ISISの「奴隷」にされた少女が、避難先のドイツで元戦闘員と悪夢の再会

8月17日(金)16時20分 ニューズウィーク日本版

<ドイツの警察はヤジディ教徒の少女を虐待したISIS元戦闘員を、「同じ難民だから」という理由で野放しにしていた>

テロ組織ISIS(自称イスラム国)に拉致されて奴隷のように扱われた後、脱出したクルド人ヤジディ教徒の10代の少女が、ISISの元戦闘員の男に避難先のドイツで居場所を知られ、イラクに戻らざるを得なくなっていたことがわかった。

4年前の2014年8月、ISISはイラク北部に進撃し、数千人ものクルド人やヤジディ教徒を拉致した。家族とともに拉致された当時15歳の少女、アシュワク・タロは、アブ・フマムという名前のシリア人の男にドイツで再会したことを明らかにした。その男は多数の若い女性や少女をISISから買い取り、イラク北部モスル近郊に監禁。約10か月にわたり日常的に虐待し、イスラム教に改宗するよう強要していた。

2015年6月、周到に計画して何とか脱出を果たした後、難民となった彼女は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を緩和する人道支援プログラムを受けながら、ドイツ南部シュツットガルトで生活を始めた。2016年頃、彼女は何者かに尾行されている気がしたが、その時は何も起きなかった。そして今年2月、自宅がある難民キャンプに向かって歩く途中、男が目の前に現れたと言う。

悪夢の再会

「呼び止められたのは、今年の2月21日のことだった。恐る恐る男の顔を見て、体が凍りついた。監禁中と同じように不気味な髭と醜い顔をした、アブ・フマムだった。ドイツ語で『お前はアシュワクだな?』と問われたときには、言葉が出なかった」とタロは8月15日、クルド系メディア「バスニュース」の独占インタビューで語った。

タロは自分だけでなく、家族の身に危険が及ぶのを恐れた。脱出後、家族のメンバーの多くと再会したが、いまだに5人の兄弟の行方が分かっておらず、姉1人はISISに拉致されたままかもしれないと言う。

脱出する際、タロと仲間の少女たちは男の携帯電話を使って兄弟に助けを求めた。連絡を受けた兄弟は、タロたちにわざとひっかき傷を作らせ、皮膚の病気だと言って男を騙す作戦を実行させた。少女たちは連れて行かれた病院で睡眠薬を受け取り、帰宅後、男の食べ物に混入させて、男が眠った隙を突いて脱出した。

ドイツで男に呼び止められた時、タロは人違いだと答えた。だが男は執拗に問い詰めた。「いや、お前はアシュワクだ。俺のことをよく知っている。アブ・フマムだ。モスルでしばらく一緒だったな。お前が今どこで誰と暮らし、何をしているか知っているぞ」



タロはその場から走り去り、男がいなくなるまで近くの市場に身を隠したという。帰宅後、兄弟に一部始終を話し、翌日には難民キャンプの管理者に連絡した。通報を受けた警察は、防犯カメラの映像から男の身元を特定できたにもかかわらず、男が「難民」であり、必ずしも罪を犯したわけではないので警察にできることはほぼ何もない、とタロに告げた。

「警察は、男も君と同じ難民だから今は対応できない、と言った。万が一また男に呼び止められたらここに連絡すればいい、と言って電話番号を渡されただけだった。その対応で、(イラク北部の)クルド人自治区に戻ろう、ドイツには二度と戻るまい、と決心した」と、タロはバスニュースに語った。

シュツットガルトを管轄するバーデン・ビュルテンベルク州警察に本誌がコメントを求めたが、すぐに回答はなかった。

ドイツは、ISISの支配を逃れたイラクやシリアからの難民を率先して支援し、近年100万人以上の難民を受け入れてきた。だがドイツへの難民申請者の数は、ピークだった2015年の89万人から、2017年には18万6644人まで激減した。さらに、国内の保守派が難民の受け入れに不満を募らせるなか、メルケル政権は今年7月、政権崩壊の危機を回避するために難民の受け入れ抑制を表明した。

(翻訳:河原里香)

トム・オコナー

ニューズウィーク日本版

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