フィリピンの街中で連続自爆テロ、実行犯は女性たち

8月30日(日)6時0分 JBpress

8月24日、フィリピン南部スールー州ホロで起きた連続爆弾テロの現場。軍用車の横には倒れた兵士の姿が見える(写真:AP/アフロ)

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(PanAsiaNews:大塚智彦)

 フィリピン南部のスールー州で8月24日、白昼の市街地で2度の爆発があり、陸軍兵士、警察官、市民など17人が犠牲となる爆弾テロが発生した。その後の治安当局の捜査で浮かび上がってきたのは、2回の爆発が共に爆弾を身にまとって自ら起爆装置で爆発させる自爆によるテロであること、そして実行犯の1人は女性であり、もう1人も女性の可能性が極めて高いことだった。

 しかも実行犯とされる女性は、過去に同地域などで自爆テロを起こしたテロリストや治安当局との銃撃戦で死亡したテロリストの妻や娘である疑いも強いという。この事件に関与したとされるフィリピンのイスラム教テロ組織「アブ・サヤフ」に関しては、今回のような「自爆したり殺害されたりしたテロリストの身内の女性」が次の自爆テロ実行犯候補として控えていること、さらには自爆テロ実行に際し多額の報奨金が組織から支払われていることなども明らかになってきた。

 犠牲者の血族によるテロとその摘発は、「報復の連鎖」を生み出すことになる。そのためドゥテルテ大統領が掲げる「テロとの戦い」を終結させることの難しさが改めて浮き彫りになったとも言える。


2件の爆弾テロはいずれも女性による自爆テロ

 事件のあらましはこうだ。

 8月24日午前11時53分、スールー州ホロ島のホロ市ワレドシティー地区セランテス通りにある食料品店兼食堂「パラダイス」の前に駐車していた陸軍のトラックの近傍で、大きな爆発があった。これによってトラック周辺にいた兵士、警察官、市民など16人が死亡、75人が負傷した。

 さらにこの爆発から約1時間後の同日午後12時57分、「パラダイス」から約100メートル離れた「マウント・カルメル大聖堂」や「フィリピン開発銀行ホロ支店」が入ったビル近くで2回目の爆発があった。こちらでも兵士1人が死亡し、兵士や警察官6人が負傷した。

 2回目の爆発は目撃証言などから、異様に上半身が膨れた服装をした女性を調べようと兵士が近づいた時に自爆したことや近くの建物の上から自爆で吹き飛んだ女性の頭部が発見、回収されたことなどから「女性の自爆テロ犯による犯行」とほぼ断定されており、現在身元の確認が続いている。

 2回目の爆破に比べて数段強力だったとされる1回目の爆発については、当初は陸軍のトラック脇に停車して運転手が立ち去ったバイクに仕掛けられた「即席爆破装置(IED)」が原因とみられていたが、その後の調査で「パラダイス」内に爆発に伴うクレーターがあったことからそこでの自爆テロによる爆発とほぼ断定、2件とも自爆テロだったことが分かってきた。

 1回目の爆発はクレーターができるほどの強力な爆弾だったこともあり自爆犯の身体はバラバラに四散しており、身元はおろか性別すら判定が難しい状況という。

 それでも目撃証言や衣服の断片などから1回目も女性の自爆犯による犯行の可能性が高まっており、今回の連続自爆テロは女性2人による兵士、警察官といった治安当局者を狙い撃ちした計画的な犯行との見方が強まっている。


「アブ・サヤフ」関係者の身内説

 こうした爆発現場での捜査とともに、軍や警察の対テロ捜査部門、情報当局などによる見方や分析が連日フィリピンのマスコミを通じて伝えられている。

 現在までのところ、自爆テロ実行犯の女性として浮上しているのが、過去に自爆テロあるいは軍と交戦して死亡した男性テロリストの妻、あるいは夫婦で自爆テロを実行したインドネシア人夫妻の娘である可能性だ。

