韓国の若者が文在寅政権に反旗 背景に世代間格差か

10月16日(水)7時0分 NEWSポストセブン

支持率は過去最低を更新した(EPA=時事)

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 10月14日、韓国の曹国(チョ・グク)法務部長官(法務大臣)が辞任した。日本製品の不買運動に加え、与党議員による根拠不明な数値を基に作成した「放射能汚染日本地図」の公表、東京五輪への旭日旗持ち込み禁止を求める国会決議採択など、反日姿勢が続く韓国でチョ氏が電撃的に職を辞したことは、次なる“異変”の前触れかもしれない。


「とうとう若い世代が文在寅政権への“反抗”の狼煙をあげ始めたとみるべきです」


 そう語るのは、元『週刊東洋経済』編集長で韓国経済に精通する勝又壽良氏。その指摘通り、現在の韓国では、若い世代を中心に文大統領の支持率が就任後最低を更新している。たとえば世論調査会社リアルメーターが9月19日に公表した30代の支持率は60.3%から48.5%に急落し、20代も48.7%から43.7%まで下がった。


 若者が反文在寅にシフトした象徴的な出来事として勝又氏が注目するのは「ハンギョレ内紛」だ。


 9月6日、韓国の進歩派メディアであるハンギョレ新聞で前代未聞の出来事が発生した。文大統領が法務部長官に任命したチョ氏を批判する記事が編集局長の指示で削除されたり、内容を書き換えさせられたことに反発した入社7年目以下の若手記者31名が、連名で編集局長の辞任を求める声明を出したのだ。


 文大統領寄りの姿勢が目立ち「文政権の御用新聞」と目されていたハンギョレの若手記者らの決起は韓国ウォッチャーを驚かせた。


 勝又氏が注視するのは、声明で若手記者らが韓国の「86世代」を「進歩既得権層」と称して痛烈に批判したことだ。


「86世代とは1960年代に生まれて、1980年代に学生運動で軍事政権と激しく渡り合った世代のこと。1997年の経済危機では入社間もなかったため解雇を免れ、その後の10年間で企業が採用を減らしたので社会的な昇進も早かったとされます。86世代は韓国で最も恵まれた世代であり、文政権の中枢を占めている。完全な左派であるハンギョレの若手が、文政権の要であり、その支持層でもある86世代をひっくるめて“既得権益を享受する階層”とみなして批判したことには、大きなインパクトがあります」(勝又氏)


 激しい異議申し立ての背景には、韓国の若者を取り巻く厳しい経済環境がある。2017年4月の就任以来、文大統領が目玉政策として促進した最低賃金の大幅引き上げと週52時間労働制(従来は同68時間)は、企業活動を圧迫して景気を停滞させた。2018年、韓国の毎月の失業者は平均100万人超に達し、最も不況のあおりを受ける若者の「体感失業率」は今や25%を超えると言われる。


 若い世代の経済的困窮は激しく、韓国労働研究院が今年8月に発表した調査結果によると、15〜34歳の男女2500人のうち、1か月間の貯蓄が「0ウォン」と回答した層が23%に達した。


 こうした若者の苦境を文大統領の政策が救うことはなかった。


「そもそも朴槿恵前大統領を最前線で追及した20〜30代の若者は政権交代による政治のクリーン化や景気回復に大きな期待を賭けていました。ところが文大統領と取り巻きの86世代は反日米・親中北政策を進める一方で、肝心の経済政策はまったくの的外れで若者は朴時代以上に貧窮しました。


 今年4月に韓国大統領府で行われた文大統領と市民団体・社会運動団体の懇談会では、『全国青年政策ネットワーク』の代表者が『政権が変わっても若者に対する政策は変わらない。若者の生活全般を重視する様子が見られない』と涙ながらに訴えるハプニングがありましたが、文大統領がこの切実な訴えに直接答えることはありませんでした」(勝又氏)


 韓国の若者にとって最大の困難は就職である。昨年、日本の大学の新卒者就職率は過去最高の98%だったが、韓国の最近の大卒就職率は7割に満たない。また今年8月の日本の有効求人倍率は1.59倍だが、最近の韓国は0.6倍前後にとどまる。


 職に就けず苦しむ韓国の若者が一縷の望みを託すのが、好調な雇用を維持する日本企業への就職だ。たとえば今年6月に韓国貿易協会が主催した合同面接会「日本企業採用博覧会」は、日本企業42社が約100人を選考するのに対して、約1600人の志願者が集まる盛況ぶりだった。


 ところが文大統領の反日政策は、こうした若者の希望の芽を摘み取ってしまった。


「今年9月にソウルで開催される予定だった日本企業の就職説明会『2019下半期グローバル雇用・大田(テジョン)』は文政権の意向で中止になりました。これを受けて韓国の学生は『国内のIT大企業の正社員開発者の採用は競争率が300倍。新人を採用する企業があまりにないので日本での就職を考えたのに、外交摩擦のために政府が乗り出して自国の若者たちの国外就職の道を阻むなんて、とんでもない』と現地紙に怒りをぶつけていました」(勝又氏)


 韓国社会に夢も希望も持てない若者たちが直面したのが、チョ氏の「裏切り」だ。


「革新派で清潔なイメージのあるチョ氏でしたが、よりによって親の七光りで娘の就職を優遇させたとの疑惑が持ち上がり、86世代がその不正にフタをしようとした。20〜30代の若い世代にしてみれば、“信じていたのに裏切られた”との思いでしょう。韓国の若者は反日教育を刷り込まれてきましたが、ここに来て既得権益層が本当の敵であることに気づいたのかもしれません。文大統領の支持率低下とハンギョレ若手の反乱はその現われと言えます」(勝又氏)


 朴槿恵前大統領を奈落の底に突き落としたロウソク革命の原動力となったのは、若者の絶望感から湧き上がる怒りだった。「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」というカール・マルクスの至言は、韓国の左派政権で現実となるだろうか。


●取材・文/池田道大(フリーライター)

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