日露オープンイノベーションの始まり

11月11日(月)6時0分 JBpress

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 今年、日本の10月は大型台風、豪雨の襲来、ラグビーワールドカップにおける日本代表の活躍、22日には即位の礼正殿の儀が執り行われるなど、記憶に残る1か月であった。

 同時に日露のオープンイノベーションにとっても画期的な1か月であった。

 具体的には、10月6〜9日に日本CTOフォーラムがモスクワを訪問、スコルコボ・イノベーションセンター、ロスアトムなどを訪問した。

 翌週の10月14〜18日には幕張メッセで開催された「CEATEC 2019」にロシアから12社が来日、CEATEC会場でのブース展示に加えて来場者向けのセミナー、空いた時間を利用して都内のテック企業を訪問した。

 さらに10月21〜23日にはモスクワ・スコルコボで開催された「Open Innovations Forum 2019」にROTOBOが協賛参加、日本から20社の訪問企業団とともに日本関連セッションを開催、日本ブースを設置してロシア企業向けのリバースピッチ開催を行った。

 そして10月30日〜11月1日には千葉・柏の葉で開催された「Asia Entrepreneurship Award 2019」にロシアのテックベンチャー3社が参加した。

 筆者がロシアのテック投資に関わって10年以上経つが、過去を振り返ってみても1か月の間に日露双方のテック企業がこれだけ頻繁に往来し、かつ密に交流したケースは思いつかない。

 今回はこのうち筆者も関わったモスクワでの2つのイベントについて紹介したい。


日本CTOフォーラムのロシア訪問

 日本CTOフォーラムとは、日本能率協会が主催する国内大手テック企業のCTO(最高技術責任者)の集まりである。つまり日本を代表するテック企業の技術の目利きの集まりといえる。

 今回、ロシアを訪問したのは今年のノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏を有する旭化成をはじめ化学、電機、機械、素材、食品など13社であった。

 初日は朝一番で味の素がモスクワ市内に1998年に設立した「Ajinomoto Getnetika Research Institute」を訪問、研究所の概要に関するレクチャーと施設見学を行った。

 この研究所は日本企業によるロシア国内のR&D施設としては筆者が知る限り唯一の施設である。

 味の素がソ連時代からアミノ酸発酵技術研究で有名であったGenetika研究所とジョイントベンチャーを設立したのはアジア金融危機直後の1998年12月であったが、その後2003年6月に全株式を買収、100%子会社とした。

 2005年には13億円を投じて新研究棟を起工、味の素の基幹技術であるアミノ酸発酵に欠かせない研究機関となった。

 この背景にはソ連時代から続く味の素とGenetikaの研究者の技術交流があったとのことである。

 午後からはモスクワ郊外のスコルコボ・イノベーションセンターを訪問、センター概要の説明の後、400ヘクタール(東京ディズニーランドの約8倍)の敷地に広がるセンターを見学した。

 最初に訪れたのはロシア大手石油化学企業Sibur社のR&Dセンターである。

 スコルコボの中にはロシア国内外の大手企業によるR&Dセンターが多数開設されている。海外企業ではボーイングがいち早くR&Dセンターを開設したことで有名である。

 日本企業ではパナソニックが小規模の植物工場をイノベーションセンター内に数年前に開設、現在はファナックが大規模なR&Dセンターを建設中である。

 さて、そのSibur社のR&Dセンターであるが、開設から間もない様子でテスト工場、研究室ともに建物内部はややがらんとした印象を受けた。

 しかし、筆者が一番驚いたのは建物内部の廊下に掲げられた安全指示板である。

 そこには、「階段昇降の際には手すりを握ること」と書いてある。

 これは日本の製造業現場では珍しいことではないが(今回も日本のCTOの方々の中にも日頃の習慣で手すりを握って昇り降りされていた方がいた)、ロシアの工場では想像しがたいルールである。

 それだけではない。階段を昇り降りするロシア人がきちんと手すりを握っている!

 つい10年ほど前まではロシアでは工場の中を犬が歩き回っていたり、工場の片隅で車を洗う風景が当たり前だったのである。

 もっともテスト工場の中では従業員がポケットに手を突っ込んでスマホをいじっている光景が見られた。現場のカイゼンは一朝一夕には実現しないものである。

 次に訪れたのはスコルコボが米MIT(マサチューセッツ工科大学)と協力して開設した技術工科大学院「Skoltech」である。

 天然木材を豊富に使った斬新なデザインのキャンパス建物に目が行きがちであるが、この大学院は研究論文が目的ではなく、技術をベースにした起業が単位取得の条件となっている。

 学内にはそのためのインフラ、つまり学生が自由に使えるラボ、スタッフが配置されている。ロシア政府がスコルコボのイノベーション機能に託す期待の大きさが強く感じられた。

 スコルコボ訪問の後半はイノベーションセンターに入居するテック企業5社によるピッチ、その後は他の入居企業も交えたネットワーキングが行われた。

 ピッチ企業の多くは翌週に東京で開催されるCEATECに参加する企業ということもあって、日本企業向けに英語でプレゼンテーションをそつ

なくこなしていた。

 テックスタートアップとしては、その技術はもちろんプレゼン能力もグローバルレベルにあると感じた。

 翌日はロシアの原子力関連の技術を一手に担う国営企業ロスアトムとのミーティングであった。

 ロスアトムといえば、筆者には旧ソ連のイメージを強く漂わせたロシア語以外はしゃべりそうにない強面の組織のイメージである。

 ところが今回プレゼンに登場した人々は国際部門担当(主に原子力発電所の営業であろう)ということもあって、上場企業のIR担当者かと思わせる身のこなしであった。良い意味で大きく期待を裏切られたと言えよう。


