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物価1兆倍!ドイツのハイパーインフレに学ぶこと

JBpress8月14日(月)6時0分
画像:ドイツ・ベルリンの連邦議会議事堂(資料写真)
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ドイツ・ベルリンの連邦議会議事堂(資料写真)

 日本は太平洋戦争という経済体力を無視した戦争によって、終戦直後から準ハイパーインフレとも呼べる猛烈なインフレに見舞われた。

 だが、第1次世界大戦後にドイツで発生したハイパーインフレは日本の水準をはるかに上回る。

 現代は高度な金融システムが整備されており、先進国においては、かつてのような破壊的インフレは発生しないとされている。だが100%安全な通貨というものは存在しない。現在の日本はインフレどころかデフレ懸念すらある状態だが、金利上昇という時限爆弾を抱えており、いつインフレに転じてもおかしくない。ドイツのハイパーインフレは具体的にどの程度だったのか、資産価格はどう推移したのかなど、歴史を知っておいて損はないだろう。


ケタが違うドイツのハイパーインフレ

 太平洋戦争直後に日本が経験したインフレは、国家予算の280倍(インフレ考慮前)という途方もない戦費を国債で賄ったことによる財政インフレであった。戦時中は物価統制によって表面化しなかったものの、終戦直後から物価上昇が一気に本格化。インフレが沈静化した1955年には、開戦当時との比較で約180倍にまで物価は高騰していた。

 ところがドイツのハイパーインフレはケタが違う。本格的なインフレがスタートした1918年から1923年までの約5年間で物価が1兆倍になるという、まさに天文学的なインフレであった。

 一般的にドイツのハイパーインフレは、ドイツに課された巨額の戦争賠償金が原因であるとされている。ヴェルサイユ条約によって決定された賠償金の額は1320億マルクだった。当時、ドイツのGDP(国内総生産:厳密には国民純生産)は524億マルク、国家予算は68億マルクだったのでGDPの約2.5倍、国家予算との比較では約20倍ということになる。

 ドイツは第1次大戦の遂行にGDPの3倍程度の金額を支出していたので、ドイツの最終的な負担はGDPの5.5倍であった。かなりの負担であったことは間違いないが、先ほどの日本のケースと比較するとそれほど大きい金額とはいえない。日本は最終的にはGDPの8.8倍の戦費を投入し、経済を完全に破綻させたが、それに比べればドイツの負担はむしろ軽いといってよいだろう。

 これは戦勝国である英国と比較するとさらにはっきりする。英国は戦争に勝利したとはいえ、GDPの3.8倍の戦費を投入しており、ドイツに準じる負担を背負っていた。この点から考えると、ヴェルサイユ条約で決められた賠償金は、途方もない水準とまでは言えなくなってくる。


ドイツのハイパーインフレは金融的な側面が強い

 ではドイツはなぜ、この負担に耐えきれず、ハイパーインフレを起こしてしまったのだろうか。

 ドイツは賠償金の支払いや国内の財源不足に対して、当時の中央銀行であるライヒスバンクが大量に紙幣を発行するという金融的な措置で対応してしまった。

 中央銀行が経済水準をはるかに上回る紙幣を大量発行すれば、インフレになることは容易に想像できるが、どういうわけかライヒスバンクは、こうした自滅的な選択を行っており、実際にその通りになっている。ライヒスバンクがなぜこのような措置を行ったのかよく分かっていない部分も多いのだが、ともかくドイツは紙幣の発行で対応し、これをきっかけにマルクに対する信用が崩壊。ハイパーインフレの引き金を引いてしまった。

 つまりドイツのハイパーインフレは経済の破綻ではなく、金融的な側面が強いと考えることができる。その点では、日本で発生した財政破綻を原因とした準ハイパーインフレとは少し様子が異なっている。


