マラウィ戦闘終結も戒厳令継続 イスラム過激派残党200人が国内潜伏か

10月30日(月)14時30分 ニューズウィーク日本版

<国内残党200人は本当か、それともドゥテルテが引き続き軍を強化し戒厳令を続けるための誇張なのか>

フィリピン南部ミンダナオ島の都市マラウィを今年5月23日以来占拠して国軍との戦闘を継続していたイスラム過激派は、指導者2人と最後まで残って抵抗を続けていたメンバー約40人の相次ぐ殺害でようやく全市を解放、戦闘終結が宣言された。

しかし、同市周辺部に布告された戒厳令は依然として解除されておらず、残党など依然としてイスラム過激派メンバーの約200人がフィリピン国内各地に潜伏している、と政府は発表。こうした残党などを完全に掃討するためにドゥテルテ大統領は国軍参謀総長に陸軍を増強するよう指示を出すなど「テロとの戦い」はいまだに終結する見通しはない。

一部からは「こうした脅威の存在を強調することで国軍の増強、そして戒厳令の維持を意図的に行おうとしているのではないか」とのうがった見方もではじめている。

10月23日にロレンサーナ国防相が「戦闘の完全終結」を宣言したものの、26日には新任のゲレロ国軍参謀総長に対してドゥテルテ大統領が「陸軍10個大隊の新設」を指示した。

約200人が逃亡、潜伏中

さらに27日にはバディリア国軍報道官が「現在フィリピン国内でイスラム過激派のメンバー約200人の行方を追っている。彼らは逃亡中で国内各地に潜伏しているものとみられ、国民の生活を脅かす可能性がある」と発言した。

国軍によると、今年5月23日にマラウィ市での戦闘が勃発して以来、中東のイスラムテロ組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓うフィリピンのイスラム過激組織のメンバー、さらに密入国する形で戦闘に加わったISのメンバーあるいはシンパとされる外国人などその勢力は約700〜千数百人とされた。

戦闘開始と同時に発動された戒厳令の下、国軍などの治安当局はイスラム過激派容疑者として約300人をリストアップ、重点的に行方の捜索に着手した。

その結果これまでにリストの約100人の逮捕に漕ぎつけたが、依然として約200人が捜査の網をかいくぐって逃走中だという。

マラウィでの5カ月に渡る戦闘でイスラム過激派側はメンバーやその妻など919人が殺害された、と国軍は公表している。この数字に逮捕された人数、逃走中の人数を加えると当初国軍などが明らかにした数字に近くなる。戦闘開始後に加勢のためにマレーシアやインドネシアから海路密入国したISと関連のある戦闘員を加味すればだいたい数字的にはつじつまがあうことになる。

すでに海外逃亡組もいる可能性

もっとも国軍が発表した「逃亡中の200人」は国内に潜伏しており「一般市民の生活に脅威を与える可能性がある」という説明は少し割り引いて考えたほうがいいだろう。



というのもインドネシア当局はマラウィでの戦闘終結を受けて「過激派のメンバーの一部はすでにインドネシアに流入している可能性もある」としてフィリピン南部から海路で入国が可能なカリマンタン島やスラウェシ島北部の主要な港湾、漁村などでの警戒を強化している。

さらに、これまで多くのイスラム過激組織のテロリストが潜伏、テロ計画を練るなどしたアジトが多く存在するジャワ島への海路、空路の移動も重点的に警戒する態勢をとっている。

約200人のうちの何十人かはインドネシア、マレーシアなどにすでに脱出しているとみられているが、フィリピン当局にしてみれば「200人中が逃亡中」という数字は「現実の脅威」として必要なのだ。戒厳令をいまだに継続し、さらなる陸軍の部隊新設というドゥテルテ大統領の政策には「イスラム過激派は全滅、残りも大半を逮捕」では都合が悪いのだ。

市民犠牲者の数字の真偽は?

国軍によると5月23日以来5カ月の戦闘で国軍兵士・警察官は165人が死亡、市民の犠牲者は47人だったという。

事件発生当初、過激派メンバーが市民を見せしめに殺害している、キリスト教会関係者を多数殺害した、多くの市民を人間の盾として人質にとっている、逃げてきた市民が約100人の遺体を見たなど情報が錯綜したが、市民の犠牲者は思ったほど多くなかったと「数字を見る限り」いわれている。

国軍は「人質の安全を最優先した作戦の結果」であるとこの民間人犠牲者が少ない理由を説明するが、フィリピン人記者によると「現段階ではこの数字はあくまで軍の発表であり、きちんとした検証に基づいている訳ではない」という。

当初から報道があった国軍の空爆による市民の犠牲者がこの市民の死者に含まれていない可能性が高く「軍・警察の数字は多めに、民間人の数字は少なめに発表されている可能性」を指摘する声もある。

いずれにしろ「国内逃亡・潜伏中」のイスラム過激派に対する国軍の掃討作戦は今後もさらに強化される形で継続される。そしてこれまで通りに「テロとの戦い」を錦の御旗として掲げながらドゥテルテ大統領は、戒厳令、国軍部隊増強などをテコにしてさらなる政権基盤強化を虎視眈々と狙っていることは間違いない。

[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



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