北朝鮮版「新・仁義なき戦い」…ある敗残者の過酷な運命

2018年10月13日(土)6時41分 デイリーNKジャパン

北朝鮮ほど、国家が国民を厳しく統制している国はない。言論の自由も結社の自由も認められておらず、株式会社や市民団体、またはヤクザのような私的集団は存在しない。だからそうした勢力同士の利害のぶつかり合いもないはずなのだが、それはどこまでも表面的な話だ。


北朝鮮にも暴力団組織のようなものがあり、乱闘騒ぎもときどき起きている。


彼らの抗争がどれほど凄まじいものであるかは、今年3月にロシアの地方都市で発生した北朝鮮労働者とタジキスタンの労働者の乱闘の様子を見ればわかる。Vesti.ruが公開した動画は、まるでヤクザ映画のようなド迫力である。


党や軍、行政機関の間での利権争いも熾烈だ。韓国のニュースサイト、リバティ・コリア・ポスト(LKP)によれば、両江道(リャンガンド)の雲興郡(ウヌングン)にある朝鮮労働党39号室傘下のマグネサイト鉱山を舞台に、党官僚と支配人の権力闘争が勃発。謀略にはまった党官僚が、家族もろとも政治犯収容所に送り込まれる事件があった。


両江道の情報筋は、LKPに次のように語っている。


「鉱山の初級党委員長は9年前、この地の開発が開始された当初から配置され、労働者からの信頼も厚かった。しかし2年前、新たに赴任した支配人が、鉱山の実権を掌握していた党委員長を疎んじ、政治犯の濡れ衣を着せて繰り返し告発した」


情報筋によれば、支配人は最初、党委員長の『失言』を利用しようとしたという。


「党委員長は今年5月、労働者の前で『元帥様(金正恩党委員長)のポケットばパンパンになってこそ人民の暮らしも良くなる。だからマグネサイトをたくさん掘って、元帥様のポケットをいっぱいにして差し上げよう』と語っていた。これを、『元帥様がまるでカネに飢えているように誹謗した反革命的行為』であるとして、道の党委員会に報告した」


北朝鮮では、最高指導者の権威を傷つけるような行為は、「1号事件」として重罪の対象となる。


LKPによれば、そのような仕組みを悪用して政敵を抹殺する行為は、1970年代に横行したという。その悪夢が復活した今回の事件は、北朝鮮版の「新・仁義なき戦い」とでも言えるだろうか。


もっとも、周囲から信頼の厚かった党委員長は、これだけでは倒れなかった。道の党委員会で思想検閲を受けた後、鉱山に復帰したのだ。すると支配人は、中央党にいる親戚を総動員し、遂に党委員長を政治犯に仕立て上げたという。


北朝鮮の政治犯収容所はもともと、有期刑の囚人が収容される「革命化区域」と無期刑の「完全統制区域」に分けられていたが、近年になって前者が廃止されたとされる。つまり一度囚われたが最後、生きて出てくることはできないのだ。


このほかにも、デイリーNKの内部情報筋によれば、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の端川(タンチョン)水力発電所の建設現場で最近、軍の兵士らと道の外貨稼ぎ機関である金剛指導局傘下の突撃隊(建設部隊)の衝突が発生。1名が死亡し、重傷者も4名を数えた。


このように私的集団同士の抗争が過激化するのも、「生きにくい社会」で生き延びるための、生存競争の激しさ故と言うことができるだろう。

デイリーNKジャパン

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