EV政策の失敗に見る、目先の成果を追い求める韓国の短期的思考

10月3日(日)6時0分 JBpress

 21世紀の自動車産産業で重要なキーワードの一つは「エコ」、すなわちカーボンニュートラルまたは二酸化炭素排出削減である。だが、国ごとに好まれるアプローチは異なっている。それはアジア屈指の自動車生産国である日本と韓国も同様だ。日本勢が時間をかけて投資し、長期的な視野でアプローチするのに対して、韓国は政府の政策や支援金に左右される傾向にある。

 例えば、トヨタ自動車は9月7日に、バッテリー及び脱炭素に関する目標を発表した。そのプレゼンは専門的かつ詳細で、具体的な方向性を示していた。目標にいかに早く達するかという話ではなく、何をどういう順番で開発していくかという点が丁寧に描かれており、示唆に富むものだった。

 それに対して、同時期に開催された韓国の自動車業界による水素モビリティショーは水素社会の実現という目的こそ理解できるものの、具体的なアプローチについての言及は少なく、指し示している方向性は曖昧だった。どちらもエコを標榜しているが、両国の自動車メーカーの性格をよく表しているように感じた。

 アジアの自動車生産国の一つである韓国では、以前からエコや脱炭素について様々な意見が出されているが、補助金ありきで、政府の政策をうかがうものが少なくない。

 その代表に、低速電動車事業がある。韓国政府は2010年から2010年代半ばまで、エコで誰でも簡単に運用できる低速電動車への支援を打ち出した。その結果、複数のメーカーが参入したが、実体の伴わない会社がほとんどで、今なお残っているメーカーは見当たらない。
 
 クリーンディーゼルについても同様だ。

 炭素排出量が少ないディーゼルエンジン車が未来の交通手段になるとして、一部の大手マスコミや自動車と関係がないファッション誌がクリーンディーゼルを褒めちぎる記事を掲載した。だが、2015年9月にドイツ・フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル不正事件が発覚すると、その後は一貫して沈黙している。

 権威ある自動車専門誌や専門家が自動車メーカーによるマーケティングの実態や、それに翻弄されているマスコミの姿を分析し、記事にしたこともあるが、フォルクスワーゲンは多額の広告費やマーケティング費を投入し、そういった分析記事を握りつぶした。最終的に、ディーゼル不正の問題が大きくなると、フォルクスワーゲンの責任者はドイツに帰国した。

 同様の問題は、現在の中古車輸入規制にも垣間見える。

 世界がエコに向かう中、燃費の悪い中古車は新しい車に置き換えられていくという流れにあるが、古い車に乗り続けることがエコへの一番の早道という評論家も多い。また、中古車の輸入や維持には自動車文化の発展という側面もある。

 韓国は自由貿易を謳っているが、中古車の輸入については規制のため、2015年以降の中古車以外は輸入できない仕組みだ。この規制は韓国の自動車メーカーの要求によって導入されたが、こういった背景や事情は役所の担当者を含め、誰も理解していない。

 ディーゼル不正事件にも共通しているが、韓国の問題は、大企業の基準に任せ、それさえクリアしていれば大丈夫と、政府が国民をマインドコントロールしているところにある。その結果、問題が起きれば政府はメーカーを処罰するが、そもそもの基準を丸投げしているという問題は何も解決されない。


「環境に優しい都市」済州島の実態

 文在寅政権の発足以後、政府は本格的なエコと脱炭素を掲げて、様々な政策を発表したが、脱原発と太陽光発電、電気自動車の普及など、すべてが失敗したと言っていい。

 脱原発を掲げて設置した太陽光発電だが、土や野生動物の排泄物のために、海上に設置した太陽光パネルは海鳥の排泄物で汚れて本来の役割を果たせずにいる。また、山林を伐採して太陽光パネルを設置したため、夏場の大雨に対して脆弱になり、至るところで山崩れが起きた。

 太陽光発電の事業主体は政府高官の側近や中国資本だったことが知られているが、多くが沈黙している。清掃費用は高額で、海上に太陽光パネルを設置した地方自治体は清掃を諦めるほかはない。原発の相次ぐ稼働中止で、今年の夏、電力難に見舞われ、政府は原発の再稼働を検討している。

 電気自動車を普及させるため、韓国政府は様々な特典を用意している。例えば、電気自動車を購入する際の補助金の支給や充電スタンドの拡充を掲げているが、電気自動車を購入する人の多くは環境への配慮より、補助金を得て自動車を少しでも安く購入したいと考える。

 電気自動車は高額で、誰でも購入できるものではない。ある程度、経済的な余裕がある人がセカンドカーなどで購入する例が多く、国民が懸命に納めた税金を、経済的余裕のある人たちが自動車を買う際に補助しているのが実状だ。韓国の専門家らは補助金の支給がなくなれば、電気自動車の販売量が明らかに暴落すると警告している。

 済州島は「環境に優しい都市」と言われており、電気自動車の販売台数が韓国内で最も多い。公共交通機関から観光用レンタカー、地方自治体の公用車まで、電気自動車を活用しているといるが実状は違う。

