「美しすぎる」大統領、ついに誕生か?

8月17日(金)6時0分 JBpress

ユリア・ティモシェンコ氏(同氏の公式サイト  https://www.tymoshenko.ua/ より)

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(文中敬称略)

 ウクライナ大統領選挙が来年3月31日に迫るなか、「美しすぎる政治家」ユリア・ティモシェンコが支持率トップを独走している。

 世論調査におけるティモシェンコ人気は安定して推移しており、大統領選の決選投票進出が濃厚である。

 一方で再選を目指す現職ポロシェンコは今年に入り支持率が急落している。ティモシェンコにダブルスコアを付けられ苦戦中である。

大統領選挙における投票先(%)


ティモシェンコ人気

 「オレンジ革命」(2004年)の立役者の一人で、「美しすぎる首相」として我が国でも有名になったユリア・ティモシェンコは、これまで、2度、大統領選挙に挑み、どちらも得票率2位で敗れている。

 2009〜2010年大統領選挙では決選投票に進むもヤヌコヴィッチに惜敗、マイダン革命後の2014年大統領選挙では得票率12.8%で得票率54.7%のポロシェンコに第1回投票での当選を許した。

 しかし、ドンバス内戦と経済危機が長期化するなか、ティモシェンコは有権者の不満を吸収して支持率を回復、今日、3度目の大統領選出馬を表明するに至っている。

 「ウクライナにとって最重要な問題は何か(最大3つまで、レイティング・グループによる2018年7月調査)」

・ウクライナ東部の軍事紛争 62%
・賄賂・汚職 39%
・賃金・年金支給額の低さ 34%
・就職口の少なさ、失業 33%
・公共料金の値上げ 24%

「あなた個人にとって最重要な問題は何か(同上)」

・賃金・年金支給額の低さ 47%
・公共料金の値上げ 41%
・ウクライナ東部の軍事紛争 34%
・物価上昇 29%
・賄賂・汚職 24%
・就職口の少なさ、失業 19%

 現大統領のポロシェンコは「マイダン革命(「尊厳の革命」)によって、ウクライナ国民は、自由と民主主義とヨーロッパ化を選択した」と自画自賛しているが、上記の世論調査結果を見る限り、国民は、緩慢な経済回復と内戦に不満を抱いている。

 「革命最大の成果は、EUとのビザなし渡航体制発足によるEU圏への出稼ぎ労働増」という笑えない話すらある。世論の4分の3は「ウクライナは正しくない方向に進んでいる」と見なしているように、現状は現職に不利に働いている。

 とはいえ、すべての責任をポロシェンコに帰すのはやや酷であろう。

 内戦長期化はロシアの干渉によるもので、電気・ガスなどの公共料金の値上げについても歴代政権が放置してきたツケをまわされたようなものだ。

 ようやく「革命」後、国際通貨基金(IMF)の要求で、輸入エネルギー価格に見合う公共料金の引き上げが段階的に実施されているところだ。

 しかし、平均的な家計にとって値上げは既に限界に達しており、3月に行われるはずだったガス料金引き上げは延期を重ねている。

 今日、住民向けガス料金は266ドル/1000m3とEU加盟国よりはるかに安価であるが、ウクライナの平均月給額は330ドルに過ぎない。

 ドイツと比べると、ウクライナのガス料金は3分の1、平均月収は10分の1以下であるから、平均的なウクライナ人にとってガス料金がいかに高価であるか理解できよう。

 公共料金の値上げは、政権支持率を著しく落とすことになる。

 その一方で、改革の不徹底のいくつかは、ポロシェンコの責任といっていいだろう。有力財閥(オリガルヒ)の利権は維持され、彼らの事業に有利な法律や規制が新たに採用されたりしている。

 また現役閣僚や政治家、高級官僚の蓄財ぶりや汚職、オリガルヒとの癒着ぶりも相変わらず報道されている。

 ポロシェンコが「パナマ文書」に登場したことは記憶に新しいところだ。ポロシェンコ自身、ウクライナ有数の資産家であり続けている。


ポロシェンコ大統領の巻き返しはあるのか

 これまでのウクライナ政治のパターンを振り返ると、現職が利用可能な資源を総動員して投票日前までに支持率を回復した例は多い。

 その過程で「お友達」新興財閥(オリガルヒ)や地方ボスの資金・動員力や傘下メディアの力に頼ることになり、汚職対策や改革は途中で頓挫することになる。また、有権者の歓心を買うため公共料金も据え置かれたのは前述した通りである。

