ロシアとの歴史的転換はすでに始まっている

11月27日(火)6時0分 JBpress

フィギュアスケート人気は日本とロシアの共通点でもある。写真は18-19フィギュアスケートグランプリ(GP)シリーズ第5戦、ロシア杯、女子シングル・ショートプログラム(SP)の演技に臨むアリーナ・ザギトワ(2018年11月16日撮影)。(c)Yuri KADOBNOV / AFP 〔AFPBB News〕

 日露の経済交流はこれまでは限られたプレイヤーによる、ある種の閉鎖的な関係であった。

 それがいま、中小企業や地方自治体など新たなプレイヤーの参入で急速に変わりつつある。


これまでは偏った閉鎖的な関係

 日露間の交流の閉鎖性は貿易構造から垣間見ることができる。例えば日本からロシアへの輸出は、自動車が4割強を占める。

 輸出全体の4分の3を占めた2007年、2008年に比べればその割合は下がったものの、今でも自動車はロシア向け輸出の大きな柱である。

 それ以外にも、輸出では自動車部品、建設機械、原動機といった機械製品が上位を占める。

 その一方で輸入品目は、原油・天然ガスを中心にエネルギー資源が約7割だ。

 ここから見えるのは、日本が機械設備を輸出し、ロシアから天然資源を輸入する構造だ。

 このような構造は基本的にソ連時代から大きくは変わらない。

 ソ連時代は自動車の代わりに電気機器や光学機器、あるいは大型のプラントが主力であり、輸入品はエネルギー資源の代わりに木材や魚介類であっただけのことだ。

 ここから見えてくるのは、多様性に乏しい日露間の貿易構造だ。

 地域の点から見ても、両国間の関係はこれまでは決して多様性に富んでいるとは言い難かった。

 ロシアとの関係では、極東を中心に北海道がその関係の深さでは群を抜いている。そのほか、航路やそれを利用した中古車輸出などから日本海側の諸県もロシア極東とのつながりが強かった。

 だが裏を返せば、それ以外の地域のロシアとの交流、特に経済関係はあまりにも弱かった。

 ロシアとのつき合いは一部の限られた地域の「玄人」が携わるもの、あえて誤解を恐れずに言えば、玄人や物好き以外は手が出しにくいと思われていたというのが、長く続いた日露間のビジネスにおける一般的な認識だった。


関係は「点」から「面」となるか、今が正念場

 しかしこの流れが変わりつつある。近年、中小企業によるロシア市場への参入、地方間の交流加速化の動きが目立ち始めた。

 これまでにない新たなプレイヤーの参入が目につき始めた。日露交流の歴史の中では今までにない動きと言ってよい。交流の幅が広がればそれは自然にビジネスにも拡大する。

 現在の日露間の様々な交流の柱となるのは、2016年のソチでの非公式首脳会談で安倍晋三首相がウラジーミル・プーチン大統領に提案した「8項目の協力プラン」だ。

 このプランの正式名称は「ロシアの生活環境大国、産業・経済の革新のための協力プラン」。

 ロシアの社会的・経済的な課題に日本のノウハウや技術で対応し、日本企業の新たなビジネスチャンスを想像するとともにロシアの社会インフラ整備や経済構造の改革にも貢献するウイン・ウインの関係構築を狙うものだ。

 「8項目」には医療や都市開発・インフラ整備、中小企業交流などのほかに「人的・地域間交流」が含まれている。

 ロシアとの関係を深めていくには、様々な分野で交流に携わる人を増やすことが重要だ。交流の基盤が広がれば自ずから関係は深まる。

 少し前まではほぼ「点」のような状態だった日露間の様々な交流は、経済面では8項目の協力を柱に「線」のような形でつながりつつある。

 それが地域的にも広がりを見せれば、単に幅が広がるだけではなく、ビジネスを含め様々な新しい可能性が生まれ出る可能性につながる。

 今はまさに点から線へ、さらに「面」に広がるかどうかの正念場と言えよう。


中小企業や地方間交流の新潮流

 企業レベルではこれまでロシアとの関係があまりなかった四国や九州の企業がロシアとの間で新たなビジネスに取り組む事例が出てきている。

 例えば、日本貿易振興機構(JETRO)では日本全国の中堅・中小企業の対露ビジネス展開を支援している。

 その中には九州から温州ミカンをサハリンへ輸出する事例、四国のメーカーが作る赤ちゃん用の衛生用品やお菓子などをウラジオストク、ハバロフスクなどロシア極東部へ輸出する事例などが出ている。