 KBSテレビや朝鮮日報などの報道によると、現在、100台以上の電気自動車(主にBMWi3)が野山や人里離れたところに放置されている。レンタカー会社が政府の補助金を得て購入したものの、観光需要の低迷で割賦金やリース費用を支払えなくなり、あるいは事故時の修理費が負担になって捨てられた。済州島には廃棄されたバッテリーの処理施設がなく、運送や処理も時間的、費用的な課題が多い。


インフラ整備の前に電気自動車やFCVを普及させようとする韓国

 今年、改正された建築法に、電気自動車に関する内容が追加された。総駐車台数に占める電気自動車用充電設備の設置義務を3%から5%に引き上げるというもので、新しいマンションやオフィスビルなどで100台分の駐車場を設置する場合、電気自動車用に5台の駐車場を確保しなければならない。

 しかし、大規模なマンションや団地の世帯当たり自動車保有数は2-3台で、5%では全く足りない。政府の電気自動車の奨励策とは格差が大きい。

 政府やメディアが主張する「202x年電気自動車30万台」という条件を満たすには、充電施設が途方もなく不足している。

 筆者が自動車記者として勤務した2012年に初めて電気自動車が販売された時、各メディアは「2020年には電気自動車20万台」などと競うように掲載した。しかし、韓国で販売された電気自動車は13万台余りで、充電スタンドも6万4000台程にとどまっており、依然として不足しているのが現状だ。

 9月初めの韓国自動車業界の最大の話題は、2025年以降、現代自動車が高級ブランド「ジェネシス」で内燃機関を用いたエンジン車をラインナップしないということだった。ただ、自動車各社は電動化に取り組むが、伝統的な自動車メーカーは依然として電気自動車の開発や生産には消極的だ。

 現代自動車は中小型から商用車、ジェネシスに至るまで電気自動車モデルを揃えているが、電気自動車を買う人々は充電ステーションの問題に悩まされている。不動産価格が高騰する中、回転率や事業性の低い電気自動車充電スタンドを運営しようとする人はいない。内燃機関車の給油時間は平均7分、電気自動車の充電時間は平均40分だ。

 現代自動車は電気自動車のほか、水素をエネルギーとする燃料電池車(FCV)の普及を目論むが、FCV用の水素ステーションは現在、全国で55カ所しかない。また、現代自動車は当面、バッテリーを外部(LG電子)からの供給に頼る見通しだ。韓国では電気自動車のバッテリーの安全性が指摘されているが、しっかりとした解決策は提示されていない。

 このように、韓国の自動車業界は内燃機関から段階を踏まず、インフラを整えることなく、次の段階に移ろうとしている。その背後には、「トヨタ超え」という現代自動車の切実な夢と、「日本には二度と負けない」という文在寅政権の意地を実現するには、「とりあえずやる」というアプローチが重要だと考えているのだろう。


韓国企業に欠けている一貫したトヨタ流のアプローチ

 一方、トヨタは1997年に初の量産型ハイブリッド自動車を披露した後、トヨタの次世代戦略はゆっくりだが着実に進められている。

 トヨタは今回のバッテリー及び脱炭素計画で、バッテリー開発とハイブリッド(HEV)、PHEV、BEV(純粋電気自動車、バッテリー電気自動車)に関する包括的な説明を行った。トヨタによると、BEVのコストや販売数から見て、現在のHEVの方が効率が良く、炭素排出量が少ないという。

 トヨタはニッケル水素電池やリチウムイオン電池、商用化が近いバイポーラ型ニッケル水素電池の最近公開された固体電池の効率性強化についても説明し、各バッテリーの特徴を活かして効率を極大化し、生産単価を下げる方策や投資なども説明した。

 今回のトヨタのバッテリー及び脱炭素プレゼンテーションと韓国の水素モビリティショーを見て感じたのは、未来に向けた準備のための源泉となる技術に投資するトヨタと、現実に汲々として政府政策に合わせる現代自動車の違いだ。

 トヨタは具体的な計画を発表しただけではない。既に数年前から豊田市で推進している「とよたエコフルタウン」や「Woven City」など、脱炭素化にまつわる様々な研究を展開している。画期的なアイデアや実験的な試みを通じた脱炭素化へのアプローチが見られる。

 一方、韓国の自動車メーカーは、中身の充実より、短時間で目に見える結果に集中する傾向がある。水素モビリティショーには、様々な水素自動車が登場したが、「どのようにして」という命題が抜けている。

 韓国の自動車関連メディアは、水素モビリティショーやドイツで開かれたIAA(ミュンヘンモーターショー、かつてのフランクフルトモーターショー)に注目し、未来の交通手段の核心を説明したトヨタのプレゼンテーションに関心を持つ業界関係者は、ごく少数に過ぎなかった。

 トヨタはコロナ禍で規模が小さくなったIAAに参加せず、オンラインで世界に向けて、プレゼンテーションを行ったが、未来の自動車産業の展望についてより具体的で多様な情報を提供した。

筆者:黄 旭翼

JBpress

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