金正恩の「米屋の店長」ら、食糧難で見せしめ処刑か
2023年8月3日(木)6時26分 デイリーNKジャパン
北朝鮮が最近になって、再整備と拡大を進めている「糧穀販売所」。いわば「国営の米屋」的な存在で、全国で286店舗が運営されている。
金正恩総書記の旗振りで導入された非常に重要な政策の担い手なのだが、このほど全国的な規模で不正が摘発されたと、デイリーNKの内部情報筋が伝えている。
店長クラスの経営幹部が身柄を拘束されて取り調べを受けており、それぞれの罪状によっては死刑も予想されているという。
複数のデイリーNK内部情報筋によると、6月16日から18日まで開かれた朝鮮労働党中央委員会第8期第8回総会で、糧穀販売所で売られている穀物の価格が、市場と変わりないほど高い店舗が多いとの指摘がなされた。それに基づき、7月から糧穀販売所に対する検察所の検閲(監査)が始まった。
販売所は、自由市場に移っていた穀物の流通と価格決定の主導権を、国家が取り戻すべく導入されたものだ。だから市場よりも2割ほど安い魅力的な価格で穀物を売り、人々の支持を集めなければならない。
ところが7月中旬までに、黄海南道(ファンヘナムド)と黄海北道(ファンヘブクト)の計18店舗で、穀物を規定よりかなり高く売っていたことが明らかになった。
情報筋は、不正行為が行われた理由については言及していない。糧穀販売所での穀物価格は、地方当局が、地域の事情に合わせて決定し、月2回、糧穀販売所に通知することになっている。責任者はこれより高く販売して、差額を着服しようとしたものと思われる。
糧穀販売所への検閲は現在も続いており、今後摘発される店舗が続出する可能性がある。
検察所は、糧穀販売所の責任者が、国と(朝鮮労働)党を裏切って私腹を肥やし、党の糧穀政策を歪曲して住民を混乱させたと見ており、事案を非常に重く受け止め、核心責任者は労働教化刑(懲役刑)ではなく、無期教化刑または死刑にする可能性があると、情報筋は述べた。
一方、別の見方も存在する。深刻な食糧不足と価格上昇の責任を、糧穀販売所の責任者に押し付けようというものだ。朝鮮労働党のすべての政策は「無謬」とされるが、中間幹部が正しく執行しなかったため問題が起きたと責任をなすりつけ、庶民の不満をそらすのは北朝鮮当局の常套手段だ。つまりは「いけにえ」である。政策そのものが間違っていたと認めることができるのは、金正恩総書記だけなのだ。
今回の不正を受けて、当局は糧穀販売所から道の糧政管理局などへの報告体系を強化した。
しかし、時間が経つにつれ虚偽報告が横行することは火を見るよりも明らかだ。そうでもして横領を働かなければ、超薄給の担当者たちは生きていけないからだ。地方当局と糧穀販売所の責任者がグルになって高値で販売し、差額を山分けし、帳簿も二重にしてごまかす手法が横行するだろう。