オープン イノベーション フォーラム 2019

 オープン・イノベーション・フォーラムは毎年秋に開催されるロシアで最大級のテックイベントである。(https://openinnovations.ru/)

 第1回は10年ほど前にロスナノ主催でモスクワ市内で開催されていたが、3年前からスコルコボ・イノベーションセンターの大型の建屋が完成してからはスコルコボ主催で開催されるようになった。

 初夏に同じくスコルコボで開催されるスタートアップビレッジに比べると、政府や大企業の参加者が多く、もっと平たく言えばスーツにネクタイ姿の参加者が多いイベントである。

 今年もドミトリー・メドベージェフ首相による基調講演が行われた。

 参加者はメドベージェフ首相のほかにベラルーシ、ウズベキスタンの首相、民間からは独バイエルのCEO(最高経営責任者)、グーグルの「Google Play」担当ディレクターなどが参加したのだが、内容的には今ひとつ盛り上がりに欠けたように思えた。

 他方、今年は日本からはロシアNIS貿易会(ROTOBO)が総務省と経済産業省の支援の下、IoT推進コンソーシアムと連携して日本からオープンイノベーションへのビジネスミッションを派遣した。

 今回日本から参加したミッションは約20社、総勢40人程度、大企業からベンチャー、大学、地方公共団体まで幅広い顔ぶれであったが、多くの参加者がロシアに初めて足を運んだというのがこれまでになく斬新である。

 前述のCTOフォーラムでも多くのCTOがロシア訪問は初めてとのことであった。

 ロシアで長年ビジネスを展開している企業でも、営業担当役員や社長がロシアに来ることはあっても、技術担当役員は来ないというのは両国のオープンイノベーションがなかなか進展しない背景であろう。

 その半面、残念だったのは在モスクワの日本企業の参加が極めて少なかったことである。

 モスクワ拠点のビジネスが営業中心であることを考えれば、テクノロジーへの関心が限定的であることは致し方ないのかもしれない。

 さて、日本からのミッションであるが3日間の期間中、ROTOBO・日本ブースを設置してロシア企業向けに参加日本企業によるリバースピッチを行った。

 このリバースピッチは日本企業からロシア企業向けに1コマ30分、英語もしくはロシア語でプレゼンを行うものである。

 会社概要の説明にとどまらず、どういった技術にフォーカスし、それをロシアとどのようにコラボレーションできるのか、より具体的なアピールを行った会社には多くの聴衆が集まっていたように感じた。

 また、このほかに日露のテック協力をテーマとしたセッションを2コマ実施した。

 一つは日本が官民で目指す「Society 5.0」の具体例の紹介、もう一つは日露間のテック投資の可能性についてであった。

 筆者はこれらの2つのセッションのモデレーターを務めたのだが、予想以上に多くのロシア人聴衆が集まったことに驚いた。

 日本のテクノロジーに対するロシア側の期待はまだ消滅してはいないことに安堵した。


10月イベントで感じた変化

 最後にこの1か月のこれらの日露テックイベントで筆者が感じた変化の兆しをまとめてみる。

(1)日本とロシアを往来する人の変化

 既に述べたように、この1か月のイベントで日本からロシアを訪問した人の多くはロシアを初めて訪問する、つまりロシアの専門家ではない。

 しかし、自社の技術に関する専門家の方々であった。

 逆も同様で日本を訪問したロシア人起業家たちは日本の専門家でないことはもちろん、日本が特に好きというわけでもない。

 良くも悪くもテックマニアの若者たちであった。筆者には日露両国のオープンイノベーションの必要条件の一つがようやく整ってきたように思える。

(2)ロシアのテック企業のメンタリティの変化

 今回ロシアのテック企業と話して感じたのは彼らの多くがロシア国内市場ではなく、グローバル市場を視野に入れ始めていることである。

 これはロシア国内の経済停滞が長年続いていることでやむにやまれずという面も否定はできないが、特にIT企業を中心に自社の技術が世界で通用するという自信を持ったことが大きい。

 スコルコボの入居企業の中にも拠点を米国に移して米国の投資家から資金調達を企図する先も現れた。

 日本企業との協業についても、日本市場に参入したいという従来のニーズ以上に日本企業と一緒にグローバル市場を開拓したいとの声が多く聞かれた。

(3)テクノロジーはロシアから日本へも

 従来、日露間ではテクノロジーは日本からロシアに移転するものと考えられてきた。両国政府が掲げる経済協力8項目を見てもこうした色合いが強い。

 しかし個別の分野を詳細に見ていくと、テクノロジーは日本からロシアに必ずしも一方通行で流れるものではない。

 オープンイノベーションの冥利は両者の得意分野の組み合わせにある。

 特にロシア企業のバリュエーションを考えるとロシアから日本へのテクノロジー移転はもっと加速してもよさそうに感じる。

 2019年秋が日露両国のオープンイノベーションのスタートポイントとなることを期待したい。

筆者:大坪 祐介

JBpress

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