート)係員がいて、翌日、日本ポーランド戦が行われるボルゴラード行きのフライトへの乗り換え案内をしているではないか。

 その昔、東京からの乗客を迎え、乗り継ぎ案内をするのはSUの日本人社員だったが、その役割の重さを理解できないSUは、このサービスをいつの間にか中止し、件の日本人社員はその後日本航空に転職してしまった。

 こんな事情を知る筆者に、到着案内係の再登場は、SU内部での革新的な考え方の変化があったため、としか思えない。

 機内食には、デザート+1として、今回はサッカーボールの形をしたチョコレートが付いていた。

 多くの乗客が成田を出発する時点で、すでにサムライブルーの日本代表ユニフォームを着て乗り込むのだから、そもそも特別なフライトだった、ということは言えるにしても、である。

 小技の効かない、団体志向のSUにして、こんな変化が出てきたロシア、きっとモスクワでもいろいろな驚きが日露・日ソ往復歴40年の筆者にも起こるのだろうと、期待は高まる。

 次の驚きは入国手続き。いつも長時間の列での順番待ちに、つくづくロシアに到着してしまったことを毎回後悔するパスポートコントロール(入国審査)。

 この理由の一つは、審査窓口が通常で5、6か所程度しか開いていないことによるが、筆者到着の日、何と40箇所もの窓口が開き、それも多くのブースに女性の審査官が配置されていた。

 筆者は、いつも通り「ロシアパスポート所持者」と書かれた列(ここが列の進み方が一番早い)に並び、順番を待つが、あっという間に自分の順番となる。

 日本のパスポートを渡すと、早速質問。


通常1時間の荷物が待ち時間ゼロに

 「あなたは中国人ではないのか?」

 よほど、その真意は?と聞き返したくなるのを我慢していると次の質問。

 「VISAで入国したいのか、あるいはFAN IDで入国するか?」

 筆者は3年間有効のロシアマルチビザを持っているがFAN IDは申請していないので、こんな質問は事前に考えもしなかったが、ここでFAN IDの威力を知った。

 ともかく、これまでにはなかった質疑応答の後、入国審査は1分ほどで終了、その速さに大いに驚く。

 従来、空港の入国審査時間が苦にならないのは、SUへの預託荷物が回転テーブルに現れるのに、時には1時間もの時間がかかることがあり、その間であれば、入国審査が早く終わってもあまり意味がないからである。

 ところが、この日は違った。

 最速記録で入国審査を終え、回転テーブルに近づくと、自分のスーツケースがコンベアの上を回っているではないか。預託荷物引き取りの待ち時間ゼロで、これも自分の中では最速記録。この国でこんなことがあるのだろうか。 

 さて、空港到着後の最後の段取りがタクシーの手配であるが、これはここ1年でタクシーアプリの使い勝手が大変良くなり、スマホから簡単にタクシーを呼ぶことができる。

 ただ、筆者の場合、飛行中にスマホの電源を切らなかったため、到着後スイッチを入れても、反応しない。やむなく、到着ロビーに店を構えるYandexTaxiのブースに駆け込む。

 係員は直ちに待機中のタクシーと会話すると、そのタクシードライバーがブースまでやって来て筆者を車に案内してくれる、という親切なサービス。

 料金はアプリ上に示され、それを到着後ドライバーに支払えばすべて終わり。外国人のタクシー難民があらゆる国際大会で大量に発生していたロシアのタクシー事情は、このW杯を契機に根本的に改善されたと言える。  


タクシーも様変わり 

 空港での驚きを長々と書きすぎたが、その驚きはタクシーに乗ってからも続く。

 運転手が「有料道路を使うか、無料ルートにするか」という質問をするのはそれほど珍しくないが、どちらが早いか、と聞くと有料道路だと自信をもって答えたのは驚きだった。

 実は、空港から都心に向かう際、高速道路は都心の外れで途切れてしまい、結局通常の幹線道路経由となり渋滞に巻き込まれるので、高速道路が早いわけでもない。

 これがこの日、渋滞はなく、目的地のモスクワ植物園近郊のホテルまで、ほぼ40分で到着した。また7月の滞在中、タクシーはよく利用したが、渋滞に巻き込まれたことは一度もなかった。W杯で交通事情までよくなったのだろうか。

 上記のように、ロシアの外国人訪問者への待遇は、官民を問わず劇的に変化したというのが筆者の観察である。

 すでに本号に先立ち、7月9日号当コラムには大坪氏が「ワールドカップで見違える国になったロシア」という記事を寄稿されているが、エピソードの重複を恐れながらも、本コラム寄稿者が2人も同じテーマで記事を出稿するほど、大きな変化が今回のW杯には見られた、ということだ。

 7/17の朝日新聞には、FAN IDを年末まで有効にする、というロシア政府の決定が報じられている。

 これは厳格な入国審査で有名なロシア移民局がその方針を変えつつある、ということだろう。今後、ロシア在住外国人の頭痛の種となっている労働許可や滞在許可のルールにも一定の影響を与えることと期待する。

