小泉進次郎大臣が立ち往生した環境問題(エコロジー)という迷宮

10月21日(月)6時0分 週プレNEWS

「私は先週閣僚になったばかり。環境省のスタッフと協議している」。海外メディアから脱石炭火力発電の具体策について聞かれた小泉進次郎環境大臣は、そうごまかすしかなかった。

環境問題の難しさ、小泉大臣の立場を、『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが徹底解説!

■イギリスの大学では牛肉を販売禁止に

小泉進次郎環境大臣の国際舞台デビューとなった、国連の気候行動サミット。日本のワイドショーがこぞってネタにした"セクシー発言"はさておき、米ニューヨーク市内のステーキハウスに行き、食後に「毎日でも食べたい」と漏らしたことに対して、欧米メディアからは「不見識だ」との批判が相次ぎました。

小泉大臣がどこまで理解していたかはわかりませんが、畜産業(とりわけ牛の飼育)は環境負荷が非常に大きく、温室効果ガスの14.5%が畜産業由来との試算もある。

特に環境意識の高いデンマーク、スウェーデン、ドイツなどでは「食肉税」が検討され、英ロンドン大学ゴールドスミス校では牛肉を使った製品をキャンパス内で販売禁止にすると決定したほどです。

欧州先進国の環境意識は急速に高まっており、「炭素」は今や地球環境を脅かす最大の悪玉と認識されています。だからこそ、スウェーデンの16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんがあれほど注目を集めたわけです。

原子力発電がベストとはいえないが、石炭火力発電のほうがより「悪」。再生可能エネルギーが主力となるメドが立つのを待つより、まずは石炭を早急にフェードアウトさせ、脱炭素を進める——これが欧州先進国と国連の基本的な方向性で、気候行動サミットでは「2050年に温室効果ガスの排出をゼロにする」との目標が掲げられました。

米トランプ政権は化石燃料の積極使用を打ち出していますが、リベラルな民主党政権になればアメリカも西欧と足並みをそろえるでしょう。

ただし、「温室効果ガスゼロ」の実現性は不透明なままです。とりわけ重要なプレーヤーは、世界最大の二酸化炭素排出国・中国、もうすぐ中国の人口を抜くインド、そして地球最大の森林であるアマゾンの伐採・開発を強硬に進めるポピュリストのボルソナーロ大統領率いるブラジル。世界全体の約4割の人口を抱えるこの3ヵ国は、今後も環境より経済を優先させる方針を明らかにしています。

そもそも、今の環境問題は欧米先進国が産業革命の時代から積み重ねてきた"負の遺産"だろう。いまさら「地球環境がおかしくなったから」といって、他国の経済成長を止めてまで我慢を強いるなんて傍若無人もいいところだ——これが3ヵ国(を含む多くの新興国)の本音です。

それはそれで一理あるだけに、問題はややこしい。先進国の環境活動家からすれば、「そんなことを言える状況じゃない」ということなのですが......。

■「原発タブー」が議論を妨げている

こうした対立構図があるなかで、先進国・経済大国の一員である日本の脱炭素への取り組みの鈍さは批判の的となっています。2011年の福島第一原発事故という不幸があったとはいえ、原発を止めて石炭火力に振り切れた日本は、世界の潮流と完全に逆行しているわけです。

日本の発受電電力量に占める石炭火力発電の割合は、1990年に9.7%だったのが、2016年には32.3%と3倍以上に膨れ上がり、火力発電所の廃炉計画も少ない。

事故とは無関係な原発まで寝かせたままにし、以前より発電効率が向上したとはいえ、石炭火力をフル活用することが"地球市民"として正しいのか——そんな問いを突きつけられる日も遠くないでしょう。

近年、日本列島では毎年のように豪雨災害、台風被害が頻発しています。それでもエコロジーに関する議論にはなかなか発展せず、「どうやら温暖化の影響みたいだね」と、多くのメディアもどこか人ごとです。これはおそらく、日本の世論が徹底的に内向きであることに加え、日本に「原発タブー」がまだ色濃く残っているからでしょう。

左派は原発や電力会社を批判するばかりで、本質的に環境問題を論じようとしない。改憲を目前に控えた自民党政権も、いまさら原発問題に触れて寝た子を起こしたくない。

ニワトリが先か、卵が先かという話かもしれませんが、「原発を増やすという選択肢もあるよね」という議論に政治もメディアも踏み出そうとしない以上、世界規模で起きていることに人々の思考が及ばないのも無理はありません。

環境問題の特徴は、解決のためには国境を飛び越えなければならない点です。しかし現実には、国家ごとに意思決定の権利があり、それぞれの思惑や事情がある。だからこの問題は「迷宮」なのです。

そのなかで、日本はどういう方針を取るべきか。将来的には再生可能エネルギーという第3の道を模索するとしても、当面はこのまま何も変えず脱原発・火力推進でいくのか、それとも脱炭素のために原発再稼働の議論に踏み切るのか。

小泉大臣はこれまで"党内野党"的に脱原発路線を提唱してきただけに、この巨大な迷宮を前に立ち往生してしまったのかもしれません。

日本が(科学的には環境に影響がないとされている)トリチウムの海洋排出にさえ四苦八苦している間に、ロシアはこの夏、原子炉2基を搭載した"船舶型原発"を出港させ、アフリカ諸国への原発の売り込みも強化しています。

「ロシアの原発は危険だ」というなら、日本が安全性を高めた原発を新興国に提供するという選択肢も含め、対抗策を提示するしかないでしょう。

それでもなお、「外国のことは関係ない」「日本のことだけ考えればいい」とばかり、ガラパゴスであり続けるのか。そろそろ日本はこの問いに答えなければなりません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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