北朝鮮「戦争の英雄」の悲惨すぎる境遇

2018年8月5日(日)7時13分 デイリーNKジャパン


7月27日は、1953年に朝鮮戦争の休戦協定が締結された日だ。北朝鮮ではこの日を戦勝節、つまり戦争に勝った記念日として盛大に祝っている。


朝鮮戦争に従軍した「戦争老兵」に対して、北朝鮮当局は様々な優遇をしていると宣伝しているが、現実は全く異なる。その実情を米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。


平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、今年の戦勝節は65周年で、北朝鮮で重要視される整周年(5や10で割り切れる年)にあたるため、例年より多くの関連行事が開催された。


先月25日には、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)の講演会が開かれた。講演者は戦争老兵のことを「白頭の革命精神を受け継ぎ、首領と祖国を守り抜いた思想と信念の強者」と持ち上げた。


また、「すべての女盟員は戦争老兵の精神を遺産として受け継ぎ、金正恩元帥様に忠誠を尽している、戦争老兵たちは党の懐の中で戦争老兵たちが何の心配もなく暮らしている」とも述べられた。ところが、最後のくだりでは次のような話が出された。


「戦争老兵を実の祖父、父と考えて、彼らへの支援物資を送ろう」


それを聞いた情報筋は、次のように述べている。


「党の宣伝とは異なり、老兵たちは国からの福祉を全く受けられていない。子どもたちが商売をしているのなら、食事の心配はしなくてもいいが、そうではない老兵たちは苦しい暮らしを強いられている」


情報筋は続けて、子どもに面倒を見てもらえず寂しく苦しい一人暮らしをする人、他人のトウモロコシ畑の番をしてわずかばかりの手間賃を受け取り掘っ立て小屋で生き長らえている人など、非常に厳しい状況に置かれた老兵の現状を語った。


また朝鮮人民軍では動員先の建設現場などでの事故が多発しており、障害を抱えたまま退役を余儀なくされる兵士が後を絶たない。


平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、金正恩政権になってから老兵たちは平壌で開かれる戦争老兵大会に呼ばれるなど、金正日時代よりはいくぶん国から関心を持ってもらえるようになった。しかし、それも大会期間中や戦勝節のときに行われるカンパニア(キャンペーン)で、市民に供出させたコメや油を分け与える程度に過ぎないという。


昨年の戦勝節には、戦争老兵の家庭訪問を行ったのは女盟主導だったが、今年は中央からの指示で市党(労働党の市の委員会)が主導している。地元の党幹部が戦争老兵の家庭を訪問するが形ばかりで、期間が過ぎれば放置されてしまう。


当の戦争老兵からも強い不満の声が上がっている。


「祖国のために血を流して戦ったというのに、国はプロパガンダに利用するだけではないか」


情報筋は戦争老兵大会を開くと宣伝しているが、そんな行事や勲章より、余生を穏やかに過ごせるような政策を優先させるべきと批判した。


かつて、栄誉軍人(傷痍軍人)は国からの厚い福祉のおかげでそれなりの暮らしを営めていた。しかし、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」を前後して、それらの福祉がストップしてしまった。彼らは生き残るために、彼らは障害の残る体を引きずり、町に出て商売をせざるを得なくなった。


さらには家を失いコチェビとなったものや、半グレ組織を結成して市場で乱暴をしている者すらいる。

デイリーNKジャパン

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