日本も危険、世界大流行中のデング熱

8月16日(金)6時0分 JBpress

東南アジアでは、デング熱の「大流行宣言」を発令したフィリピンだけでなく、シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイなどで例年になくデング熱が大流行している(フィリピン・マニラ、筆者撮影)

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 夏休みの海外旅行シーズンたけなわ。厚労省などでは、感染症についての注意喚起を行っている。

 そして東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年7月まで、あと1年足らず。テロ対策の一方、蚊が発生するピークの季節とあってデング熱などの感染症リスクも拡大している。

 2016年のリオオリンピックでは、ジカ熱感染で開催が危ぶまれたことは記憶に新しい。

 2014年には、日本で69年ぶりに国内でデング熱の感染例が見つかっている。海外からウイルスが日本に持ち込まれたと見られているが、万が一に備え対策に万全を期す必要がある。

 ちなみに昨年の日本人の年間出国者数は1895万人、外国人入国者数は初めて3000万人を突破し、いずれも増加の一途を辿っている。

 厚労省指定の特定感染症医療機関である国立国際医療研究センターの国際感染症センター長、大曲貴夫氏は「日本で5年前大流行したデング熱は、(海外からの輸入ケースだが) 現在でも年間平均200から300ぐらいの感染が国内で確認されている。外国人患者も増加傾向で、東京五輪の最重要課題の一つ」と警鐘を鳴らす。

 米国疫病予防管理センター(CDC)や世界保健機関(WHO)によると、デング熱の感染は、現在120カ国以上、年間約4憶人の感染者を数え、約50万人は重篤化したデング出血熱を発症するといわれている。

(参照ビデオ:https://www.youtube.com/watch?v=V5hpXm1UY_Q)

「デング熱は、蚊を媒介とした世界で最も発生する感染症の一つ。将来的には世界人口の約40%、25億人以上が感染するリスクを抱えている」という。

 これまでの熱帯や亜熱帯地域だけでなく、2010年にはクロアチアとフランスで、また2012年にもポルトガルのマデイラ島で感染が確認されている。

 さらに、ヨーロッパの20カ国以上で、デングウイルスを媒介するネッタイシマカも発見されている。

 デング熱は、高熱、頭痛のほか赤い発疹が体に発生し、筋肉痛の症状が出ることから、通常の風邪やインフルエンザと誤って診断されたり、重症化したりする場合もあるが、1週間以内に回復するケースが多い。

 言い換えれば、これまで日本ではデング熱が「風邪やインフルエンザ」として見過ごされていた可能性もある。すでに日本全国でデングウイルスを媒介する蚊が多く介在している危険性も否定できない。

 当然、自然治癒すれば恐れる病気ではないが、他の多くの感染症とは大きく異なる点がある。

 他の感染症は、ワクチンを接種したり、1度感染すると2回目には感染しなくなったり感染しても軽症ですむ。

 しかし、デング熱は今のところ特効薬もなければ、ワクチンもない。

 感染した際には、点滴を打って、解熱剤で熱を下げて寝ているだけの対症療法しかないのが実情だ。筆者の友人もシンガポールでデング熱に罹ったが、医師はなすすべもなく見守るだけだった。

 本当に厄介な「吸血鬼病」なのだ。

 デング熱は患者の体内でできる抗体がウイルスを抑えるのではなく、逆にウイルスを増加させる作用を持つ。免疫があると反対に重症化し、「デング出血熱」を発症させる。

 吐血や血尿による重症型「デング出血熱」を発症すれば、その5%程度が死亡するとされ、WHOなどによると、 世界ではデング熱により年間約2万人が命を落としている。

 日本でも最近では、2016年7月、新潟県在住の30代女性がフィリピンに渡航し帰国後、デング熱が重症化した「デング出血熱」と診断され死亡した。

 WHOは報告書で、「蚊が媒介する病気の脅威が世界的に高まっている。研究投資や各国の政治的関与を高めることが重要」と警鐘を鳴らしている。

 デング熱は、アジア、オセアニア、アフリカ、中南米、中東などの熱帯、亜熱帯地域を中心に流行し、特にフィリピンなどの東南アジアやインド、ブラジルなどに多い。

 アジアでは、子供が死亡する主な原因の一つになっている国もある。インドネシア、タイ、フィリピン、ミャンマー、スリランカなどだ。

 一方、WHOの研究では、「地球温暖化などの影響で蚊の生息地が北部で拡大している。最近では、豪州や米国、さらには中国、台湾、日本の沿岸部でも流行しやすくなっている」と警戒を強めている。

 日本も所属するWHO西太平洋地域事務局(WPRO)は今年、世界で最も感染者が多い東南アジアの中でも特に死者が多いフィリピンや同地域を含めた西太平洋地域での、「デング熱の大流行」に注意を呼びかけている。

 デング熱を媒介する蚊は、数年ごとに異常発生するといわれており、2019年は大流行する危険性が高い年とされてきたが、まさにその予想が的中してしまった。

 WHOは7月初旬、「デング熱が例年より増加している国は、フィリピン、シンガポール、ベトナム、タイ、マレーシア、オーストラリア、中国、台湾、カンボジア、ラオス、バングラデシュなどで、今後、さらに被害は拡大するだろう」と警告。