 ソ連時代のロシア人のメンタリティーの中には、外国人=スパイ、という外国人観が色濃く残っていた。

 なぜこういう現象が起こったのか、諸説があるが、ソ連時代に比べ、ウクライナやベラルスなど衛星国、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルクメンスタンなどの中央アジアのソ連構成国がソ連の崩壊とともに自立した今、逆に見るとロシアにとっての外国人というのは、非常に増えたことになる。


外国人をスパイ扱い

 いや、ロシア国内にもチェチェンをはじめとする要注意地域があり、警戒対象の数は激増したことになる。

 これに対するロシアは、国内人口が今や1億4000万人と、日本の1億2500万人と1000万人程度しか変わらない。

 この人口が対日本比45倍という巨大な国土に分散しているわけで、今後外国人の重要性が強調されるようになる中で、外国人=スパイという感覚は国の発展を妨害こそすれ、プラスにないことは、KGB出身のプーチン大統領が一番よく知っていることと思う。

 今回、多くの日本人、外国人訪問者から好評だったものに、ロシア鉄道やモスクワ地下鉄が提供したフリーライド(無料乗車)がある。

 筆者はFAN IDを取得しなかったため、この恩恵に預かることができなかったが、地下鉄構内の案内を読むと、フリーライドは外国人だけではなく、ロシア市民にも平等に提供されていたことが分かる。

 あくまでも、基準はFAN IDを持っているか、チケットを持っているか、である。このフリーライドに近いものに、日本のJRが提供しているジャパンレールパス、という短期訪問者来日促進のための割引周遊券がある。

 ただ、このジャパンレールパスは、国内の日本人や海外在住の日本人は基本的に利用ができない。

 もちろん、海外在留歴10年以上で、そその事実を在外公館が証明できた場合、日本人も購入可能ということだが、無料ではないし、地下鉄など市内交通までカバーされているわけでもない。

 こう見ると、今回のロシアにおけるフリーライドプログラムは極めて大がかりだったことが分かるし、ロシア政府の大盤振る舞いだったと言える。

 筆者のソ連時代の経験では、地方に出張する場合、何日も前に外国貿易省に手紙を出して、日程、出張理由などを事細かく説明する。


プライベートジェットにも驚き

 ようやく了解が取れると、国内旅行ビザのようなものが発行され、それを基にようやくフライト、あるいは鉄道の予約、購入ができる仕組みとなっていた。

 この裏には例の外国人=スパイ、という考えがあったからだ。

 そんなソ連で生活した筆者から見ると、このフリーライドはロシア政府が極端に考え方を変えた結果としか思えない。無論、FAN ID申請の時点で、自身のデータをかなり提供しないといけない、とはいえ、である。 

 このほかにも驚くべき変化はたくさんある。例えば、ZOZOTOWNの前澤友作社長が交際中と言われる女優の剛力彩芽を、自身のプライベートジェットに乗せてモスクワまで遠出、7月15日のフランス対クロアチアで戦われた決勝戦を観戦したという話もある。

 このニュースに何を驚いているのかといえば、1つには、ロシアが日本のプライベートジェットでのモスクワまでの飛行を許可した点であり、2つにはこの若き日本人実業家が、往復16000キロも飛んで、日本チーム応援ではなく、フランス対クロアチア戦を観戦した、ということ。

 両方とも非常に意味深いことであり、別稿を立てることができるほどのテーマだと個人的には感じている。

 個人的エピソードで恐縮だが、大韓航空機撃墜事件が発生し、ニューヨーク発ソウル行きのKAL機がソ連上空でミサイル攻撃を受け墜落、乗客乗務員全員が死亡したという事件があった。

 民間航空各社は対ソ抗議のため、ソ連への乗り入れを中止し、JALのソ連経由欧州線も運行中止となった。

 その頃、モスクワで勤務していた女性と結婚するため、一足先に東京に戻っていた筆者の元に、欧州を大回りして件の女性が東京着、結婚式にようやく間に合ったという体験もあり、この前澤氏のニュースには冷戦の終焉、平和のありがたさといったこもごもの思いが湧き出す。

 今回のW杯に舞台を提供したロシアに対して、世界は非常に好意的な評価を与えている。

 その際たるものが、FIFA(国際サッカー連盟)のインファンティノ会長が決勝戦を前にゲームを総括した際に語ったこの言葉だろう。

 「本大会はW杯の史上最高の大会になった。世界はロシアに対する偏見を変えた」

 閉会式では、ロシア北部特有のスコールが襲い、インファンティノ会長もずぶ濡れになった。

 プーチン大統領専属のシークレットサービスは傘をプーチン大統領のみに差かけ、ゲストに対する配慮はゼロだった。

 ここにシナリオ外の突発的事象に対する反応には引き続き、“古き良き”ソ連の香りがするが、全般的には本当にうまいシナリオで現代ロシアでのW杯は終了した。

 個人的には、今回の優秀なシナリオを書いた外国人あるいは外国企業を知りたいと思っている。

筆者:菅原 信夫

JBpress

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