 そのほかにも、岩手県や福島県などの企業でも初めてロシア向けの輸出に成功している。いずれもここ1年以内の話である。

 中小企業のロシア向けビジネスでは、着実に新しい波が立ち始めている。

 自治体間の交流も広がりを見せる。

 茨城県では、2018年4月に大井川和彦知事が自民党の二階俊博幹事長を代表とする訪露代表団の一員として訪露、茨城県の観光の魅力などをアピールした。

 それを受け6月にはロシアのエンターテイメント専門誌「KiMONO」が、また10月にはロシア極東を拠点とするメディアグループ「グベルニャ」が同県を取材に訪れた。

 11月には県内企業向けにロシアセミナーを開催し県内企業にロシア市場の可能性などをアピールする機会を設けた。

 筆者は同県出身だが、これまで茨城県でロシアとのビジネスをテーマにセミナーが行われたことはほとんどなかったと記憶している。

 過去には日立港での北洋材の輸入などで関係はあったが、それも今はなくなっており、久しぶりに地元とロシアの関係を耳にした気がする。

 茨城県の関係者は、将来的な話としながらも、つくば市との間の科学技術交流の可能性にも期待を寄せる。

 福岡市は、サンクトペテルブルク市との間でスタートアップを切り口に交流を進めようとしている。

 2018年5月のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムに高島宗一郎市長が参加し、サンクトペテルブルクのスタートアップ支援機関であるイングリアとの間でスタートアップの相互支援に関する覚書を締結した。

 ロシアではスタートアップを含めたデジタル化を政府主導で進めている。

 ロシアがデジタル関連技術で意外に侮れない国であることはこちらの記事(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54055)でも指摘したところである。

 これまでロシアとの交流を続けてきた地域でも、新たな方向性を探り始めている。

 北海道はこれまでもサハリンを中心にロシア極東との交流が盛んな地域だが、2017年以降モスクワやサンクトペテルブルクなど、いわゆる「ロシア欧州部」との関係強化の方向性を打ち出した。

 従来からイルクーツク州と姉妹関係にある石川県には、今年10月にロシア西部・ヴォルガ川流域の有力な地方であるタタルスタン共和国から、ミンニハノフ大統領を団長とする代表団が訪れた。

 これに合わせ金沢大学とカザン連邦大学の間で、学生交流推進の加速に関する覚書が締結された。

 金沢大学ではすでに「日露をつなぐ未来共創リーダー育成プログラム」に取り組んでいるが、今回の覚書締結はプログラムの一層の充実につながることが期待される。

 先日のシンガポールでの日露首脳会談では、平和条約の締結についても議論が交わされた。

 平和条約交渉が今後どのように進むかは予断を許さないが、その過程を経て、結果として日露両国が近づくことになれば地域間交流もさらに加速することだろう。

 ロシア市場は課題も多いがポテンシャルは大きい。

 筆者としては、これまでロシアとの縁が薄かった地域の企業こそ日露交流、経済協力の波がどのようなうねりを見せるのか、目くばせを怠らないことが肝要だと考えている。

(注)(1)健康寿命の伸長、(2)快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り、(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大、(4)エネルギー、(5)ロシアの産業多様化・生産性向上、(6)極東の産業振興・輸出基地化、(7)先端技術協力、(8)人的交流の抜本的拡大、の8項目。

筆者:梅津 哲也

JBpress

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