インドネシア、「22年ぶり」景気後退局面の深刻さ

11月16日(月)6時0分 JBpress

11月13日、大統領官邸でロイターのインタビューに応じたジョコ・ウィドド大統領(写真:ロイター/アフロ)

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(PanAsiaNews:大塚 智彦)

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の大国で巨大マーケットを抱えるインドネシアに10月初め、衝撃が走った。1988年のアジア通貨危機の際に起こった経済危機の時以来、22年ぶりに「景気後退局面」に入ったことが政府中央統計局発表の数字などから明らかになったのだ。

 インドネシア政府財政当局者らは経済状況が深刻なことは認めながらも、「最悪の事態は脱出しつつある」、「改善の基調を示す数字も出てきている」と悲観的な見方の火消しに躍起となっている。だが、インドネシア国内の失業者や経済困窮者の増加に歯止めがかかっていない状況は相変わらずで、政府の楽観的な見方が景気後退の深刻な実態を見えにくくしているとの見方も一部で広まっている。

 今年3月以降の新型コロナウイルスの感染拡大が景気後退の最も大きな原因であることには異論がない。

 そもそもこれまでの経済成長は、強い経済基盤や堅調な指標に支えられたものではなかった。そこを襲ったのがコロナ禍だ。首都ジャカルタなどの主要都市では経済的影響を考え、全面的ロックダウン(都市封鎖)に踏み切ることを躊躇し感染対策が後手に回ったこと、感染者・感染死者などの数字の増減に一喜一憂して防止策の強化・緩和を繰り返したことも景気の後退局面を招いた大きな原因とされている。

 ASEAN諸国での景気後退はフィリピンに次いで2カ国目となるというが、どの国も不況には見舞われており、ASEAN全体が厳しい状況にあると言えるだろう。


政府は「状況は改善」「最悪は脱出」を強調

 インドネシア中央統計局は10月初旬に2020年7〜9月の第3四半期の国内総生産(GDP)が物価変動を除いた実質で前年同期3.49%のマイナスとなったことを明らかにした。これは前回の第2四半期に続けて2回連続でマイナスを記録したことになり、インドネシア経済が景気後退の局面に入ったことを示していることになる。

 政府統計局のスリヤント局長は地元メディアに対して「今回の数字は前の第2四半期の数字ほど深刻ではなく、状況が改善していることを示しているといえる」と説明して悲観的な見方をする必要がないことを強調した。

 またスリ・ムルヤニ財務相もオンライン会議で「インドネシア経済はポジティブ・ゾーンに向かっており、最悪の事態を脱出している」と述べて景気後退局面がすでに最悪状態から回復傾向にあるとの見方を示した。

 スリ財務相はその上で、政府は今後製造業と貿易分野での回復に力を入れると表明、景気浮揚に向けた原動力とする方針を示した。

 一方で「コロナを封じ込める政府の様々な今後の対策が景気回復を大きく左右させることになるだろう」とも述べて、政府の経済政策がコロナ対策と一体であり、効果的なコロナ対策が経済には必要不可欠であるとの見方も示した。

 実際、コロナ禍の収束が実現しないことには景気回復は覚束ないと言えそうだ。

 インドネシアでコロナ禍が深刻化し、ジャカルタ特別州政府などが全面的な「都市封鎖」を念頭に感染拡大防止策を検討し始めた時期に、ジョコ・ウィドド大統領は「一律的な都市封鎖は経済活動への影響が著しく効果的対策とはいえない」と否定的な見方を示していた。

 それでも感染者の急増を受けて、ジャカルタは実質的な都市封鎖に匹敵する「大規模社会制限(PSBB)」を一時実施した。

 これに対しリドワン・カミル西ジャワ州知事ら他の首長が講じたコロナ対策は、感染者数の実態に応じたスポットごとの「市町村封鎖」や「移動制限」「感染検査の徹底」などにとどまった。国土が広大なインドネシアでは、全国一律のコロナ対策はなく、自治体の判断に委ねられた形だが、結局、自治体による感染防止対策でも温度差が生じてしまった。

 一方経済対策としては、10月5日に雇用促進を図る労働法など関連法の一括修正法案である「雇用創出オムニバス法」を議会が可決し、ジョコ・ウィドド大統領も署名して成立させた。

