北朝鮮、韓国近接地域の住民を「水害被災地」へ強制移住

2024年11月10日(日)8時16分 デイリーNKジャパン

北朝鮮は、7月末の水害で甚大な被害を受けた中国との国境に接する地域で、復興住宅の建設を進めている。ところが、被害を受けていない全く別の地域の住民も入居させる方針だ。そのために建築する住宅の数を2倍に増やした。


一体どういうことなのか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。


平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、当局から最近、このような指示が下された。


「開城(ケソン)市の住民を移住させる」


開城は、洪水被害を受けた平安北道の新義州(シニジュ)まで300キロも離れており、7月末の雨ではこれといった被害を受けていない。その理由はなぜなのか。


「韓国と隣接している開城など分界沿線地域(軍事境界線の近隣地域)の住民は、韓国が風船に入れて飛ばしたビラを頻繁に見ている」



韓国の複数のNGOは、大型の風船に北朝鮮の体制を批判する内容のビラや1ドル札、小型ラジオなどを入れて、北朝鮮に向けて飛ばす活動をしている。つい先日も、あるNGOが、ソウル郊外の坡州(パジュ)市の臨津閣から風船を飛ばそうとして、地元当局に阻止される一件が起きた。


臨津閣から開城市内中心部までは直線距離で20キロ足らずで、風船を飛ばせば、大きな問題なく届く。北朝鮮に届くのは風船とビラだけではなく、電波も同様だ。韓国政府が北朝鮮国民向けに発信しているテレビ放送はクリアに視聴できる。ラジオは言うまでもなく、携帯の電波も届く。北朝鮮側にある検問所兼休憩所では、韓国からわずか2キロしか離れていないため、韓国のSKテレコムの電波がつながる。


そんな「資本主義に汚染された土地」に、国民を住まわすことはできないということだろう。


この移住計画に伴い、住宅の建設数は2倍に増やされた。現場で働いている労働者や突撃隊員(半強制の建設ボランティア)は力が抜けてしまったようだ。


「最近の最高気温は10度くらいだが、最低気温は氷点下5度以下になることもあり、寒さをこらえて働くのはつらい」(情報筋)


当初の住宅建設計画は1万5000戸で、遅くとも11月末までには終える予定だった。そこに降って湧いた移住計画で真冬まで働くこととなり、労働者は虚脱感に襲われている。なお、真冬に工事を行えば、コンクリートの養生がきちんとできないため、建物の強度そのものがもろくなってしまう。


平安北道の別の幹部も、中央から開城市周辺の住民を移住させる計画についての指示を受けたと伝えた。


「韓国に接していてビラや(拡声器)放送、テレビを通じて韓国の影響を受ける住民を強制的に北部に移住させる」(幹部)


ただ、ただ、開城市民全体を移住させるわけではないとのことだ。具体的に誰が対象となるかはわかっていない。


復興住宅の数が急に2倍に増やされたことで、現場からは非難の声が相次いで上がっている。組み立て式の住宅で比較的工事が速く進められるものの、完成も入居も真冬に行われることになる。


労働者たちは当初、1万5000戸の住宅建設を指示した当局に対して、一切不平不満を口にすることはなかったが、今回のやり方には激しい不満を覚えているようだ。


移住対象となる住民の反応は伝えられていないが、喜んで行くという人はまずいないだろう。ソウルにほど近く、朝鮮半島の中では比較的温暖な地域から、いきなり極寒の地への移住を強いられることになるからだ。


だが、絶対に越えることが許されない軍事境界線と異なり、中国との国境は相対的に警備がゆるい。韓国からの密輸で儲けることは不可能だが、中国との密輸は以前より困難になったとは言え、全く不可能ではない。彼らがどのような行動を取るか注目だ。

デイリーNKジャパン

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