相棒同士の日米首脳、アジア政策も一心同体

11月15日(水)6時14分 JBpress

東京・元赤坂の迎賓館で、ワーキングランチに臨むドナルド・トランプ米大統領(右から3番目)と安倍晋三首相(左から3番目、2017年11月6日撮影)。(c)AFP/Toru Kawata〔AFPBB News〕

 米国のトランプ大統領は延べ12日、5カ国に及ぶ初めてのアジア歴訪を11月14日に終えて、ワシントンに戻った。この米国大統領のアジア訪問は何を残したのか。

 これまでトランプ大統領の対外政策、特にアジアに対する姿勢は不明確な部分が多かった。だが今回のアジア訪問でかなりの部分が明らかとなり、予想外の特徴も浮かび上がらせたといえそうだ。


「意外」なほど歓迎されたトランプ大統領

 トランプ大統領は11月4日にワシントンを発ち、ハワイを経て、まず日本、そして韓国、中国を訪れた。その後、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会談に参加するためベトナムに飛び、さらにフィリピンを訪問した。

 その間、最も熱くトランプ大統領を歓迎したのが日本だった。日本では官民ともに意外なほどの歓迎ぶりをみせたといえる。

 あえて「意外」という言葉を使うのは、これまで日本側の一部の識者やメディアが同大統領を酷評していたからだ。トランプ大統領は、日本にとっても、世界にとっても好ましくない存在であるかのように語る“アメリカ通”や“専門家”と呼ばれる人たちが少なくなかった。さらに、国際情勢や米国の政治には決して精通していないのにトランプ大統領を一刀両断にする、いわゆる“文化人”たちのネガティブな言辞も目立った。

 だから私は、トランプ氏訪問に対する抗議運動が日本のどこかで起きても不思議はないだろうと、思っていた。

 ところがふたを開けてみれば、日本では抗議運動はほとんどみられず、トランプ大統領への歓迎一色という感じだった。この点、激しい反対デモが起きた韓国やフィリピンとは対照的だった。


当たらなかった「トランプ政権崩壊」の予告

 こうした状況は、トランプ大統領を歓迎するべきだという空気が日本で醸成されていたことの表れだろう。そうだとすれば、一部の識者やメディアと国民の感覚の間には大きなギャップがあることになる。

 この際、一部の識者やメディアの大きな“誤り”についても指摘しておきたい。

 それらの識者やメディアは、トランプ大統領の就任当初から史上最低の支持率を理由に「すぐに辞任に追い込まれるだろう」と予告していた。さらに米国で「ロシア疑惑」が広がると、「トランプ大統領は弾劾に追い込まれる」と宣託するようになった。その後、トランプ政権内の幹部たちが辞任すると、「トランプ政権は崩壊する」と断言する識者が何人も出てきた。

 こうした予測に従えば、ドナルド・トランプ氏はもう米国の大統領ではなくなっているはずである。

 ところが彼は大統領選の勝利からちょうど1年が過ぎたこの時期に、米国大統領として堂々とアジアを歴訪した。しかも歴訪中に、これまでよりも一段と強い活力や情熱を示した。辞任や弾劾、政権崩壊といったシナリオはみじんも感じさせない現実がそこにあった。


明らかになったトランプ大統領の国際構想

 さて、トランプ大統領はこのアジア歴訪で対外政策の骨格を提示してみせた。その集約となったのが、日韓中3国への訪問後のベトナム・ダナンでの大統領演説だった。アジア太平洋経済協力会議(APEC)での演説である。

 これまでトランプ大統領の対外政策は、世界全体に対してもアジアに対しても、北朝鮮の脅威のような明白に切迫した事態への対応以外は全体像があまり明確ではなかった。「アメリカ優先」というスローガンばかりが先行し、米国以外の対象にどんな理論や思想で臨むのかがよくみえなかった。しかし、そうしたもやもやとした霧のかなりの部分が、今回のアジア歴訪で晴らされた。

 トランプ大統領の政策が最も明確に打ち出されたのが、ベトナム・ダナンでの演説である。トランプ大統領がそこで打ち出した対アジア政策、そして外交政策全体の最大目標は、「自由で開かれたインド太平洋ビジョン(構想)」だった。これまでの東アジア向けの姿勢をインド洋にまで広げ、その地域に、民主主義の主権国家を主体に、自由で開かれた価値観の秩序を築く、という政策である。

 実は、この政策を最初に打ち出したのは、安倍晋三首相である。太平洋からペルシャ湾に及ぶ地域で、民主主義や法の支配、市場経済に基づく経済開発や安全保障の協力を進めるという構想だった。具体的には、米国と日本を中心にインド、オーストラリアなど民主主義国家群による有志連合を築く政策である。その核心は、人権尊重や国際規範順守という普遍的価値を毀損する中国の無法な膨張に対抗することでもあった。

 日本の首相の国際構想を米国の大統領が踏襲し、拡大するという動きは前例がない。だが、トランプ大統領は盟友とみなす安倍首相の政策をそのまま採用した。

 トランプ大統領はダナンで、インド太平洋構想の原則として「民主主義、法の支配、個人の権利と自由」、そして「航行の自由」をうたい、その原則を踏みにじる独裁者には対決すると宣言した。さらに経済面で許すべきではない対象として、「不正な貿易慣行、略奪的な国家産業政策、国有・国営企業の不当な補助」などを挙げた。すべてが中国への非難と警告であることは明白だった。

 トランプ大統領はこの演説の最中にも、西太平洋に米海軍の空母3隻を配備しており、中国の軍事拡張や北朝鮮の軍事的脅威を米国の軍事力で抑止する政策を鮮明にしている。

 こうみると、トランプ大統領のインド太平洋構想は、民主主義の普遍的な価値観の重視、日本など伝統的な同盟国との絆の堅持、共産主義独裁政権との対決、軍事力の効用による抑止と、歴代の共和党保守政権の対外政策に酷似していることが分かる。型破りで奇抜ともいわれたトランプ政権の外交は、意外なほど保守本流へ近づいたようである。

 その新政策の要(かなめ)には、日本が位置づけられる。だが、いまの日本がそのための役割を果たせるのか。これはまた別の課題ではあるが、いまの憲法9条による安全保障政策の自縄自縛は、日本の役割に厳しい制約を科している。だから日本がどこまで米国のアジア政策に実効ある協力ができるのかは、大きな疑問だらけだといえよう。

筆者:古森 義久

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