ワールドシリーズ、大統領が受けた大ブーイング

10月31日(木)6時0分 JBpress

10月27日、米大リーグ・ワールドシリーズ第5戦を観戦に来たドナルド・トランプ大統領(写真:AP/アフロ)

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 ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)にとっては予想外だったに違いない——。

 何が予想外だったかといえば、ワールドシリーズ第5戦(27日)を観戦しに行った球場で、大きなブーイングを受けたからだ。

 しかもホワイトハウスのある地元ワシントンを本拠地に置くワシントン・ナショナルズ(ナショナル・リーグ)の試合である。

 さらに米時間10月27日は、米軍特殊部隊による急襲によってイスラム国の指導者アブバクル・バグダディ容疑者が死亡したニュースが流れた日でもある。

 トランプとしては球場を埋めた4万人超の観衆から、「ブー」ではなく「ブラボー」の声がかかるとの期待を抱いていたとしてもおかしくない。だが結果は全くの逆だった。

 現職大統領が球場入りすれば、始球式で投げる選択肢もあっただろう。

 だがトランプはマウンドに立たなかったばかりか、ナショナルズに招待されてもいなかったと地元メディアは報じた。

 トランプのスケジュールを眺めると、27日午後7時50分にメラニア夫人とホワイトハウスを後にし、車でワシントン特別区の南東地区にある球場に向かっている。8時10分には特別席に現れた。

 すると球場に設置された巨大スクリーンに、トランプの姿が映し出された。

 トランプは自分でそれを確認すると、手を叩きながら満面の笑みを浮かべている。

 だが観衆は冷めていた。スクリーンにトランプが映るやいなや、まるでリハーサルをしていたかのように一斉にブーイングを発したのだ。

 日本であれば、いくら現職首相の支持率が低くても、球場に現れた首相に拍手を送って敬意を払うところである。

 ところが米国では大統領であっても、国民は自分の感情を実直に発露させる。

 トランプは自分が大型スクリーンに映しだされた時は笑顔を浮かべたが、すぐに球場中に響き渡るようなブーイングが自分に向けられていることを理解すると、しかめ顔をして着席した。

 トランプのことなので、もしかすると始球式をやりたいとの思いがあったかもしれない。

 だが補佐官たちは観客の反トランプ感情を事前に察知して、マウンドに立たせなかったとも推察できる。さすがのトランプもマウンドで4万人からブーイングの嵐を受けたくはないだろう。

 筆者は当日、もちろんワシントンの球場にいたわけではない。いまやSNSで膨大な数の動画を観られる。

 しかも球場の至る所で動画が撮影され、ほとんど時差なく掲載されたものを観られる。

 座席位置によっても違うが、筆者が確認したツイッターとユーチューブの複数動画では、トランプへのブーイングは大音量と呼べるほどの大きさであるばかりか、「ブー」という声と同時に「ロック・ヒム・アップ(Lock Him Up)」とも叫んでいた。

 この言葉の直訳は「彼を閉じ込めろ」だが、「投獄しろ」という意味もある。

 だがなぜ、ホワイトハウスのある首都ワシントンの観客がこれほど反トランプなのだろうか。

 筆者はワシントンを含む隣州のメリーランド州とバージニア州に計25年ほど居住していたので、「投獄しろ」の大合唱がなぜ起きたのか理解しているつもりだ。

 一言で述べると、首都ワシントンに住む市民の76%(ワシントン選挙管理委員会)が民主党支持者だからである。

 球場は市内の南東地区にあり、多くの観客は市内と隣州からやって来る。

 ワシントン特別区の人口は現在約71万人。人種別では黒人の比率が最も高く47%。白人は45%で、その後にアジア系他が続く。

 筆者が住み始めた1980年代は黒人の比率がいまよりも高く、70%に達していた。

 以来、比率は下降しているが、黒人有権者の多くは民主党支持であるため、伝統的に首都ワシントンと郊外の市民は共和党大統領に難色を示すことが多いのだ。

 そのため、トランプが「ブー」の野次を送られるのは半ば必然といえる。

 ホワイトハウスに住んでいながら、周囲はみな「敵」に囲まれているという皮肉だが、南部や中部などに行けば、トランプは熱烈な歓迎を受ける。

 来年11月3日の大統領選まで1年もあるが、トランプは多くの州に出向いて、精力的に遊説を行っている。そうした集会では保守系有権者で埋め尽くされる。

 共和党とトランプの選挙対策本部によるところが大きいが、数万人が収容できるスタジアムで満席になった会場を見て、トランプは「すべての有権者に支持されているのではないか」という幻像を抱いているかもしれない。

 自身を貶す人たちをあらかじめ排除した限定された環境に足を踏み入れることで、見えるものも見えなくなっている可能性はある。

 その点、27日に訪れた球場「ナショナルズ・パーク」では、改めて米国の現実を突きつけられたことだろう。

 それでも見たくないものには蓋をするという、依然として独善的な行動をとるのがトランプである。端的な例が27日にみられた。

 連邦政府機関に対し、リベラル系の新聞として知られるニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙の購読を停止するように通達したのだ。

 言論統制とは呼べないが、両紙の内容を「フェイク」とけなし続けた結果が購読停止へとつながった。

 トランプ本人が両紙を読まなくとも、職務にあたる連邦職員が多くの情報を両紙から得ているはずである。

 ただ職場で両紙が手に入らなくとも、家庭で、通勤途中で、就業後にいくらでも読めるし、インターネットでのアクセスまで中止にはできないだろう。

 新聞の発行そのものを差し止めしない限り、トランプの意図が効力を発揮することはないが、やるとなると「民主主義の危機」と言われるだろう。

 こうした上からの圧力が強まれば強まるほど、米国のような国では下からの反発が増して反トランプの動きが活発化してくることが予想される。

 米国の有権者はいま、民主党と共和党ではっきりと2分化してしまっている。

 それはトランプを弾劾すべき、と考える人が46%であるのに対し、すべきではないと考える人が47%(USAトゥデイ調べ)である現実を見ても明らかだ。

 トランプという「個性豊か」な大統領がトップに立っている限り、両党の溝は深くなるばかりなのかもしれない。

筆者:堀田 佳男

JBpress

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