北朝鮮の「検問所」が「料金所」に変身した裏事情
2018年9月3日(月)6時7分 デイリーNKジャパン
「上に政策あれば下に対策あり」のお国柄の北朝鮮。金正恩ファミリー関連のことを除けば、大抵のことが知恵とコネとカネで何とかなってしまう。それは、あらゆる権限がカネを生み出す道具になることを意味している。
最近、中国との国境地帯に通じる道に設置された哨所(検問所)を無事に通過させてくれるブローカーが登場したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋の話として報じた。
ほかの地域から中国と国境を接している咸鏡北道の会寧(フェリョン)や羅先(ラソン)に行こうとすれば、少なくとも3ヶ所の検問所を通らなければならない。正式に許可を得て通るには、様々な役所と掛け合う必要があるが、ブローカーに10万北朝鮮ウォン(約1300円)を払えば何の問題もなく通過できる。それも車に乗ったままだ。
ブローカーは、検問所に勤務する兵士とグルになって通行料を取っている。兵士は民間人から直接ワイロを受け取るのは具合が悪いのだろう。中間にブローカーが立っているというわけだ。今のところ、当局はこうした規律違反に何の措置も取っていないが、現場の兵士が上官に上納金を支払っているため、報告が行かないものと思われる。
主な利用客は、韓国や第三国に脱北した家族を持つ人々や商人だ。国外の家族や取引先と連絡を取るには、国境近くまで行って中国キャリアの携帯を使わなければならないため、どうしても検問所を通らなければならないのだ。
そもそも北朝鮮は、国民の移動の自由を最も厳しく制限している国のひとつだ。市や郡の境を越えるには旅行証、つまり国内用のパスポートが必要になる。旧ソ連のシステムを手本にしたものだが、本家本元より遥かに厳しい。市、郡、道の境界線ごとにいくつもの検問所が設置されている。
その検問を無意味なものにしたのが、タクシーだ。ドライバーは検問所に定期的にワイロを納めているため、通行証なしでも概ね問題なく通してもらえる。その代わり、数倍の金額が運賃に上乗せされる。
ただし、首都・平壌や国境地帯に行くためには、旅行証とは別に通行証明書が必要となる。この手続が非常に面倒だ。また、通行証明書を持っていたとしても、検問所で取締官から様々な嫌がらせを受ける。少しでもカネをせびり取ろうという魂胆からだ。それならば、多少のカネを支払ってでもブローカーにまかせてしまった方がストレスが少ない。
咸鏡北道と同様に中国に国境を接している平安北道(ピョンアンブクト)の別の情報筋も、新義州(シニジュ)に行く道の途中にある検問所を通過させてくれるブローカーが登場したと伝えた。検問所を管轄する軍部隊の幹部とブローカーが結託しているため、検問所はもはや単なる料金所のようになってしまっている。
当局は最近、脱北を防ぐために国境地帯への通行証明書の発行基準を厳しくしたのだが、検問所がまともに機能していないなら何の意味もない。
当局は今のところ、実態を知ってか知らずか何の対策も行っていないようだが、国家的行事の前後に国内移動への統制を強化する今までの慣例を考えると、9月9日の建国70周年に合わせて、ブローカーへの取り締まりが行われる可能性がある。