インフレ時、株価の値動きは鈍い

 では、ドイツのハイパーインフレはどのように進行していったのだろうか。

 5年間の推移を見てみると、興味深いことが分かる。最終的にはあらゆる資産価格が物価の上昇に合わせて上がっていくが、そのスピードはまちまちである。つまり資産の価格上昇にはタイムラグがあり、すべての資産が物価上昇と同じタイミングで上がっていくわけではないのだ。

 インフレの初期において、物価に先んじて上昇したのは外貨(フラン)と金であった。外貨と金が先に上昇を開始し、その後、物価が外貨に追い付くという状況であった。現在でもそうだが、外貨はもっとも流動性が高い資産のひとつであり、インフレの状況を敏感に察知する(アベノミクスに真っ先に反応したのも為替であった)。もし今後、インフレ懸念が台頭してきた場合、まずはドルを購入することが有益なヘッジ手段になり得るということを歴史は示している。

 一方、物価とは逆の動きを示したのが株価である。最終的には株価も物価に合わせて上昇していくのだが、インフレ初期の段階では、市場が混乱したことで逆に株が売られた。インフレの進行で日用品の値段も急騰していることから、当面のキャッシュを確保するため株を売った投資家も多かったと考えられる。

 インフレ初期において、外貨や金が上昇し、株価が下落したという事実は、ここに大きな投資機会が存在していることを示している。つまりインフレ初期に外貨や金に資金を投じ、そこで得た利益を株式に回すことができれば、インフレが収束した時には、物価上昇分以上の収益を得られる可能性が見えてくる。

 実際、ドイツではインフレが中盤に差し掛かると、買われ過ぎの反動から外貨と金が売られ、逆に株価が割安であるとして、株が急騰するという局面があった。確かに敗戦やインフレによって市場は混乱したが、だからといって、当時も世界的な自動車メーカーであったダイムラーが自動車の生産をストップするわけではない。

 国内の物価がどうあれ、輸出されたダイムラーの車は現地通貨で販売され、為替が割安になった分、見かけ上の売上高は増加することになる。この状況を市場が無視するわけはなく、今度は株式に対する買いが殺到する状況となった。

 ベルリンの株式取引所には買い注文が殺到し、処理が間に合わず、立ち会いを週3日に限定したともいわれている。庶民の中には株で生計を立てる人が現れたという話もあるくらいだ。

 だがインフレが収束に向かう後期になると、それぞれの資産価格はほぼ同じ水準に収束するようになる。ドイツのハイパーインフレは、1923年に「レンテン・マルク」という土地を担保にした新しい紙幣が導入されたことでようやく沈静化したが、この頃には各資産の価格差はほぼ消滅している。


資産価格の上昇スピードには差がある

 同じような現象は日本のインフレでも起こっている。当時の日本は為替取引が自由化されていなかったので、為替市場に資金が流れ込むことはなかったが、インフレを嫌った資金の多くは不動産や商品相場に流入した。現在、大規模な土地所有者として成功している人の一部は、この時期に積極的な投資を行って資産を増やしている。

 森ビル創業者の森泰吉朗氏もその一人である。泰吉朗氏はインフレによる商品市場の高騰を予測。人絹(レーヨン)相場に参戦して巨額の資金を作った。現在の西新橋付近の小さな土地を集約し、相場で得た資金をもとにビルを建設したのが、現在の森ビルの原点となっている。

 森泰吉朗氏は経済学者(経営史)であったことから、こうしたインフレの仕組みを知り尽くしていたものと思われる。当時はインフレの進行と政府による財産税の強制徴収によって、現金で資産を保有していた富裕層の多くが富を失った。だが、そのような中でも、うまく資産を増やすことができた人はわずかだが存在しているのだ。

 同じインフレでも、資産の種類によって、価格上昇のスピードが異なるというのは、重要なポイントである。日本が再びこのような事態になることはあってはならないが、いざという時のために、この歴史的事実は頭の片隅に置いておくべきだろう。

筆者:加谷 珪一

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