トランプ死刑復活:米国は野蛮化の道ひた走る

7月31日(水)6時0分 JBpress

死刑再開に執着するドナルド・トランプ大統領米首都ワシントンのホワイトハウスにて(2019年7月24日撮影)。(c)Roberto SCHMIDT / AFP〔AFPBB News〕

 米連邦政府による16年ぶりの死刑執行のニュースがいま、米国内で大きな話題になっている。

 ウィリアム・バー司法長官が25日に死刑復活を発表したが、背後にはドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)の強い思いがあったと考えるべきだろう。

 トランプは2015年、大統領選のキャンペーン中に「死刑」という言葉を口にして、本音を吐露したことがあった。南部ミシシッピ州に遊説に行った時のことだ。

 同州で2人の警察官が射殺された事件のコメントを求められたトランプは、こう返答している。

「警察官を殺害した人間、、動物だな。死刑。死刑を復活させるべきだと思う。復活されることを強く望む」

 トランプの言動を探ると、1989年にはすでにニューヨーク市の複数の新聞に死刑推進の意見広告を出していた。

「死刑を戻すべき。刑罰が重ければ、善良な市民を守れる」

 大統領になってからも、死刑復活の考えをたびたび口にしている。2018年10月にペンシルバニア州にあるシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)で銃乱射事件が起きて11人が殺害された時も、次のように述べている。

「反ユダヤ主義による犯罪だ。こうした犯罪が続くなら、死刑を復活させなければならない」

 重罪を犯した人間に対するトランプの本能的な反応が、死刑であるかに思える。罪を犯した者には罰が必要であり、極刑で償うべきとの考え方だ。

 ただ死刑に対する世界での考え方はいま逆で、死刑廃止が主流になりつつある。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが今年4月に発表した「死刑統計2018」によると、昨年の世界での死刑執行数は前年比で30%減である。

 ちなみに世界のワースト5は以下の国だ。1位中国(1000人以上)、2位イラン(253人)、3位サウジアラビア(149人)、4位ベトナム(85人)、5位イラク(52人)。

 先進国で死刑を推し進めているのは米国と日本くらいで、特に今回のトランプ政権による死刑復活宣言は時代を逆行する動きといえる。

 ただ死刑に関しては、個人の価値観で賛成派と反対派に明確に分かれ、国を2分するほどの議論が展開されている。

 ギャラップ調査によると、米国では現在56%の回答者が死刑賛成派だ。しかし1994年の調査では80%が賛成派だった。

 個人の考え方だけでなく、政府の捉え方も時代によって変化してきている。1972年、連邦最高裁判所は死刑を違憲と判断したが、76年になって複数の州で死刑執行を容認。そして88年には全州レベルで死刑を認めている。

 米国らしいのは、連邦最高裁の判断とは分けて各州が死刑の判断を下していることだ。

 現在50州のうち30州で死刑が容認されている。テキサス州を含む南部とカリフォルニア州を含む西部諸州が容認派だ。

 だがマサチューセッツ州やコネチカット州など、民主党が地盤にする東部のリベラル州の多くが死刑を禁止している。

 死刑を容認する理由として、「人を殺害した犯罪者は自らの命で罪をつぐなうべき」「被害者や遺族の心情を考えれば死刑はあってしかるべき」「法的な解釈においても、国民の意識においても死刑は妥当な刑罰」「死刑は凶悪犯罪の抑止につながる」といったものがある。

 一方、反対理由としては、「凶悪犯であっても、国家が人の命を奪うことは道義的にあってはいけない」「国際的な潮流は死刑廃止であり、日米は国連の死刑廃止条約を批准すべき」「誤判の可能性がある場合、死刑を執行してしまうと取り返しがつかない」「死刑は凶悪犯罪の抑止につながらない」といったものがある。

 賛否両論の最後に犯罪抑止についての理由を挙げた。

 死刑が犯罪抑止に「つながる」「つながらない」とする意見だが、2009年にコロラド大学が行った研究では、死刑は凶悪犯罪を抑止することにならないとの結果が出ており、犯罪学の分野でもすでに認知され始めている。

 筆者としては、死刑を復活させて加害者を殺しても何も生み出さないばかりか、さらなる悲しみを生み出すだけであると考える。

 加害者を殺すことで、被害者や遺族の気持ちが本当に整理できるのか。遺族の中にはそれで救われたという方がいるかもしれないが、国家があらたに人の命を奪う権利があるのかと問いたい。

 凶悪犯罪を犯した者は命で償ってくださいとの思考は道徳上、宗教上、説得力をもちにくくなっている。

 7月26日付の米「ネーション」誌で、次のようなことが述べられていた。

「世界にはすでに多すぎるくらいの暴力が蔓延している。政府が(死刑を行って)暴力で加担していてはいけない。米国はこれまで人権擁護のチャンピョンだったはずだ」

 トランプが死刑を復活させたことは、これまで民主党リベラル派が推し進めてきた社会政策の揺れ戻しの一端に過ぎない。

 人工中絶や移民問題が好例で、来年の大統領選に向けて、トランプは保守派を擁護する政策を推し進めている。トランプは以前、中絶容認派だったが近年はプロライフ(生命を守る)に立場を変えた。

 行政府のトップに君臨するトランプは、すべてではないが多くのことに強い影響力を及ぼす。米軍を動かすのも大統領である。

 その決断によって、米国だけでなく世界に余波が及ぶ。先週、ベトナムの首都ハノイに滞在した時、米陸軍の将校と出会った。彼は大統領の命令は絶対であると繰り返した。

「米兵の約8割は共和党支持者です。私もトランプ大統領を支持しています。命令は絶対で、軍隊を機能させるための明確なトップダウンの流れに揺るぎはありません」

 大統領という座に就いて2年半。トランプは着実に保守の波を拡大させつつあるかに見える。

筆者:堀田 佳男

JBpress

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