ロシアで人気、謎の日本製ウィスキー

10月29日(火)6時14分 JBpress

サントリーが販売しているウィスキー(写真:つのだよしお/アフロ)

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 11月ともなると、モスクワはもう日本の厳冬と言っても良い寒さになる。日中の平均気温は4度からマイナス2度の間を行ったり来たりする。

 こんな寒さを迎えて、元気になるのが街の酒販店、特に輸入品のウイスキー、スピリッツ類を並べたブティックと呼ばれる高級酒類小売店である。

 彼らは、スーパーマーケットでも買えるスコッチやアイリッシュウイスキー、あるいは米国のバーボンにはそれほど注力せず、珍しい少量生産の輸入銘柄を揃えることにおいて、凌ぎを削っている。

 国民の可処分所得は減る一方というロシアだが、12月のプレゼントシーズンともなると、富裕層の個人や企業は年末のプレゼントを希少品から選ぶことが多く、スコッチのシングルモルト(産年入り)は、ランキングではいつも上位に入っている。

 こんなブティックにちょっとした異変が起こっている。

 それは、従来のスコッチウイスキーの稀少銘柄に加えて、ジャパニーズウイスキーがその存在を広げ始めていることだ。

 ブティックの棚に並ぶジャパニーズウイスキーとは、我々のよく知るサントリーやニッカと言った大手メーカーによる製品ではない。

 酒類業界にはわりと詳しいことを自負している筆者でさえ、これまで聞いたことのない銘柄が並んでいる。読者の皆さんは次のジャパニーズウイスキーがどこの酒造メーカーのブランドかお分かりになるだろうか。

*KENSEI(剣聖)
*KAIYO(海洋)
*NOBUSHI(野伏)
*TOKINOKA(刻の香)

 製品名をローマ字で書いたのは、そもそも漢字はお飾り程度でしかなく、ラベルにはあくまでも大きくアルファベットが書かれているからである。

 かなりのウイスキー愛好家でもご存知ないと思う。

 それもそのはず、これらの製品は日本では販売されていない。ボトルには「Made in Japan, Japanese Whisky」と書かれているように、はじめから海外マーケットを狙った商品なのだ。

 そして、肝心の生産者であるが、これが実はよく分からない。

 日本国内にある焼酎メーカーの製品か、あるいは中国など海外で日本品を模してつくられたものなのか、とにかく製造者名は明示されていないものが多い。

 ロシアでは、これまで輸入ウイスキーと言えば、それはスコッチであり、アイリッシュであり、カナディアンであり、バーボンであった。

 そこに、2010年頃からサントリーが猛烈な勢いで市場に参入、ニッカとともに、2015年頃には、ジャパニーズウイスキーというカテゴリーをウイスキー愛好家に定着させることに成功した。

 ところが、その後、2017年頃から日本国内のウイスキーブームのため、サントリー、ニッカともに輸出に回す製品が確保できず、新興市場であるロシアには、2019年現在、日本からの輸出はほぼストップしている。

 この間隙を縫って登場したのが、ジャパニーズウイスキーのマイナーブランドである。

 ロシアの消費者が漢字を読めないこともあり、ほとんどのブランドのラベルはサントリーやニッカのスタイルを踏襲して、毛筆調の漢字にローマ字というデザイン。

 製法的には、焼酎で培った蒸留技術と設備を利用したものから、スコットランドの原酒を日本に輸入し、ブレンドと瓶詰めをしたジャパニーズ・スコッチウイスキーまで、いろいろとあって、そのどれも法的には何ら問題はない。

 こうしてウイスキー消費大国である米国、英国、フランスに加え、ロシアなどに輸出されたジャパニーズウイスキーは、キリンの「富士山麓」をはじめ、本坊酒造の信州マルス蒸溜所の製品など、本格的なウイスキーが並ぶ。

 また小売価格も日本円換算4000〜5000円以上のものが多く、所得が低いロシアでは、とても量的な拡大は期待できない。

 そこで、小売価格2000円前後、ときにはそれ以下というジャパニーズウイスキー擬きの製品が登場することになるのである。

 すでにロシアの酒類マーケットでは、日本食ブームの最中、中国産の日本酒や梅酒が大量に出回り、キッコーマン醤油を模したガラス容器に入った調味料とともに、日本メーカーの製品が売れなくなったことは記憶に新しい。

 日本産品をそっくり模倣した製品をあっという間に作り上げる中国の実力(?)もさることながら、それを模倣品と分かりながら、輸入し流通させて、結局はそのマーケットを破壊してしまう懲りないロシア人商人たちにも問題はある。