 8月6日、フィリピン政府は2000年以来初めてデング熱の「大流行宣言」を発令。8月上旬までに622人が死亡、今年1月から7月末までで、前年同期比の2倍に相当する14万6000人以上が感染している。

 フィリピン保健省では、「2016年には1092人の死者を出したが、2019年はこれを超え、過去最悪の事態になるだろう」と警戒している。

 シンガポールでは、8月3日の時点で、9228人の感染が確認され、感染者数はすでに昨年同期比の5倍以上に膨れ上がっている。

 シンガポールは2016年9月には、ジカ熱の感染者数が300人を超え、人口に占める割合で感染者数が「アジアワースト1」という屈辱を味わった。アジアの公衆衛生で最優等生という“ブランド落ち”で、その落胆ぶりは計り知れないものだった。

 厳罰国家で知られる同国は、Gメンを配備し、ボウフラ対策を怠っている世帯への近所からの通報、抜き打ち検査、罰金制度を科してきた経緯から、「水際での対策には万全を期していた」(シンガポール政府関係者)との自負があったからだ。

 そして3年後の今年、再びデング熱の猛威に屈してしまった。

 国立環境庁によると、今年7月第2週のデング熱感染者数は、「2016年1月以来、週レベルの最高感染者数を更新し663人に達した。死者数は、今年1月から7月で、9人に上った」としている。

 ベトナムでは、保健省によると8月上旬までに11万5100人以上が感染、12人が亡くなった。昨年の同時期と比べ、約3.3倍の増加だ。

 タイでは、疫病対策当局によると、直近5年ほどで最悪とし、「今年上半期で前年同期比の1.6倍に相当する4万400人以上がデング熱に感染した」という。

 マレーシアでは8月3日現在、8万1635人が感染し、113人が死亡し、過去最悪を記録(1月から8月同日までの累計)。今年1月から8月3日現在までの昨年同期比で、感染者数、死亡者数とも2倍に達している。

 マレーシア政府が国民への予防対策や発生地での薬剤散布などの対応策が成功しなければ、「1995年の統計開始以来最悪で、感染者15万人に達する可能性も否定できない」(保健省のリー副大臣)と危機感を露わにしている。

 ミャンマーでは、10万人が感染。バングラデシュでは、1万7000人が感染し、2000年以来最悪の14人が死亡。

 ラオスでも34人が死亡し、8月中には1万7000人の感染者を予測している。

 南半球で乾季に入っているインドネシアは現在、感染は収束しているものの、1月には一部地域で非常事態宣言を出し、感染者1万2000人、死者115人以上を数え、2、3月も昨年同時期を超える被害状況だった。

 東南アジア最悪のデング熱感染に見舞われたフィリピンのドゥテルテ大統領は、「デング熱撲滅戦争」を宣言。8月9日、国民からのバッシングを承知で、こう言い放った。

「デング熱は大流行だ。多くの国民が亡くなっている。デング熱で苦しむ人に戦いの余地はない。禁止している『デングワクシア』の使用を認可する」

 世界初のデング熱ワクチンと期待されたデングワクシアの再認可を宣言。しかし、首都マニラなどでは、副作用の危険が取り除かれていないとして、抗議のデモが展開されている。

 フィリピンでは、数十人の子供がこの予防接種を受けた結果、副作用で死亡した疑いがもたれているからだ。

 フィリピンの事件を受けてWHOは2017年11月、フランスの大手製薬会社サノフィが15憶ユーロを投じ、20年以上かけて開発したデングワクシアを安全性が最終確認できるまで「予防接種は過去にデング熱に感染した患者に限定」とする使用自粛勧告を出した。

 サノフィは認めていないが、デングワクシアがデング熱感染歴のない人への接種に適さないことを認めた格好だ。

 WHOの勧告を受け、フィリピン政府は同年12月、予防接種を中止。

 2016年、アジアで初めてデングワクシアを認可したフィリピンだったが、今年2月には世界で初めて認可を取り消したばかりで、現在、輸入・販売・流通が禁止されている。

 一方、デング熱ワクチンを開発中の武田薬品工業や米国立衛生研究所(NIH)にとってはWHOの決定は朗報だった。

 武田薬品は今年に入って、開発中のデング熱ワクチン「TAK-003」の販売承認を2020年前半に申請する見通しを明らかにした。

 安全性を問われているデングワクシアと比較し、武田の製品は対象とする年齢層が広く、日本を含め世界中のより多くの人が使用できる可能性があるといわれている。

 デング熱は、長い潜伏期間のために日本に帰国してから発症する旅行者や出張者も多い。

 国立国際医療研究センターの国際感染症センター長、大曲貴夫氏は「高温多湿の気候により、今後、日本でもデング熱が再流行する可能性は十分にある」と指摘する。

 東京五輪を見据え、日本の主要国際空港の検疫所で、頭痛や高熱などデング熱の症状のある人を早期に発見できるよう、水際対策をさらに強化する必要があるだろう。

 もし武田薬品によってデング熱から人々を守る魔法のワクチンができれば、同社にとっても東京五輪にとっても、日本の「安全神話」を世界にアピールできることにもなるかもしれない。

(取材・文・撮影 末永恵)

筆者:末永 恵

JBpress

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