国民の感染症・熱中症よりも「脱北リスク」を気にする北朝鮮

2023年8月9日(水)6時1分 デイリーNKジャパン

異常高温が続く今年の夏。北朝鮮とて例外ではない。2日の朝鮮中央テレビは、東海岸の元山(ウォンサン)の最高気温が37.7度に達し、同国の気象観測史上、最高気温を記録したと伝えた。ちなみに、元山で気象観測が始まったのは、朝鮮王朝時代の1883年10月、元山海関(税関)でのことだ。


元山付近の海では、オホーツク海からのリマン海流の支流(北朝鮮寒流)と、対馬海流の支流(東朝鮮暖流)がぶつかることから、夏は涼しく、冬は比較的暖かいことで知られていた。しかし地球温暖化から「地球沸騰化」へと移行しつつある中で、年中過ごしやすかったのも昔話になりつつあるのかもしれない。


そんな中、北朝鮮で問題になりつつあるのは、熱中症、そして伝染病だ。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。


朝鮮労働党の平安南道委員会(道党)は、革命の聖地が集まる北部の両江道(リャンガンド)の農村建設のために、党員からなる「党員大隊」を立ち上げ、現地に派遣した。国営の朝鮮中央通信は先月30日、平安南道のみならず、全国から派遣された党員大隊が、両江道の甲山(カプサン)で農村住宅の建設に当たっていると報じている。


平安南道の党員大隊は先月10日、8つの中隊に分けられ、両江道の各地に派遣された。ところが、それから1カ月も経たずに体調を崩す者が相次いだ。1週間以上も下痢が止まらず、命が危ぶまれる状態となったため、急きょ帰宅させられた。


診察した医師は、水が合わず下痢が止まらないものと診断を下したが、「そんなことで1週間以上下痢が止まらないとは聞いたことがない」「伝染病ではないか」との疑いと不安が広がっている。


北朝鮮では、汚染された水を飲んだことで、腸チフスやコレラなどの水系感染症にかかる人が少なくない。



また、異常高温による熱中症も党員たちを苦しめているようだ。両江道の恵山と皮を挟んで向かい合う中国・吉林省の長白朝鮮族自治県では、最高気温が30度を超える日が続き、中国中央気象台は、今月17日、18日に最高気温が33度で、平年を大幅に上回ると予報している。


病気と暑さに苦しめられる党員たちだが、道党はそれよりも別のことに気を取られているようだ。


今回派遣された党員の中に、脱北者の家族2人が含まれているとの保衛部(秘密警察)からの通告を受け、今月初旬までに、人員を総入れ替えすることを指示したというのだ。派遣された党員の健康よりも、脱北されるかもしれないということに気を揉んでいるということだ。道党は、これをきっかけに、派遣する人員の成分(身分)の詳しい調査を行うことにしたという。


道党は、噂や疑心暗鬼が広がることをおそれ、脱北者家族が含まれていたという本当の理由を隠し、それぞれが所属している組織から戻ってくることを求められたとしている。


国民一人ひとりの健康よりも、政治的問題の発生リスクに気を使うところは、北朝鮮らしい組織のあり方と言えよう。

デイリーNKジャパン

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