 だが、日本人の筆者が一番問題にしたいのは、法的な縛りがないからと、輸入バルクウィスキーや、国籍不明の酒類用アルコールが容量のほとんどを占めるような製品に「Made in Japan」とか、「Japanese Malt Whisky」などと書いて平気で出荷するメーカーが今でもある、という事実である。

 ウイスキー業界でも、ジャパニーズウイスキーとは何を指すのか、業界ルールを作ろうという動きもあるし、国税庁でもウイスキー蒸留免許下付条件を見直す動きもある。

 しかし、これら厳格化の方向が関係者の首を絞める事態もまた想像され、動きはなかなか具体化しない。

 ロシアの業界紙を読んでいると、そのような日本の動きは細かく報道されていて、本物志向の人たちの警戒心を呼び起こしている(本稿も翻訳される可能性が高い)。

 さらには、いっそのことロシア産ウイスキーはつくれないか、という声もだんだん大きくなっている。

 日本の焼酎メーカーがその蒸留技術と設備を使い、ジャパニーズウイスキー製造に舵を切ったと同様、ロシアではスピリッツメーカーによるウイスキー製造の歴史は結構古い。

 ロシア・コーカサス地方スタブロポリには、地元で収穫されたブドウを使って、ロシアンコニャックを製造するメーカーが複数存在する。

 ロシアの隣国、アルメニア、グルジアはワインとともにコニャックを大量にソ連に販売していたが、ソ連の崩壊とともに、その輸出はときに政治に弄ばれ、増減を繰り返している。

 そこで注目されたのが、スタブロポリのスピリッツメーカーだった。

 中でも特に規模の大きな「Praskoveyskoe」には、輸入代替、という流行りのコンセプトとともに、連邦政府と投資家の資金が入り、彼らが主張するロシアで初めてのロシア産ウイスキーが、製造されている。

 筆者は2014年に初めて同社の「Praskoveyskoe」をモスクワのスピリッツショーで試飲したが、その後同社の社員がアイルランドに留学し、ウイスキー作りを勉強した成果が出て、品質、容器ともに早いピッチで改善されている。

 大変興味深いのは、同社はウイスキー作りをスコットランドに学ぶのではなく、アイルランドでアイリッシュウイスキーをターゲットに技術習得に進んだこと。

 これはサントリーウイスキーをロシアで販売する際にテーマとした、口に優しく、まろやかな風味がまさにアイリッシュウイスキーにも通ずるものであり、これがロシアのウイスキー愛好家の求める味だと感ずる。

 結果論的な話ではあるが、サントリーがなぜロシアのウイスキー愛好家に受け入れられたかをよく示している。

 ロシア・ウイスキーは、「Praskoveyskoe」のような、原酒の自家蒸留だけではなく、スコットランド産バルクウィスキーを原材料に、ロシア人に向くブレンドをして、瓶詰めを行っただけのロシア製スコッチウイスキーもある。

 その代表的なものが「7 Yards」というブランド。

 スーパーなどで客寄せの目玉によく使われているので、ロシア在住の方々にはお馴染みかもしれない。

 500ccボトルで600円前後という価格は、ウオッカからウイスキーに移行しようという家庭(これが結構多い)のお父さんには最適なようで、よく売れていると聞く。

 このウイスキーの特徴はあくまでもスコットランド産ウイスキーという点で、バルクウイスキーの出自を隠すことの多いジャパニーズウイスキーメーカーの販売方法とは対極をなす。

 最近のロシアにおけるウイスキーマーケットの変化は製造面、製品面だけではない。最後に大手スピリッツ専業輸入卸商の動きをご紹介しよう。

 この企業では、サントリーウイスキー終売後、アジアのウイスキーを幅広く研究。白羽の矢を立てたのが、「KAVALANウイスキー」である。

 日本のウイスキー愛好家には、もうすっかり有名になった台湾ウイスキーだが、台湾とロシアは、工作機械や木材などの輸出入を通して、極めて緊密な関係にある。

 その台湾からKAVALANを輸入し、シベリア、極東を含むロシア全土で販売を始めたのが2017年のこと。

 以来、販売は順調に拡大、また、ウイスキー市場へのKAVALANの告知にも成功して、同社のフラッグシップとも言える30年ものシングルモルトウイスキーを15万円という価格で販売するほどまでになった。

 同社は引き続き、アジア各国のウイスキーを調査研究していて、筆者の先日の同社訪問時には、インド産ウイスキー数種類の試飲に立ち会わせてもらった。

 このようにロシア市場の動きを見ながら、日本のウイスキー業界の進むべき姿を考えるのも、日本で人気の薄いロシアという国の日本への貢献ではないだろうか。

筆者:菅原 信夫

JBpress

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