 このほかにも6月には480億ドル相当の景気刺激策を実施するなど、インドネシア政府はあの手この手で景気の後退局面への転換を回避するための努力をしてきている。


増え続ける失業者や生活困窮者

 統計的には「景気後退」を示しつつも、政府は「持ち直し」を強調する局面が続いているインドネシア経済だが、インドネシア経済金融開発研究所(INDEF)のエコノミスト、ビマ・ユディスティラ・アディネガラ氏は地元メディアに対して「多くの企業が今なお閉鎖や従業員の大量解雇の危機を抱えている」として今後も失業者や生活困窮者が増加し続ける可能性に言及している。

 さらにビマ氏は「社会的不平等の拡大による社会的な葛藤が今後増大する懸念がある」と、現状に大きな変化がない限り労働者らの不安が膨張して、深刻な社会不安が生じる危険性も指摘する。

 インドネシアの失業率は8%を超え、失業者は260万に増加して合計約977万人に達しているという。労働時間の短縮を迫られた労働者は実に2400万人に上るという統計もある。

 現在、ジャカルタ市内ではPSBB緩和により、事務所や事業所、飲食店も定員の50%での稼働、営業が認められている。とはいえ市内繁華街をのぞいてみれば、マスク非着用の若者や成人男子があてもなくブラブラする姿が、路上や横断歩道橋などに物乞いが並んでいる姿が目に付くような状況だ。また夜間や人混みのないところでは、スリやかっぱらい、強盗や傷害、バイク盗などが増えているとの報告もあり、社会情勢が微妙に変化しつつあるように感じられる。


とにかく副収入で生活費確保

 インドネシア人の正規雇用者も、生活環境は大きく変化している。「事務所勤務50%制限」を受けて自宅ワークの時間が増えた。そうした人達は少しでも家計の足しにと内職で家計を支える努力をしているのだ。

 大手銀行員のある女性は、化粧品会社から数多くの商品を卸値で購入してインターネットを通じて銀行員仲間や顧客に懸命にセールスをしている。

 自宅で惣菜やパン、お菓子を作ってネットで注文を受けて「薄利多売」で小遣い稼ぎをしている人などは数知れず、だ。マスクや消毒液も大量にネットには出回っている。

 こうした商品や注文を消費者に運ぶのが、ネットアプリを利用した配達サービスである。バイクや乗用車を使ったこの手の商売は登録だけで就業可能なため、多くの失業者が流れ込んできている。ガソリン倹約のため、各地の中心街のあちらこちらで「客待ち」する多くの運転手の姿が見られる。

 彼らは一様に携帯電話を見つめている。注文にいち早く応じることで、なんとかその日の「仕事」にありつこうとしているのだ。


日系企業にも影響ジワリ

 日系の大手コンサルティング会社がインドネシア進出企業を対象に実施した調査によれば、コロナ禍により業績に影響を受けていると回答した企業は64%になり、2020年の業績が前年比で80%未満に落ち込むと予想した企業は72%に上ったという。この調査には152人が回答し、うち製造業が3分の2を占めている。

 さらに、コロナ禍の影響が深刻なことからインドンシアからの事業撤退を考えている企業も約10社あり、インドネシア政府による雇用促進、投資拡大、企業進出誘致の動きとは相反する状況が現場では生まれている。

 確かに成立した「雇用創出オムニバス法」では、インドネシア人労働者の雇用を促進することで「失業率を10%未満に何としても押さえる」(イダ・ファウジア労働大臣)と目標を掲げてはいるものの、「レイオフ基調にある企業が今後再雇用を進める可能性は当面少ない」、「雇用するにしろ経験豊富な年長者を採用する傾向が強まるだろう」(INDEFのビマ氏)など決して楽観視できない状況が今のインドネシアにはある。

 インドネシアに限らず、ASEAN各国はコロナ禍に加えて、自国の経済状況の困難さ、さらに世界経済の不況という「三重苦」に直面している。もう一つ深刻なのは、多くの国にとって「ドル箱」である観光業がどん底に沈んでしまったことだ。言うなれば「出口の見えないトンネル」に入りこんでいる状況だ。

 結局、さまざまな対策はなされているが、「経済回復はコロナ禍次第」と言ってよい。コロナ収束の「出口」に近づかない限り、経済回復の光明も見えてこないのではないだろうか。

筆者:大塚 智彦

JBpress

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