加速度的にEVにシフトし始めた中国の自動車市場

8月2日(月)6時0分 JBpress

(花園 祐:上海在住ジャーナリスト)

 中国汽車工業協会によると、2021年1〜6月における中国の自動車販売台数は前年同期比25.6%増の1289.1万台でした。

 累計販売台数では2桁の成長を維持していますが、単月では前年同月比マイナスとなっている月もみられます。また市場全体では堅調さを維持しているものの、半導体不足などの懸念も出ており、下半期の動向に関しては懸念する声も聞かれます。

 こうした中、電気自動車(EV)をはじめとする新エネルギー車の販売は昨年に引き続き、好調に伸び続けています。すでに販売台数の約10台に1台が新エネルギー車となっており、中国自動車市場全体でのEVシフトがいよいよ本格化しつつあります。

 今回はこうした上半期の中国自動車市場について、各種データとともに解説していきます。


5月、6月はマイナス成長に

 月別販売台数を見ていくと、昨年4月から今年4月までは、一貫して前年同月比プラス成長を維持しています。しかし今年5月、6月の実績はそれぞれ、前年同月比で3%減、12.4%減となっており、約1年ぶりに前年割れという結果になりました。

 その大きな理由として、昨年の販売実績が高かったことが指摘されています。昨年は4月以降、コロナ流行に伴う各種封鎖措置の解除、並びに各種の経済刺激策が功を奏し、自動車販売台数が大きく増加しました。その結果、前年水準が高かったことに加え、各種刺激策による需要の先食いの影響が次第に現れてきたことで、今年の5、6月はマイナス成長に至ったと分析されています。

 このほか、日本国内でも問題となっている半導体部品不足による生産調整の影響も指摘されています。しかし、中国自動車市場は現在もやや在庫過多な状況であり、上半期販売への影響はそれほど大きくはないとみられます。むしろこの問題は、下半期にかけて顕在化してくるのではないかとの見方が一般的です。


中国系ブランドが躍進

 同期のメーカー別販売台数を見ると、1〜3位の顔触れは独フォルクスワーゲン(VW)系列の一汽大衆、上汽大衆、米GM系列の上汽通用という順番に変わりはありません。ただそれ以下の順位では中国系(民族系)メーカーの躍進が大きく目立ちました。

 4位の長安汽車(前年同期比64.2%増)、7位の上汽通用五菱(同53.3%増)、8位の長城汽車(同62.5%増)、15位の上汽乗用車(同48.2%増)はいずれも、全体成長率を大きく上回る成長率をみせています。これに伴い、中国系メーカーの市場シェアは2020年1〜6月は36.3%であったのに対し、2021年1〜6月は42.0%まで急伸しています。

 こうした中国系メーカーの躍進理由として、乗用車市場信息聯席会(乗聯会)は、半導体不足という市場環境に、中国系比較的迅速に対応できた結果だと分析しています。筆者はこれに加えて、中国系メーカーが得意とする新エネルギー車のシェア急増も一因であるとみています(詳細は後述します)。


セダンは「シルフィ」が依然トップ

 車種別販売台数では、セダンではここ数年首位を維持し続けている、日産系列の東風日産の「シルフィ」が25万台でトップの座を守っています。

 その他の日系セダンでは、トヨタ系列の一汽豊田の「カローラ」が17.7万台(3位)、広汽豊田の「レビン」が13.3万台(8位)となっており、この姉妹車の合計販売台数は約31万台にも上ります。

 スポーツタイプ多目的車(SUV)では、長城汽車の「哈弗H6」が18.8万台で首位でした。日系車としてはホンダ系列の東風本田の「CR-V」が13.5万台(3位)、XR-Vが9.8万台(5位)であり、ホンダ系列の2車種が上位に名を連ねています。


新エネ車は半期だけで昨年実績に接近

 冒頭でも少し触れた通り、今期の中国自動車市場の最大のトピックスは、新エネルギー車販売台数の急増でした。2021年1〜6月の新エネルギー車販売台数はなんと前年同期比217.4%増の114万台となり、今年上半期だけで昨年1年間の販売台数(136.7万台)にほぼ匹敵する販売台数を記録しました。

 また全体の新車販売台数に占める新エネルギー車の割合は9.4%に達し、6月に至っては12.7%にも上ります。実質的に、新車販売台数のうち約10台に1台が新エネルギー車となる計算で、中国市場におけるEVシフトが急速に本格化してきていることがわかります。

 新エネルギー車の車種別販売台数では、昨年の発売以降に驚異的な売上げを記録し続けている上汽通用五菱の「宏光MINI」が今期も好調ぶりを見せ、15.7万台でトップにつけています。米国EV大手のテスラからは「モデル3」(8.4万台)、「モデルY」(4.6万台)がそれぞれ2位、3位に入り、宏光MINI同様に中国EV市場を大きく牽引しています。


スター車種の登場が影響か

 これほどまでにEVが躍進している理由は何なのか。中国メディアは、中国の自動車メーカーが、環境規制政策を受けてEV投入を強化していることを指摘しています。また消費者サイドにおいては、充電インフラの拡充に伴うEV利用への懸念の低下などが理由に挙げられています。

 さらに筆者は、誰もが知っている“スター車種”の登場も大きな要因であると見ています。スター車種は2つあります。1つは米テスラが中国現地で生産販売している「モデル3」。もう1つは日本円で50万円を切る超低価格で昨年夏に発売された上汽通用五菱の「宏光MINI」です。

 どちらも発売当初から驚異的な販売台数を記録し続けており、実際に街中で目にする機会が日を追うごとに増えています。価格帯に大きな違いはあれども、両車種ともに、中国の消費者のEVへの認知度を高める役割を果たしていることは間違いありません。

 スポーツの世界では、1人のスター選手の登場がマイナースポーツを人気スポーツへと転換させることは珍しくありません。現在の中国EV市場を見ていると、そうした転換の過程を目の当たりにしているように感じられます。


看板EV車種の投入がカギに

 2019年、中国の新エネルギー車市場は前年比4%減と初のマイナス成長を記録し、「頭打ち、伸び悩み」といったムードが広がっていました。しかし前述の通り、2020年に人気EV車種が登場するや市場は反転成長し、今年上半期に至っては新エネルギー車市場全体も大幅な拡大を遂げました。改めて人気車種の存在意義の大きさを実感するとともに、今後は性能以上にブランド力や知名度の方が、新エネルギー車の成否を大きく左右するのではないかと思われます。

 現在、日系メーカー各社もEV車種の投入を着々と進めています。今のところ新規モデルとしてEVを投入する例が多いように見えます。しかし前述の背景から、むしろ既存のモデルやブランドを流用して投入する方が価値が高いかもしれません。少なくとも「あのメーカーのEVといったらこれ」と言われるほどの認知度がなければ、競争が激化する中国EV市場で埋没する恐れがあるでしょう。

 そういう意味では各メーカーは今後、「モデル3」や「宏光MINI」のように、メーカーの看板として認知されるEV車種を打ち立てられるかが、今後の大きなカギになってくるのではないでしょうか。

筆者:花園 祐

JBpress

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