「食べ物をよこせ」北朝鮮軍兵士、水害被災地で民家襲撃
2020年9月6日(日)5時50分 デイリーNKジャパン
しつこく居座る梅雨前線による長雨で、各地で甚大な被害が発生した北朝鮮。被災地の一つ、黄海北道(ファンヘプクト)銀波(ウンパ)郡には、全国から大量の人員が投入され、復旧作業が進められている。
現在、住宅の再建事業が行われているが、地方政府の予算不足で民間の投資を頼らざるを得ない状況となっている。しかし、問題はそれだけではない。工事に動員された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士が、家や財産を失った被災者をさらに苦しめているというのだ。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、金正恩党委員長が視察を行った直後の先月9日に、多数の兵士が現地に到着した。まずは、道路の復旧、堤防の補修などを行い、その後は住宅の建設も行っている。
彼らは、民家のそばに宿営しているが、時々やって来て、盗み出した建設資材をパン、酒、タバコと交換して欲しいというものだが、応じる住民はいない。
それもそのはず、このような現象が起きることを予見した当局が、住民に対して「兵士が持ち込んできたセメントや木材などの建設資材は決して受け取ってはならない、受け取った者は法的に処罰する」との警告を発したからだ。
北朝鮮では、災害や事故が起こると軍の兵士が大量に動員されるが、当局は送り込むだけ送り込み、食糧などの補給をまともに行わないのだ。そのため、被災地では犯罪が多発する。
北朝鮮北東部に甚大な被害をもたらした2016年8月の台風10号(ライオンロック)。被災地には兵士が動員されたが、一般住民から食べ物を盗むなどの事件が多発。金正恩氏は、「復旧建設中に人民の財産に手を出す現象が発生すれば、その場で銃殺してもいい」との命令を下す状況となった。
今回は、軍の上層部が「建設資材を売り払う現象は軍法で裁く」との警告を発しているが、腹をすかせた兵士たちには効果がないようだ。
兵士らは民家に資材を持ち込み、食糧との交換を要求するが、民間人は「絶対にダメ、買ったら罰せられる」と決して応じようとしない。それに腹を立てた兵士らは、報復として民家に押し入って「食べ物をよこせ」と凄んだり、店に押しかけて飲食をした後、「ツケで頼む」と言い残し、代金を払わなかったりなどの行為に及んでいる。
住民の間からは「兵士らのせいで商売もできなくなった、建設やら何やら全然ありがたくない」との声が上がっている。銀波郡の行政当局には信訴(不正行為の告発)が寄せられているが、郡党(朝鮮労働党銀波郡委員会)は何もできずにいる。兵士らに食料を提供するほどの余裕がないからだ。
また、兵士の犯罪は警務隊(憲兵隊)でなければ処理する権限がなく、安全部(警察署)も手が出せない。平時にも民家や農場を襲撃して食糧を強奪するなどの事件を起こしているような連中を、被災地に送り込むことは、「二次災害」以外の何物でもない。