イラン制裁復活、トランプは世界12位の自動車生産国をつぶす

8月7日(火)17時36分 ニューズウィーク日本版

<核合意を離脱し、対イラン制裁を再開して、威勢よくイラン経済を追い詰めるトランプは、どれほどの損害と犠牲が出るか考えてもいないのでは>

アメリカのドナルド・トランプ大統領は8月6日、対イラン制裁を再開する大統領令に署名した。その前哨戦として米政府は今年5月、各国の反対を押し切って2015年に成立した核合意(包括的共同作業計画:JCPOA)から離脱した。

米政府は声明で「アメリカ合衆国は、すべての経済制裁が実行されるよう全力を尽くし、イランと商取引のある国々とも密接に連携し、制裁を完全なものにするつもりである」と述べた。

CNNの報道によれば、今後イラン政府は、米ドルの購入ができなくなる。また、イランと金(ゴールド)や貴金属の取引のほか、黒鉛、アルミニウム、鉄鋼、石炭の直接的・間接的な供給も制裁対象だ。イラン通貨取引の大きな部分は禁じられ、イランの自動車産業も制裁対象となる。アメリカとヨーロッパで製造された航空機をイランに販売することもできなくなる。

11月5日までには、米政府はイランのエネルギー部門に対する「核関連制裁」を完全実施し、イラン産原油の輸入禁止と、外国金融機関によるイラン中央銀行との取引禁止も始まる予定だ。

トランプは8月6日、核合意は「一方的でひどい取引」だったと述べ、「イランの核兵器保有への道を完全に絶つという根本的な目的を達成することができないどころか、虐殺や暴力、混乱を拡大し続ける残忍な独裁政権に、現金という援助を差し伸べるものだ」と新ためて批判した。

イラン最大の市場に打撃

今回の大統領令を受けて、イランのジャバド・ザリフ外相は次のようにツイートした。「トランプ政権は、イラン国民のことを案じているふりをしている。それでいて、最初に科した制裁は、200機を超えるジェット旅客機の輸出を止めることだが、これこそイラン国民が生きるのに欠かせないインフラだ。アメリカの偽善には際限がない」

トランプの大統領令に先立ち、フランス、イギリス、ドイツの外相と、欧州連合(EU)の外交安全保障上級代表は8月6日に共同声明を発表し、アメリカ政府の決定について遺憾の意を表明した。外相らはまた、ヨーロッパとイランの経済的な結びつきを守ることを約束した。

世界安全保障と開発を専門とするコンサルタントで、オランダ在住のイラン系アメリカ人、ベアトリス・マネシは本誌に対し、イランの自動車生産台数は世界12位だと述べ、ルノーやプジョー、フォルクスワーゲンといったヨーロッパの自動車メーカーがイランに工場を持っていることを指摘。トランプは、イラン経済で「最大かつ海外からの投資が最も多い部門に打撃を与えた」と述べた。



「イランの企業や政府と取引できなくなっても、アメリカ企業はさほど困らない。イラン経済はアメリカに依存していないし、アメリカと強い結びつきを持っているわけでもない」とマネシは指摘する。「影響が大きいのは、ヨーロッパの企業や政府のほうだ。だがトランプは、アメリカが彼らにとって最大の貿易相手国であることを盾に取り、イランとのつながりを断てと脅している」

全米イラン系アメリカ人協会(NIAC)のジャマル・アブディ会長は、トランプの決断は「海外におけるアメリカの指導力と、困難な課題を軍事力ではなく外交で解決するという私たちの能力に重大な害を及ぼす」と述べた。そして、アメリカの今回の動きを「イラン8000万人に対する集団的な懲罰」だと呼び、イランの「経済的危機」はますます拡大し、イラン国民は「生命に関わる医薬品や安全な民間航空機といった必需品」を手に入れられなくなると続けた。

イランの通貨リアルは暴落している。アメリカの経済制裁という脅威で事態はさらに悪化しており、テヘランなどの大都市では抗議デモが起きている。だがその怒りは、トランプやアメリカではなくハサン・ロウハニ大統領に向かっている。核開発より経済を優先してアメリカのオバマ前政権などと核合意にこぎつけたロウハニは今、イランの経済苦境の理由を国会で証言するよう、国会議員たちから迫られている。

(翻訳:ガリレオ)

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ジェイソン・レモン

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