北朝鮮がミサイル発射を繰り返す本当の理由、米専門家はこうみる
2022年11月5日(土)6時0分 JBpress
グアム、沖縄からも爆撃機が「参戦」
アジアでも最貧国群に属するGDP(国民総生産)36億ドルの北朝鮮が、今年1月から現在までに行ったミサイル発射実験は60回を超えた(弾道ミサイル40回以上、巡航ミサイル20回以上)。
(https://www.armscontrol.org/act/2022-11/news/north-korea-ramps-up-missile-tests)
(https://worldpopulationreview.com/country-rankings/poorest-asian-countries)
短距離弾道ミサイルは1発300万ドル。長距離弾道ミサイル(ICBM)は1発1000万ドルもする。
(https://www.voanews.com/a/price-of-north-korea-s-missile-launches-measured-in-food-relief-/6423243.html)
一人当たりGDPではアフガニスタン(508ドル)に次いで世界で2番目に少ない(642ドル)国家がなぜミサイルを撃ちまくるのか。
それでなくとも慢性的な食糧不足と農作物不作、国連安保理決議による経済制裁、さらにはパンデミック禍で二進も三進もいかない。
それにもかかわらず、GDPの13.4〜23.3%をミサイル・核開発はじめ軍事力強化に使っている北朝鮮の金正恩総書記。
かわいそうなのは飢えと貧困、そして抑圧に苦しむ北朝鮮の国民だ。
「ミサイル1発撃ち上げるたびに米や灯油に必要なカネが空中に消えていく」(世界食糧農業機関=FAO=関係者)
(https://www.statista.com/statistics/747387/north-korea-share-of-military-spending-in-budget/)
特に11月に入ってからの金正恩氏の「ミサイル打ち上げ遊び」は度を越している。狂気の沙汰だ。
米メディアの中には「全面戦争にさらに数インチ近づいた」(Inches Closer to All-Out War)と、「全面戦争」(All-Out War)という表現を使い始めたところもある。
(https://www.thedailybeast.com/north-koreas-kim-jong-un-inches-closer-to-all-out-war-than-ever-before)
北方限界線では一触即発の危機
事実、北朝鮮は11月2日、米韓側が海上の軍事境界線と位置付ける北方限界線(NLL)南方に弾道ミサイルを撃ち込んだ。韓国側もNLL北方へのミサイル発射で応じた。
一歩誤れば、戦争勃発だった。朝鮮半島の緊張状態は一気に高まっている。
11月2日午前8時55分、韓国のテレビ画面には警告音とともに、画面の下半分に大きく「空襲警報発令」と表示された。
同警報の発令は、北朝鮮が(人工衛星打ち上げと称した)長距離弾道ミサイルを発射した2016年以来だった。
韓国メディアによると、警報対象となった東部の鬱陵島(ウルルンド)では、公務員ら100人以上が地下施設に避難。韓国航空当局も日本海上の一部の航空路を一時閉鎖した。
北朝鮮の「狂気の沙汰」は、米韓両軍が実施している5年ぶりの大規模訓練「ビジラント・ストーム」(Vigilant Storm=油断なき嵐)への警戒感の表れ、というのが日米韓の軍事専門家の大方の分析だ。
「ビジラント・ストーム」には、米陸海空海兵隊の将兵数千人と韓国空軍兵士、海兵隊の最新鋭ステルス多用途戦闘機「F-35BライトニングII」はじめ240機が参加している。
同演習に参加しているのは米韓両軍だけではない。
オーストラリア空軍の「KC30A」多用途タンカー輸送機(MRTT)が空中給油活動の任務を帯びて参加している。
「同演習は米韓による朝鮮半島での地域的演習ではなく、インド太平洋地域での有事の一環としてオーストラリアが加わった。ここがこれまでの同演習とは大きく変わった点だ」(米国防総省関係筋)
北朝鮮のミサイル発射実験が続いていることを受けて、4日に終了予定だった演習は1日延長して5日まで実施することが決まった。
(http://world.kbs.co.kr/service/news_view.htm?lang=e&Seq_Code=173551)
さらにグアムと沖縄から戦略爆撃機「B-52」、ステルス戦略爆撃機「B-1」が急遽参加するといわれている。
朝鮮有事に備え、極東米軍事力が集結する雲行きになってきた。
今回参加している戦闘機の「主役」、最新鋭ステルス戦闘機F-35Bは、忍者のごとく、隠密に敵陣に入り精密打撃を加える能力にたけている。
韓国の北韓大学院大学(ソウル市)の梁茂進(ヤン・ムジン)教授は、金正恩氏の執拗なミサイル発射実験の背景についてこう指摘している。
「金正恩氏はじめ北朝鮮の首脳部は、今回の訓練は北朝鮮首脳部を直接攻撃することを想定した訓練だと危機感を強めている」
(https://www.livemint.com/news/world/why-the-regime-of-north-korean-leader-kim-jong-un-testing-so-many-missiles-11667462756868.html)
つまり、北朝鮮は、米韓が金正恩暗殺を想定した予行演習を敢行したと見ているのだ。
同氏の説に賛同する米専門家は今のところ見つかっていない(そうだとしても国家機密で?公言できないのかもしれない)。
北朝鮮は経済的にどこまでもつか
だとすれば、金正恩氏はいつまでミサイル発射実験を続けるのか。予想されている核実験をいつ再開するのか。
東アジアの軍事分析では定評のある軍事ジャーナリストのドナルド・カーク氏はこう見る。
「金正恩氏としては、短距離、中距離弾道ミサイルをほぼ実用化したことで在韓ハンフリーズ米軍基地(在韓米軍司令部、2万8500人駐屯)と数キロ離れた烏山米空軍基地(米第7空軍司令部)を標的にできた」
「朝鮮半島問題に精通している元外交官のエバンス・レビア氏はこう見ている」
「『米韓両軍が、今回の共同演習で1300回から1400回の出撃を敢行したのだから北朝鮮が動揺しないわけがない』」
「『今回の演習はその規模、出撃回数では過去と比較にならない。北朝鮮はこれに対抗してミサイル発射実験を繰り返す。その費用は莫大だ。金正恩政権に過大な負担を強いることになる』」
「『われわれが強化すれば、北朝鮮も強化せざるを得ない。経済制裁強化と相まって、北朝鮮はますます厳しい立場に追い込まれる』」
(https://www.thedailybeast.com/north-koreas-kim-jong-un-inches-closer-to-all-out-war-than-ever-before)
実用化したミサイルをロシアに売却
北朝鮮はミサイル開発に使うカネをどうやって工面するのだろうか。
国連安保理決議の隙間を縫って中国が対北朝鮮支援をしているのは、今や公然の秘密になっている。
そうした中、米国防総省の報道官、パット・ライダー空軍准将が爆弾発言をした。
「われわれは、北朝鮮がウクライナ侵攻を続けるロシアに武器・弾薬を供給しているという情報に強い関心を抱いている」
「北朝鮮は否定しているらしいが、われわれはロシアが北朝鮮やイランに武器供給を要求しているものと判断している」
(https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript/Article/3206756/pentagon-press-secretary-air-force-brig-gen-pat-ryder-holds-an-on-camera-press/)
むろん、ただで供給はしないだろう。
発射実験で実戦での使用が立証されたミサイルを売ることで、それをさらなるミサイル開発費用に充てているかもしれない。
得意先はロシアに限らない。イランをはじめとする中東諸国やアフリカ諸国もある。
筆者:高濱 賛