「イメージは悪くない」欧州で聞いた中国製EVへの意外な反応

9月14日(火)6時0分 JBpress

(姫田 小夏:ジャーナリスト)

 9月7日〜12日、ドイツでミュンヘンモーターショー「IAA MOBILITY 2021」が開催された。数多く出展された電気自動車(EV)のなかで、欧州記者陣の注目を集めたのは中国の電気自動車だ。中国EVメーカーは、環境規制が強まる欧州市場に大きな商機があると捉えている。だが、欧州市民に“中国製品アレルギー”はないのだろうか。


欧州でのマーケティングに本腰

 ドイツ自動車産業連合会(VDA)が主催するモーターショーは例年フランクフルトで開催されてきたが、今年からミュンヘンに会場が移された。ミュンヘンで見本市関連事業を手掛ける「kobepublishing」の内海志保さんが会場を訪れ、現地の様子をLINEの動画機能を使って送ってくれた。

 今回のモーターショーには700社近くが出展、ドイツ資本の企業が多数を占める中、中国からは11ブランドが出展した。最も目立っていたのが、中国最大の民間自動車メーカーで、海外展開に本腰を入れている長城汽車である。同社の「ORA(欧拉)」ブランドはBMWやMINIのブースに近接する場所に、「WEY(魏牌)」ブランドはメルセデスのブースに接近する場所に出展していた。

 ドイツで開かれる展示会への日本企業の出展をコーディネートしてきた内海さんは、「これまでミュンヘンで行われた展示会では、中国の出展企業は巨大スペースを一括で借り上げて『中国パビリオン』を形成するのが一般的でした」という。だが今回のモーターショーでは、中国企業は各社が独自にブースを確保し出展している。

 また中国のEVメーカーによるプレス向けイベントでは、欧州でのマーケティングに本腰を入れている様子が伝わってきたという。「単に通訳を雇うのではなく、自社でドイツのマーケティング人材を育てているなど、完全に欧州市場に照準を合わせています。マーケティング施策から“中国臭さ”はほとんど消し去られていると言っていいでしょう」(内海さん)。

 内海さんは長城汽車「ORA」のブースで、「デザイナーはドイツ人です。欧州の人たちの体格や嗜好に合わせた設計を行っています」との説明を受けたという。少なくとも長城汽車は「徹底した現地化」を目指して欧州市場を攻略しようとしている模様だ。


欧州勢と中国勢のアピールポイントの違い

 長城汽車は、河北省保定市を拠点とする中国最大の民間自動車メーカーだ。中国の市場研究プラットフォーム「乗用車市場信息聯席会」によれば、2020年のEV販売は1位BYD(比亜迪)、2位SGMW(上汽通用五菱)、3位テスラに続き、5万6261台の売り上げで5位につけた。

 同社は元々はバイクメーカーだったが、ピックアップトラックの生産で自動車市場に参入した。「当初は、トヨタや日産のピックアップトラックと外観がそっくりの製品を生産していた」(中国子会社に駐在していた日本人総経理)という。

 製品の輸出を開始したのは1998年、中国自動車メーカーの先陣を切る形で海外市場の第一歩を踏み出した。現在、ピックアップトラックとSUVを、ロシア、アフリカ、オーストラリア、中南米、南アジアなどに向けて販売している。EVについては2019年の上海モーターショーで「ORA R1」を披露してからプレゼンスを高めてきた。2021年からはドイツを起点に欧州市場に本格参入する構えだ。

 今回のモーターショーでは、長城汽車の「ORA」以外にも中国企業関連のEVブランドとして、ボルボと浙江吉利が共同開発する「Polestar(極星)」、2015年末に浙江省で設立された新興の零跑汽車が開発する「ZeroRun(零跑)」などが出展されていた。

 それらを見て内海さんは、「BMWなどが『環境保護』をキーワードに、リサイクル材と再生可能材料で『100%リサイクル』を打ち出すのに対し、中国勢は『顔認証』『AI』などハイテク装備で勝負をかけている印象を受けた」という。「理念」に重きを置く欧州の巨頭と、「超ハイテク」を武器にする中国勢の違いが浮き彫りになった形だ。


家電量販店でEVを売るメーカーも

 では中国のEVを、欧州市民はどう受け止めているのか。ミュンヘンに住むジャーナリストのベンジャミン・ベデコヴィックさんは次のように話す。

「中国のEVは見た目も格好いいし、バッテリー性能も良く低価格です。一般市民はコンセプトで商品を選ぶ経済的余裕はなく、コスパのいいものを選ぶ傾向が強い。欧州では中国車に対するイメージはけっして悪くはありません。今後、一般市民は安価な中国製を選ぶ可能性が大いにあるでしょう」

 ベンジャミンさんは注目すべきモデルとして、中国NIUテクノロジーズの「NIU」と愛馳汽車の「Aiways」を取り上げた。NIUは四輪ではなく電動スクーターだが、中国製品が欧州で受け入れられていることを示す格好の事例だという。

 2014年に北京で創業され、米ナスダックにも上場しているNIUテクノロジーズ(牛電科技)の電動二輪車「NIU」は、現在20カ国に輸出されており、欧州では4499ユーロ(約58万円)で販売されている。ベンジャミンさんによれば、「特にスペインやイタリアで人気が高い」という。グローバル市場調査会社の米グランドビューリサーチ社は同社製品について、「環境面を重視する欧州、価格面を重視するアジアの途上国、それらの2つの市場で支持を得ており、長期的な成長が見込まれる」とコメントしている。

 EV「Aiways」を販売するAiways(愛馳汽車)は、2017年の設立当初から欧州を最重点攻略市場に据え、2020年から積極的な展開を始めている。既存のディーラーネットワークに頼らずネット販売に力を入れ、「ドイツでは家電量販店でも売られている」(同)という。さしずめヤマダデンキやヨドバシカメラでEVを売っているような感じだろうか。


欧州市場で活路を開きたい中国メーカー

 EUは2020年から二酸化炭素排出規制を厳格化し、2035年までにガソリン車の実質販売禁止という目標を打ち出した。これを受け2020年には、中国の半分程度しかなかった欧州のEV市場規模は、一気に中国と肩を並べる規模に成長した。EV購入への政府の補助金もあり、今後の販売はさらに加速する見通しだ。

 自動車専門調査会社、独シュミット・オートモーティブ・リサーチのレポートによると、「2021年1〜7月に欧州で登録された中国のBEV(バッテリー式電気自動車)は2万800台。年末までに10万台に達することが見込まれる」という。

 中国国内では500社近いEVメーカーが乱立しており、各社は厳しい生存競争にさらされている。拡大する欧州市場で活路を開きたいところだが、法規法令の遵守とともに徹底的な現地化という高いハードルを乗り越えられるかが課題となっている。

筆者:姫田 小夏

JBpress

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