韓国双竜自動車、どうなる5度目の売却劇

11月4日(木)6時0分 JBpress

 韓国で双竜(サンヨン)自動車の名前を知らない人は少ない。

 ところが、今どのグループの傘下にあるか答えられる人はほとんどいない。

 この四半世紀、頻繁に身売りを重ねる数奇な運命をたどっているからだ。

 2021年10月末、企業の更生手続きを手掛けるソウルの裁判所は、双竜自動車の売却先の優先交渉権者として新興のEV(電気自動車)バスメーカー、エジソンモーターズを中心とするコンソーシアムを選定した。

 韓国メディアによると、同コンソーシアムが3100億ウォン(1円=11ウォン)を提示したという。


エジソンモーターズって何だ?

「今度は新興企業か・・・。果たしてうまくいくのか」。韓国紙デスクはこう話す。

 エジソンモーターズ。韓国でもほとんど知られていない会社だ。新興のバスメーカーなのだ。

 いったいどこを走っているのか?

 そう思ってソウルで注意してバスを見ていたら、特に江南(カンナム)地域の路線バスでエジソンモーターズの車両を何台かみかけることができた。

 エジソンモーターズは前身の韓国企業が一度中国企業に身売りしたが、いまの韓国人会長が2016年に買収した。とはいえ、本格的に事業に乗り出したのは2019年あたりからだ。

