現代自動車、この難局に50歳長男が会長就任

10月21日(水)6時0分 JBpress

米コロラド州のディーラーに並べられた現代自動車のSUV(写真:AP/アフロ)

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 2020年10月14日、現代自動車グループは、鄭義宣(チョン・ウィソン=1970年生)氏がグループ会長に就任したと発表した。

 韓国メディアは「世代交代」を大々的に報じている。新会長はさっそく水素燃料自動車など次世代自動車の事業化に力を入れる方針を明らかにしたが、新型コロナの世界的な流行もあって難題山積の中での総帥交代劇となった。

 現代自動車グループは、現代自動車、起亜自動車、電装品の現代モービス、鉄鋼の現代製鉄などを傘下に持つ。


韓国財閥2位

 韓国の公正取引委員会(2020年5月)によると、資産規模は234兆7060億ウォン(1円=11ウォン)で、韓国ではサムスングループに次ぐ財閥2位だ。

 グループ全体の2019年の売上高は258兆5712億ウォンという巨大グループだ。

 会長に就任した鄭義宣氏は、1970年10月18日生まれで、就任直後に満50歳になったばかり。

会長から名誉会長になった鄭夢九(チョン・モング=1938年生)氏の長男だ。

 高麗(コリョ)大学経営学科、米サンフランシスコ大MBA(経営学修士)コースを経て、1994年に現代自動車に海外営業担当常務として入社していた。

 2018年に、体調を崩していた父親の業務を代行する「総括首席副会長」に就任していた。だから、会長就任も時間の問題とみられていた。

 現代自動車グループは、かつて韓国最大の財閥だった「現代グループ」から、2000年に独立して今年で20年目だ。

 現代財閥創業者である鄭周永(チョン・ジュヨン)氏が1967年に自動車事業に進出し、これを実弟が引き継いで小型自動車「ポニー」の開発で事業基盤を築いた。

 その後、紆余曲折をへて鄭周永氏の息子である鄭夢九氏が事業を継承し、現代自動車グループとして独立した。

 起亜自動車や一貫製鉄所を買収して「現代製鉄」として子会社化している。現代財閥の歴史を見ると、創業者から3代目への世襲となる。

 また、現代自動車グループの発足以降では初めての会長交代になる。


大々的な報道

 韓国メディアは、財閥の「総帥交代」を大々的に、それも肯定的に報じた。

 現代自動車グループは、会長就任前日にこの人事について対外的に明らかにした。10月14日の主要紙は、ほとんどが1面でこの人事を報じた。「毎日経済新聞」など経済紙は1面トップだった。

 グループ発足以来初の会長交代、現代創業家3代目に、という事実とともに、鄭義宣氏の人となりや、ビジョンなどを詳細に報じている。

 翌日の15日付でも大きく報じている。

 保守系、進歩系のメディアも含めてほとんどが肯定的な内容だった。有能で礼儀正しく、ビジョンがある・・・。

 こんな内容もあった。

「鄭義宣氏は毎朝出勤するとき、1階の正面玄関は使わない。ここは(父親である)鄭夢九会長(名誉会長に就任)専用だと自分は他の役員と同じ地下を使う」

 ようは、父親を尊敬し、謙虚だといいたいらしい。

 鄭義宣氏に直接会った何人かの韓国メディア関係者に聞くと、確かに評判は良い。自動車産業に対する愛着、熱意、さらに今の自動車産業が置かれた難しい状況に対する理解とビジョンもしっかりしているという声は多い。

 それにしても、「ヨイショ」記事があちこちで目に付いた。さすがに、韓国メディアの一部からもやりすぎとの声が上がった。

 15日朝のラジオ番組で、ある経済記者が「社内報並みの記事が多かった」と批判していた。確かに一部経済紙は、広報資料のような内容の報道を3日間も続けた。

 これだけ好意的な記事ばかり書いてくれるのに、なぜか「就任記者会見」はない。

 2018年にLGグループの会長に40歳の具光謨(ク・グァンモ=1978年生)氏が就任した時も「家族内で協議した」という説明があっただけで会見はなかった。


会見なしでメッセージ

 韓国第2の財閥で、それも国内で圧倒的なシェアを握る上場自動車メーカーだ。社会に向かって所信を述べてもいいと思うが、財閥総帥はいつも表に出ない。

 鄭義宣氏は、その代わりグループ内にメッセージを送った。

 その内容は意欲的だった。鄭義宣氏は、「人類」「未来」「分かち合い」をキーワードとして提示した。

「現代自動車グループは安全で自由な移動と安らかな生活という人類の夢を実現し、これを世界中の顧客と分かち合い愛される企業になりたい」

「人類の安全で自由な移動のために世の中で最も革新的で信頼される自由走行技術を開発して顧客に新しい移動経験を提供する」

 現代自動車の歴史をさかのぼると、1967年の創業から30年間は、創業者の鄭周永氏と実弟の鄭世永(チョン・セヨン)氏が率いた。この時期の重要課題は「国産化」だった。