 今日、このような選挙対策に国際的な批判が向けられている。

 7月に行われたEU-ウクライナ・サミットでは共同宣言内で「選挙前の期間を含めて、改革のペースは維持されねばならない」と釘を差された。

 IMFはガス料金値上げがない限り新たな融資を行わないと明言しており、欧米諸国も、汚職対策法内の骨抜き条項の削除をポロシェンコ政権に求めている。

 現政権は、ヨーロッパ化を国是としているため、このような要求を無視できない。

 ヤヌコヴィッチ前大統領はIMFの融資条件を蹴ってロシアの援助に走ったが、現政権がロシアの財政支援に頼ることは有り得ない。

 欧米は、ウクライナに他の選択肢がないことを理解しているため、政治的配慮なしに圧力をかけられるわけだ。

 現政権の今一つの選挙対策はナショナリズムによる動員である。

 ポロシェンコは、分裂状態にあるウクライナ正教会の一派であるキエフ主教座と親密な関係にあり、キエフ主教座を中心としたウクライナ正教会の統一を画策している。

 国家に接近して「国教」に近い立場を狙うキエフ主教座と、選挙アピールの材料が欲しい現職との利害が一致している形だ。

 いずれにせよ、ロシアとの事実上の戦争状態の中で国内世論の過半が「ヨーロッパ路線」、「EU・NATO(北大西洋条約機構)加盟」を支持している以上、単なる「ヨーロッパ化」「EU・NATO」を主張するだけではティモシェンコを筆頭とする他の候補者との差別化は計れない。

 有権者の支持をさらに獲得するには、これまでとは異次元な方法でナショナリズムに訴えるしかないが、逆にウクライナ東部・南部の有権者の支持を失うことにもなる。

 ドンバスの一部およびクリミア半島の有権者がウクライナ政治から消えたとはいえ、ハリコフ、ドニプロ(旧ドニプロペトロフスク)、オデッサなどの百万都市を抱える地域は軽視できない。

 逆にティモシェンコは東部・南部でも高い支持率を得ており、ナショナリズムを控えてオリガルヒ批判を前面に押し出す作戦が今のところ功を奏しているとみることができる。


「美しすぎる」大統領の誕生?

 ティモシェンコと現職ポロシェンコが決選投票に進んだ場合、ティモシェンコを警戒する有権者が現職の安定感に流れ、またオリガルヒや地方ボスの支援・動員を取りつけてポロシェンコが再選する、とみられていた。

 しかし、複数の世論調査結果はいずれもポロシェンコの支持率が5位前後に低迷していることを示しており、この予測は怪しくなってきた。

 仮にポロシェンコが何とか決選投票に辿り着けたとしても、ティモシェンコよりアンチ率が高いため一騎打ちでも不利、ということになる。

 こうなると、欧米の批判を覚悟したうえで、大統領陣営がなりふり構わぬ動員に出ることは十分に予想される。

 ティモシェンコは強引な政治手法で敵が多い政治家である。副首相時代、経済界の利益を無視した改革を強行し業界を大混乱に陥れ、汚職の嫌疑で逮捕・失脚させられた。

 また、オレンジ革命の功績で首相に任命されると、ユーシチェンコ(当時の大統領)のパトロン潰しに躍起になり大統領により解任された。

 この時、喧嘩両成敗とばかりにポロシェンコも要職から解任されている。

 また、同じく首相在任中、旧ソ連貯蓄銀行の貯蓄額のインデクセーション(物価スライド)を行い、国民の歓心を買うとともに財政に大穴を開けるというポピュリスト的政策も実施した。

 こうした「行動力」に一部の有権者は停滞した現状の打破を期待し、一部の有権者は国政混乱を憂慮することになる。

 思えば、ティモシェンコはかれこれ20年間、政治的立ち位置とともにヘアースタイルを変えながらウクライナ政界の最前線で活動し続けている。還暦を再来年に控えたティモシェンコ、3度目の正直となるか。

筆者:藤森 信吉

JBpress

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