「わが国にエイズはない」と豪語する北朝鮮で強化されるエイズ検査
2019年11月3日(日)6時59分 デイリーNKジャパン
◯モンゴルでエイズ被害
◯南アフリカでエイズ蔓延
◯イスラエルでエイズ蔓延
◯昨年エイズによる世界的死亡者数は77万人
これらは北朝鮮国営の朝鮮中央通信が、今年に入ってから報じたエイズ関連の記事の見出しの一部だ。そのほとんどが「他国でエイズが蔓延している」というものだ。
一方で北朝鮮政府関係者と世界保健機関(WHO)の関係者は、昨年12月1日の「世界エイズデー」に、北朝鮮におけるHIV感染事例は一件もなかったと発表している。
北朝鮮は毎年、同様の主張を繰り返しているが、最近に入って北朝鮮国内では、HIV感染リスクの高まりから検査が強化されていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムン)の情報筋は、中国の延吉に行って会寧税関を経て先週帰国した際、入国時にHIVウイルスや性病の検査を受けさせられたと証言した。対象は男女を問わずすべての入国者だ。従来は口頭での質問だけだったが、検査を行うようになり、入国後は地域の衛生防疫所で性病検査を改めて受けるように通告されるようになった。
しかし、現実は異なる。衛生防疫所はワイロを受け取って検査は行わず、もし性病の症状が出ていても書類を廃棄して上部に報告すらしていないという。
平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)の別の情報筋は、新義州税関を通る若い女性は全員HIV検査を受けさせられる。以前は、中国でキリスト教関係者や、韓国人などに接触していないかなど政治的な尋問が優先されていたが、今ではHIVや性病の検査に重きを置くようになっている。
双方の情報筋とも「統計は発表されていない」としつつも、異口同音に「性病に苦しむ人は増えている」と述べた。
しかし、米国の学術誌サイエンスの今年6月号は、北朝鮮と米国の研究者の報告を元に、北朝鮮のHIV陽性者の数を8362人とし、初の感染報告は1999年1月で、ここ数年で感染者が急増していると明らかにしている。
また、米ニューヨークに本部を置くNGO「ドダウム」のキム・テフン事務局長は、今年7月のRFAの取材に、米国の製薬会社から寄贈された治療薬を使い、北朝鮮の保健当局と共同で約3000人の病状が進んだHIV陽性者のケアをしていると明らかにしている。
一方、北朝鮮では国際社会の制裁下での生活苦から、性風俗産業に従事する女性が増えていると伝えられている。例えば、平壌郊外の間里(カルリ)駅周辺は一大風俗街となっている。また、中国に近い新義州や龍川(リョンチョン)では中国人をターゲットとした風俗店が多数存在する。
しかし、そうした女性らを対象にした検査はろくに行われておらず、北朝鮮が誇る無償医療体系も崩壊して久しい。それどころか、当局は「わが国には売春は存在しない」との建前から、コンドームの輸入も販売も認めていない。
また、上述のとおり、北朝鮮はHIVを「資本主義国に対するネガキャン」のネタとして利用している。HIV陽性者への偏見、社会からの排除が高まることは火を見るより明らかだが、そのような状況では誰も検査を受けようとしないだろう。もちろん、これは北朝鮮に限ったことではないが。