 三菱自動車の協力を得ながら、韓国に自動車産業を作り上げモータリゼーションの時代を切り開く。さらに小型車の輸出にも乗り出す。

 さらに2000年代になってからの20年間は鄭夢九氏が率いて、キーワードは「グローバル化」だった。

 1999年に鄭夢九氏が現代自動車の経営権を事実上握った際、「3年以内に年間生産規模を300万台に引き上げて世界トップ10入りを目指す」と語った。

 その後、猛烈な勢いで海外工場を拡張した。2010年に現代自動車と起亜自動車を合わせて世界販売台数は574万台に達し、世界トップ5に入った。

 2014年には800万台を突破した。すさまじい勢いでの成長だった。


新しい挑戦

 鄭義宣会長時代は、新しい挑戦の時代だ。

 2018年に総括首席副会長に就任して以来、鄭義宣氏は、繰り返し「自動車産業の大転換」を強調してきた。

 EV(電気)車、燃料電池車、自由走行、カーシェア・・・自動車産業は100年に1度と言われる大変革期にある。

 父親、祖父の時代は、先行する海外メーカーを目標にして追いつき追い越すことを目標に全力疾走してきた。

 トップダウン式の意思決定で不可能とも思える目標を定めて、走りまくる。韓国のオーナー経営の強みをいかんなく発揮してきた。

 やっと世界の主要メーカーに浮上したと思ったら今度は、大転換期だ。

 これまでのように海外先行企業の動向をベンチマークにして「追いつき追い越す」やり方で間に合うのか。

 現代自動車グループ内でも、EV、燃料電池車などの取り組みが遅れた、との反省があり、鄭義宣氏はここ2年の間にこれら未来分野の投資に思い切って舵を切っている。

 現代自動車グループは今後5年間で100兆ウォンを投資して、未来車分野でも世界の先頭集団に入ることを目指している。

 5年以内にEV車を100万台、10年以内に燃料電池車を50万台販売することを目指している。


山積する難題

 鄭義宣氏のメッセージは分かりやすい。事業の方向もはっきりしている。だが、グループの前途には課題が山積していることも確かだ。

 現代自動車グループは2000年代以降、急速にグローバル化を進め生産能力は年間900万台前後に達している。

 しかし、世界販売が2014年、2015年に800万台を超えたものの、その後はだらだらと減少を続け、2019年には719万台になった。新型コロナの流行で2020年はさらに減少することは確実だ。

 勢いが止まっているのだ。

 未来車の開発の前に、苦戦が続く米中市場などでの巻き返しが急務だ。

 現代自動車と起亜自動車は10月19日、合わせて3兆4000億ウォンのリコール対策費を計上すると発表した。エンジンの不良問題が発生し、巨額の費用計上となった。

 まだ原因は不明だが、EV車が充電中などに火災を起こす例も10件以上発生している。未来車の開発を急ぐことも大事だが、品質問題への懸念解決が最急務だ。

 グループの支配構造改善も大きな課題として残ったままだ。


循環出資

 鄭義宣氏は、現代自動車の株式を2.6%、起亜自動車の株式を1.7%しか保有していない。にもかかわらずオーナー家の後継者として会長に就任できた理由の一つが、「循環出資」だ。

 現代自動車グループの支配構造は複雑怪奇だ。

 例えば、現代自動車の大株主は、21.43%を出資する電装品メーカー、現代モービスだ。現代自動車は起亜自動車に33.88%出資している。

 部品納入会社の現代モービスが現代自動車の大株主で、現代自動車が起亜自動車の大株主。ではこの現代モービスが支配構造の頂上にあるのか。

 そんなことはない。現代モービスの大株主は、17.28%を保有する起亜自動車なのだ。

 現代モービス⇒現代自動車⇒起亜自動車⇒現代モービス・・・循環出資だけではない。現代モービスの大株主は鄭夢九氏(7.13%)でもある。

 また、鄭夢九氏、鄭義宣氏親子が大株主である現代製鉄も現代モービスの大株主だ。

 ことほどさように、グループの支配構造は、一言では説明できないが、結局は、オーナー家がグループ全体を支配できるようになっているのだ。

 現代自動車グループだけでなく、韓国の多くの財閥は成長拡大過程で、こうした支配構造になっている。

 少数株主がグループ全体を支配できるため、公正取引委員会などは改善を求めている。オーナー家支配の正統性も揺らいでいるのだ。

 現代自動車グループも改善を進めようとはしているが、株式を買い取る場合、巨額の資金が必要でなかなか改善しない。

 10月15日、政府の「水素経済委員会」に出席した鄭義宣氏が韓国メディア記者から支配構造改善についての質問を受け、「真剣に考えている」と短く述べた。

 労使問題は最近、好転はしているが依然としてグループの最大の課題である。

 さらにグループ発足以来積極的だった「多角化」戦略も曲がり角だ。現代建設、現代製鉄、さらに証券など金融子会社群・・・。

 新型コロナの流行で事業環境が難しい中で、どうして会長交代に踏み切ったのか。

「待ったなし」の切迫した重大課題が山積する中で、現代自動車グループは、先代会長への配慮から鄭義宣氏への代替わりを遅らせるより、50歳の突破力に期待したのだろう。

 取り組まなければならい改題はあまりに多く難題ばかりだ。3代目世襲会長の前途もだから決して安泰ではないのだ。

筆者:玉置 直司

JBpress

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