金正恩の「乗馬狂い」に飢える国民が大反発

2023年9月29日(金)10時12分 デイリーNKジャパン

白馬に跨り、駆け抜ける将軍様。「暴れん坊将軍」の冒頭を彷彿とさせるが、北朝鮮の金正恩総書記を国営メディアが紹介する際によく使われる映像だ。


乗馬好きで知られる金正恩氏は、平壌郊外に2013年、美林(ミリム)乗馬クラブを作らせた。国営の朝鮮中央通信は昨年9月22日、同クラブ「人民に裕福で文化的な生活を与えようと心血を注ぎ、労苦を費やしていく敬愛する金正恩総書記の発起と賢明な指導によって立派に建てられた大衆乗馬奉仕拠点である」としながら、「乗馬運動に対する人々の関心が高まり、愛好家も増えている」と報じている。


しかし、食糧難の中で乗馬を楽しむ余裕がある人はごく一部。ほとんどの人は行こうと思ったことすらないだろう。極めて国民受けの悪い乗馬クラブだが、東海岸の清津(チョンジン)にも作られ、これまた市民の不興を買っている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。



現地の情報筋は、清津の自慢であった青年公園が数年前に閉鎖され、面積が半分に減らされ、残りは乗馬場にされてしまったと伝えた。1960年代に建設され、東京ドーム6つ分相当の総面積25ヘクタールに及ぶ青年公園は、日本海に面したところにあり、海水浴場、池、ボート乗り場などがある、市民の憩いの場だった。情報筋はその思い出をこう語っている。


「広い敷地で海に面した青年公園は、景色もいいが、鬱蒼と茂る樹木のおかげで夏にも涼しく、くつろぐには本当に良いところだった。平壌の遊園地のように現代的な遊具はないが、テニスコート、バスケットボールコートもあり、ボートにも乗れて、清津市民はもちろん、他所から来た人々も訪れる名所だった。清津には、多くの人が一度に利用できる文化施設が不足しているので、休みの日には座る場所がないほど多くの人がやって来た」


ところが去年、こんなことになってしまった。



清津市遊園地に乗馬走路を新しく建設


【平壌10月24日発朝鮮中央通信】咸鏡北道で、清津市遊園地に乗馬走路を新しく建設した。
海岸に位置している遊園地の湖のほとりに沿って1300余メートルの乗馬走路が素晴らしく築かれ、訓練場なども具備された。


乗馬走路が新しく建設されて、道内の勤労者と青少年学生が健康によい乗馬運動をはじめ、文化的生活を享受できる土台が築かれた。−−−


青年公園から遊園地に名前が変えられ、中央にある湖と森を取り囲むように乗馬走路が作られたため、近寄れなくなってしまったのだ。


公園の破壊は2012年から始まった。故金正日総書記の遺訓に従い、同氏と故金日成主席の銅像から海に向かって広場が造成されたことで公園が削られてしまった。その後、清津劇場、青年野外劇場が建設されたことでさらに削られた。


「残りの空間すらも、昨年夏から当局が住民を動員して、湖の周辺に長い乗馬走路を作らせ、粗末な訓練場も建てさせて、(公園は)乗馬場になってしまった。そのせいで湖に近寄れなくなり、テニスコートとボート乗り場もなくなったが、当局は『乗馬場は金正恩氏の人民愛の結実』という宣伝を繰り返している」(情報筋)


別の情報筋も、平壌とは違い、地方都市には大きな公園などがほとんどないのに、数少ない公園だった青年公園がなくなってしまったと嘆いた。そればかりではない。馬糞をきちんと処理していないため、周囲には悪臭が漂うようになった。


喜んでいるのは金持ちやごく一部の若者だけで、ほとんどの市民は青年公園のかつての姿を懐かしんでいる。


「清津で生まれ育った人なら、青年公園にまつわる思い出がない人などほとんどいないだろう」(情報筋)


そんな人々の思い出を奪い去るのが、金正恩氏の人民愛とやららしい。


なお、衛星写真の分析によると、北朝鮮には平壌と江原道(カンウォンド)にそれぞれ4カ所、平安南道(ピョンアンナムド)に3カ所など、全国で少なくとも20カ所の乗馬場がある(造成中も含む)。人々が飢えに苦しみ、乗馬を楽しむどころか、餓死寸前に追い込まれているというのに、金正恩氏は国民を動員して自分や特権層の道楽のために乗馬場を作っているのだ。


国民が求めているのはまずは食糧、そしてそれを買うための現金収入を得るための商売の自由だ。ところが、ハコモノ建設が業績扱いされるため、ニーズを読み違えた的はずれな施設が各地に乱立する状況になっている。

デイリーNKジャパン

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