「日本こそ強制的な核査察を受けろ」と主張する金正恩氏のホンネ
2018年8月1日(水)13時2分 デイリーNKジャパン
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は30日(現地時間)、複数の米当局者の話として、北朝鮮が平壌近郊の山陰洞(サヌムドン)にある研究施設で液体燃料を使用する新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)を製造しているもようだと報じた。ここ数週間に撮影された人工衛星写真などによると、1基か2基のICBMを製造中とみられるという。
事実だとすれば、金正恩党委員長が米韓に対し「完全な非核化」を約束しながらもなお、軍事力を核戦力に依存していることになる。
だが、これはさほど驚くには当たらないことだ。金正恩氏は確かに、これから非核化に向かうことを約束した。しかし、それは自らの安全が確保されたら行うというものであり、「すでに非核化を始めた」と言ったわけではない。それ以前に、武装解除を約束したわけでもない。非核化をしようとしまいと、北朝鮮が軍事力を放棄することは決してないのだ。
兵士が飢え、強盗や性的虐待がまん延する朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍紀は、落ちることころまで落ちている。
そんな現状を考えたら、北朝鮮が多大な犠牲を払って整備した弾道ミサイル戦力を完全に放棄するということは、それこそ武装解除するに等しい。
もっとも、米国を狙う長射程のICBMについては、いずれ米国との駆け引きを経て放棄せざるを得なくなるだろう。ただ、米国に届かない短・中距離の弾道ミサイルには最後まで執着すると見られる。
北朝鮮の内閣などの機関紙・民主朝鮮は29日、日本が北朝鮮に対する「強制的で予告のない核査察」を主張しているとして非難する論評を掲載。「実際に強制査察を受けるべき対象はまさに、日本自身である」としながら、「日本は、決心さえすれば直ちにでも数千個の核兵器を作れる能力を備えたばかりか、核兵器の製造に必要なプルトニウムを大量保有して機会だけをうかがっている」と決めつけた。
こうした論評を通じて金正恩氏が言いたいのは、要するに「米韓とは対話が進んでいるが、日本はまだまだ危険だ。われわれも自衛力を保持しなければならない」ということだ。日本を仮想敵とすれば、中距離弾道ミサイルを持ち続ける口実にもなる。
このような主張を退け、北朝鮮に弾道ミサイルを完全に放棄させるには、やはり日朝の対話が必要になる。しかし、過去の歴史問題が横たわる日朝間の融和は、北朝鮮と米韓との取り組みにも増して難しいように思える。