 ちなみにこの会長は1959年生まれ。延世(ヨンセ)大学を出て、KBSやSBSといった地上波放送局のプロデューサーだった。

 長寿人気番組なども作成したが、事業欲に目覚めて退社して、これまでいくつかの企業を経営して成功した経験がある。

 韓国メディアによると、米テスラ・モーターズの登場を見て「韓国でもEVが必ず普及する」と考えて他の事業を整理してその資金でEVメーカーを買収した。

 テスラに刺激を受けたこの会長が、EVメーカーのオーナーになってまず手を付けたのが社名変更だった。

 米国のEVメーカーの社名の由来がニコラ・テスラなら、こちらはトーマス・エジソンを。

 2人の因縁はもちろん知っていたはずだが、「電気と言えばエジソン」。バスを中心としたEVメーカーとしての再出発だった。


売上高30倍の企業に買収提案

 2019年からバスの納入が増え始め、2020年の売上高は898億ウォン、営業利益は28億ウォンだった。何とか利益を出してはいるが、まだ小さな企業だ。

 対する双竜自動車は、かつての名門企業だ。2020年の売上高は2兆9502億ウォン。エジソンモーターズの30倍にも達するのだ。

「小が大を飲む」程度では済まない買収劇だ。

 双竜自動車は創業以来、数奇な運命をたどっている。

 米国軍が残していったトラックなどをもとに創業者が事業を始めたのは1954年。1977年に東亜自動車と社名を変えた。

 最初の身売りは1986年。セメント事業などで韓国屈指の財閥になっていた双竜グループが買収した。


双竜から大宇へ

 果敢な投資で事業を拡大させた。高級乗用車の生産にも乗り出す。「コンラッド」「ムッソー」などのSUVや高級車「チェアマン」などで広く知られていた。

 一時は、現代、起亜、韓国GMなどと並んだ韓国の有力自動車メーカーに浮上した。

 ところが、スポンサーだった双竜グループはオーナー経営者が代替わりして調子がおかしくなった。多角化がうまくいかず、財閥での順位もずるずると落ちる。

 1997年の通貨経済危機(IMF危機)で、双竜グループそのものが事実上解体となってしまった。

 独メルセデス・ベンツと提携して自動車事業を飛躍的に拡大させようとしていた構想も夢と終わってしまった。

 双竜に変わって大宇(デウ)グループが買収した。

 大宇の創業者だった金宇中(キム・ウジュン)氏は、ジンギスカン経営を標榜し、東欧に自動車工場を作るなど自動車事業に並々ならぬ関心を持っていた。

 ところが双竜自動車を買収してすぐにIMF危機の直撃を受ける。

 双竜グループよりは持ちこたえたが、大宇グループも解体になり、双竜自動車は銀行団の管理下に入る。ここから迷走が続く。


迷走の始まり、上海汽車に身売り

 2004年、中国の上海汽車が双竜自動車を買収した。中国の自動車メーカーによる本格的な海外自動車メーカー買収開始を象徴する動きでもあった。

「本当に大丈夫なのか?」

 買収当初から懸念する声もあったが、それがわずか4年後には現実となった。

 2008年にリーマンショックで経営が悪化すると、上海汽車はあっさりと経営権を放棄した。2009年1月に裁判所に更生手続きを申請し、事実上倒産した。

 上海汽車は買収後、韓国内に新規投資をしなかった。双竜自動車を買収したのは、ハイブリッドエンジン技術などを取得することが目的だったとの批判も浴びた。

 その後、再び銀行管理となった双竜自動車では労使紛争が激化した。

 2009年には労組がストに入り、これを排除しようとした警察と衝突し、多くのけが人が出る流血劇となった。


労使紛争で流血劇、インド社傘下も続かず

 2011年、銀行団はインドのマヒンドラグループに双竜自動車の経営権を売却した。中国企業の次はインド企業だった。

 ところが、新型車を投入したものの、なかなか業績は回復しない苦しい状況が続いた。

 新型コロナウイルス感染症の流行で売り上げはさらに低下し、2020年6月にマヒンドラグループは経営権を放棄した。

 双竜⇒大宇⇒上海汽車⇒マヒンドラ・・・35年間で4回身売りし、すべてうまくいかなかった。

 それでも5回目の買収に名乗り出る企業が出てくる。

 双竜自動車を悲運の自動車メーカーとみるべきなのか、それでも魅力がある自動車メーカーとみるべきなのか。

 エジソンモーターズの会長は、韓国メディアに対して、「リストラで縮小経営をすることは考えていない」と話している。

 双竜自動車の生産能力は年間30万台程度だが今は10万台程度の生産にとどまっているという。

 ハイブリッド車、EVなどの生産を増やして年産30万台程度に引き上げるとの意欲的な目標を掲げている。


韓国政府の脱炭素社会計画

 新興メーカーのエジソンモーターズにとって、生産設備と熟練工、技術開発能力は魅力があるのだろう。

 韓国紙デスクは、「最も楽観的な見通し」を示してくれた。

「韓国政府は、とんでもなく意欲的な脱炭素戦略を発表した。EVなど親環境車を一気に普及させるとも言っている。巨額の補助金を出してEVバスの販売が急増する可能性もなくはない」

 どういうことか。

 2021年11月1日、英国・グラスゴーで開かれた国連気候変動会議(COP26)で文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)大統領は、2030年までの韓国の温室効果ガス削減目標を2019年実績比で40%減とすると発表した。

 これまでの同26.3%減から大幅に引き上げた。

 この目標達成のために、韓国政府は、2030年までにEVや水素自動車など「親環境車(無公害車)を450万台普及させる」という目標を掲げた。

 450万台とは驚くべき目標だ。

 現段階で新環境車の普及はEVが大半でせいぜい20万台。自動車関連業界からは、450万台は非現実的な数字だという意見が続出している。

 韓国紙デスクは「温室効果ガス削減や親環境車の普及目標が実現可能だとみる専門家などいない。だが、具体的な普及台数はともかく、EVバスの普及を政府が後押しすることは間違いない」と話す。


あまりに多く高いハードル

 だが、この楽観的なシナリオでエジソンモーターズの将来が明るいかどうかは未知数だ。

「韓国でもEVや水素自動車の普及は進むだろう。といって、エジソンモーターズが有望だとも言えない」

 EV用バッテリー関連業界の幹部はこう話す。

 最初の関門は、双竜自動車の経営内容の審査と当面の資金調達だ。

 買収金額は3100億ウォンだが、今後、双竜自動車の経営を正常化させるための負債返済や投資などを合わせると1兆ウォン以上の資金が必要だとみられる。

 この金額がさらに増える恐れもある。

 銀行団の協力でニューマネーを調達する必要があるがうまくいくのか。

 資金調達ができて経営権を握っても、売上高が30倍の大企業を経営できるのか。

 1896年、トーマス・エジソンは自分の会社で働いていたヘンリー・フォードがガソリン車の開発を考えていると知るや、激励した。

 EVよりガソリン車に可能性を見ていていたのだ。

 トーマス・エジソンは、100年以上も経ってまさか韓国で自分の名前に由来するEVメーカーができ、名門ガソリン車メーカーを買収に乗り出すなど想像もしなかったはずだ。

 双竜自動車はエジソンモーターズとして再浮上できるのか。

 自動車業界は100年に1度の大変革期だ。

 韓国のEV市場を、現代自動車のような巨大企業が掌握するのか。新興メーカーにもチャンスはあるのか。

 その中で、エジソンモーターズに可能性はあるのか。

 果敢な挑戦でEVバス市場への参入には成功した。名門企業の買収で次の飛躍を目指すが、圧倒的な技術力、ブランド力、資金力がないエジソンモーターズが乗り越えなければならないハードルはあまりに多く高い。

 5度目の買収劇。

 双竜自動車の従業員や取引先は今度こそ成功をと期待しながらもやりきれない思いだろう。

筆者:玉置 直司

JBpress

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