 これまでの捜査で実行犯の可能性があるとみられているのは、2019年6月にスールー州で発生した自爆テロの実行犯ノーマン・ラスカ容疑者、同年11月に同じく軍との交戦で死亡したタルハ・ジュムサ容疑者という「アブ・サヤフ」のフィリピン人メンバーの妻2人、さらに同年1月にホロ市内のキリスト教会で連続自爆テロを実行したインドネシア人夫妻の娘の3人のうちの1人だという。

 このインドネシア人夫妻はインドネシアのイスラム教テロ組織「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」のメンバーで、フィリピンに密航して「アブ・サヤフ」との共同作戦で自爆テロを実行したといわれている。

 フィリピン国立政策大学のミミ・フェイブ教授(テロ・組織犯罪の財政基盤研究の専門家)が地元メディアに明らかにしたところによると、この3人のほかにも少なくとももう3人の女性自爆テロ実行候補者がいるとされ、いずれもが夫や親など身内が治安当局との戦闘で死亡したり、自爆テロ実行犯として死亡したりしている環境にあるという。このため自爆テロは「報復」とイスラム教の「殉教」の考え方に基づいた動機が犯行の背景にあるというのだ。

 フェイブ教授によると、こうした女性の自爆テロ実行犯には「アブ・サヤフ」側から「テロ報奨金」のような形で現金がテロ実行前に支払われ、死亡後に残された家族・親戚の生活資金に充てられることになっていると指摘する。その金額は300万〜500万ペソ(約650万〜1090万円)とみられている。

 こうした支給される現金の出所については、海外からの送金、寄付が財源の可能性が高いという。


ドゥテルテ大統領、戒厳令を検討

 今回連続自爆テロが起きたスールー州で、陸軍や警察は「アブ・サヤフ」メンバーの掃討作戦を強化している。特に標的としているのは、1回目の自爆テロで使用された極めて強力な爆弾を「唯一製造可能な爆弾専門家」としてかねてから「最重要指名手配テロリスト」とされるムンディ・サワジャン容疑者である。

 陸軍のソベハナ司令官は25日「ホロ市だけでなくスールー州全域に戒厳令を布告して対テロ作戦を徹底する必要がある」との考えを明らかにしている。

 ドゥテルテ大統領も「地域を限定した戒厳令の必要性を理解して、現在その可否を検討している」と伝えたれている。ただ上院議員の中には「軍や警察にフリーハンドの権限を持たせる戒厳令には反対」との声もあり、今後議会の動向も見ながらドゥテルテ大統領の判断が待たれる状況だ。

 ドゥテルテ大統領は、2017年5月にフィリピン南部ミンダナオ島の南ラナオ州マラウィ市が、中東のテロ組織「イスラム国(IS)」と関係が深いテロ組織、地元反政府組織「マウテグループ」などに武装占拠された際に、同州周辺に地域を限定した戒厳令を布告した経験がある。

 同市は軍による奪還作戦で同年10月に解放されたが、戒厳令は残党掃討などの名目で延長が繰り返され、最終的には2019年12月末まで継続された。

 フィリピンではマルコス独裁政権時代に言論や表現の自由、学生らによる反マルコス運動を封じ込め、活動家らへの弾圧、人権侵害をある意味で「正当化」させた戒厳令に対する警戒感、嫌悪感が国民の間にいまだ根強く残っているとされ、ドゥテルテ大統領も安易な戒厳令布告には慎重といわれている。

 そうでなくてもコロナウイルスの感染防止対策が後手に回り、8月6日には東南アジア諸国連合(ASEAN)でそれまで1位だったインドネシアの感染者数をフィリピンが追い越し、域内最悪の感染者数を連日更新し続ける状況が続いている。

 コロナ対策に加えて、テロ事件発生による戒厳令布告をどうするかという難問を突き付けられたドゥテルテ大統領には、頭の痛い日が当分続きそうだ。

筆者:大塚 智彦

JBpress

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