北朝鮮軍、コロナ対策で警告通り違反者を射殺

2020年9月25日(金)10時38分 デイリーNKジャパン

北朝鮮の社会安全省(警察庁)は先月、国境地帯の住民に対して、国境沿いに許可なく接近すれば、接近すれば人も動物も無条件で銃撃するとの布告を出した。これは、脱北して中国で暮らしていた北朝鮮人の女性が、新型コロナウイルスの陽性判定を受けた後で、北朝鮮に密かに戻っていた事件を受けてのことだ。


この布告が実行に移された。国境地帯で銃撃が行われ、死者が発生したと両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。


事件が起きたのは、中国との国境を流れる豆満江に接した両江道の大紅湍(テホンダン)郡だ。今月14日の夜11時ごろ、国境地帯にいた男性2人が銃撃され、1人がその場で死亡し、もう1人は左の太ももが銃弾を貫通し重傷を負った。


射殺されたのは、現地に住む30代の男性A。一人残された父親の世話をしつつ、密輸で生計を立ていたが、コロナによる国境警備の強化で収入が激減してしまった。


さらなる国境警備の強化と、国境警備隊の地元との癒着を監視するため、当局は、暴風軍団として知られる特殊部隊、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)第11軍団の兵士3000人を送り込んだが、そこにはAがよく知る人物がいた。


Aもかつて暴風軍団に2年間務めていたが、病気により除隊となっていた。国境地帯に派遣された兵員3000人の中にかつての同僚で、今は副分隊長を務めるBがいたのだった。久々の再会となった2人は早速意気投合し、トゥルチュク(クロマメノキの実)を密輸することにした。


これはブルーベリーの一種で、北朝鮮国内でも中国でも高く買ってもらえる。それを輸出して一儲けする魂胆だったようだ。


今月14日の夜。Aは、副分隊長Bが哨所(監視塔)で勤務する時間に合わせて、迷彩柄の軍服を着て、六重に張り巡らされた監視網と悠々と突破して中国に向かい、北朝鮮に戻ろうとしていた。ところが、闇夜に何らかの物体が動くのを発見した国境警備隊は、空砲3発で威嚇射撃をした。しかし、2人は安心しきっていたのか、立ち止まろうとしなかった。そこを銃撃された。


Aは即死、Bは重傷を負って国境警備隊に逮捕され、取り調べを受けることになったが、ここで国家保衛省(政府の秘密警察)と朝鮮人民軍保衛局(軍の秘密警察)の縄張り争いが起きた。それぞれ事件は自分たちの所管だと主張し、意見が対立した。「よそ者」の暴風軍団と国境警備隊は衝突を起こしているが、それと関係している可能性がある。



結局、国家保衛省がまず取り調べを行い、後で軍保衛局に引き渡すこととなり、副分隊長Bは現在、国家保衛省の地元の保衛部に勾留され、ベッドに鎖で縛りつけられた状態で、治療と取り調べを同時に受けている。


保衛部は、死亡した男性の荷物の中に、中国人民元と、使われていた痕跡のあるノートパソコン1台、衣類、靴があることから、男性が密輸で中国に行ったついでに、民家で窃盗を働いていたものと見ている。中国の国境沿いの地域では先月、脱北した暴風軍団の兵士が民家に押し入り強盗を働く事件が起きている。


また、国家保衛省は銃撃を指示した国境警備隊の分隊長と、実際に銃を撃った下戦士(二等兵)に対して口頭で感謝の意を示した上で、新型コロナウイルスが収まったら冬季訓練の前に報奨として休暇を取ることを許可した。


今回の事件を知った近隣住民はすっかり怯えきっている。


「銃撃するとの布告を出していたが、本当に撃った」
「軍隊の弾丸で人民を撃つなんて、本当に恐ろしくて体が震える」


この地域の人々は、9〜10月にトゥルチュク、松の実、薬草などを取って中国に密輸して1年間の生活費を稼ぐ。つまり、今回の銃撃事件は決して他人事ではないのだ。怖くて密輸もできず、だからといって何もしなければ生活が成り立たず、ただため息をつくばかりだとのことだ。

デイリーNKジャパン

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