現代自動車、課題山積でも強行するスーパー本社建設

11月28日(木)6時0分 JBpress

ソウル市にある現代自動車の本社(写真:picture alliance/アフロ)

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「現代自動車はこの先どうなるのか?」

 2019年11月26日、この日にあった2つの発表を聞いた韓国紙デスクが心配そうにつぶやいた。

 一時の勢いがなくなってきたとはいえ、韓国を代表する看板企業だけに最近、話題は多い。だが、激戦のグローバル自動車市場で勝ち残れるのか?

 自信をもって「YES」という答えもなかなか返ってこない。

 この日、韓国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の特別首脳会議のために釜山を訪れていたインドネシアのジョコ大統領は、車で1時間ほどの現代自動車工場を訪問した。

 案内をした鄭義宣(チョン・ウィソン=1970年生)総括首席副会長とはすっかり顔なじみだ。というのも、自動車工場を誘致するために何度も面談していたからだ。


ジョコ大統領が訪問

 この日、現代自動車はインドネシアに自動車工場を建設する投資協約に調印した。

 ジャカルタから40キロほどの場所に年内にも着工し、2021年から年産15万台規模で小型SUVなどの生産を始める。2030年までの総投資額は15億5000万ドルに達するという。

 インドネシアも他の東南アジア市場と同じく日本車の牙城だ。韓国紙によると日本車のシェアは90%を軽く超えている。

 ジョコ大統領もこうした点を念頭に「現代自動車の進出で、インドネシアの消費者は日本車以外の選択肢を得ることになる」と歓迎してみせた。

 数年前ならば、現代自動車の工場進出は、日本車メーカーにとっては「また、この市場でも強敵が1つ増える」と脅威だったはずだ。

 韓国メディアも「日本車に追いつき追い越せ!」とばかり大々的に報じたはずだ。


インドネシア工場で日本車追撃だが…

 ところが、一部経済紙を除くと「大々的」とは程遠い報じ方だった。1面トップで報じた経済紙も決して威勢の良い報道ではなかった。

 その理由は、一つには、日本車のシェアがあまりに高く、「果たして勝てるのか?」という懸念が消えないのだ。

 現代自動車は2013年にもインドネシア進出を検討したが、「日本車が強すぎる」という理由で断念したことがある。

 当時と比べて日本車の競争力が落ちたという話はない。

 もう一つは、現代自動車が世界市場で苦戦を強いられているのだ。

 現代自動車と子会社の起亜自動車は2000年代に入って急成長を続けた。世界上位グループの一角に入ったが、ここ数年、米国、欧州、中国など主力市場で苦戦が鮮明になってきた。

 現代・起亜車の世界販売台数は、2014年と2015年に800万台を突破した。しかし、それ以降は減少に転じ、2017年には723万台に落ちた。

 2018年も740万台にとどまり、2019年は再び前年比マイナスになる可能性が高い。


生産能力900万台、販売実績700万台

 特に苦戦しているのが中国市場だ。一時は中国市場でシェアを伸ばし、次々と工場を新設して生産能力は年間200万台を超えた。

 ところが2019年の販売台数は80万台割れの公算が高く、大規模リストラを断行中だ。

「毎日経済新聞」によると、世界全体では「生産能力は900万台、販売台数は700万台」で、生産能力の縮小が待ったなしだ。

 もちろん、成長が期待できる市場に工場を建設することは当然だが、何となく「気勢が上がらない」のだ。

 そんななか、ジョコ大統領が工場を訪問していたのと同じ11月26日、ソウル市が現代自動車の本社建設許可を出した。

 この本社建設計画については、様々な見方が錯綜している。

 現代自動車と起亜自動車は、ソウル江南地区のツインタワーに本社を置いている。ところが、急成長で手狭になり、2006年頃から新本社建設を模索していた。

 優秀な人材を確保するために一部研究部門もソウルに置きたい。こう考えて、いくつかの候補地を物色していた。


新本社の建設許可

 そんなときに江南地区の一等地にあった韓国電力公社の地方移転と本社売却が決まった。ソウルの江南地区でまとまった規模の土地を確保できる機会はそうはない。

「この機会を逃すな!」

 鄭義宣総括首席副会長の実父である鄭夢九(チョン・モング=1938年生)グループ会長は強い執着を見せた。

 2014年、現代自動車グループは、サムスン物産などとの競争に勝って、韓国電力本社用地を取得する契約を結んだ。

 問題はその金額だった。鑑定評価額の3倍近い10兆5500億ウォン(1円=11ウォン)。1兆円以上だったのだ。

 現代自動車と起亜自動車を合わせた2018年の営業利益は3兆5000億ウォンほど。

 とてつもない金額になった。

 土地を買っただけでは意味がない。一帯を再開発する計画だ。全額を現代自動車グループが出すわけではないが、その投資額は3兆ウォンを超える見通しだ。


569メートル、土地だけで10兆ウォン

 何しろすごい計画だ。建物は地上105階で569メートル。近くにできたロッテワールドタワー(555メートル)よりもさらに高い。

 本社のほか、高級ホテル、コンサートホール、展示場などを作り、完工する2026年に「現代自動車タウン」が出来上がる見込みだ。

 韓国にも「豪華な本社を建てると勢いがなくなる」という言い方がある。

 構想を明らかにした時も、「いくらなんでも投資額が大きすぎないか?」という声はあった。

 あれから5年、現代自動車グループに一時ほどの勢いがなくなってきたため、「大丈夫なのか?」という指摘は少なくない。

 一時の勢いに陰りが出ているだけではない。何しろ、やらなければならないことが山ほどあるのだ。

 まずは、世界規模でのリストラ。それだけではない。今や自動車業界は「100年に1度」ともいわれる大転換期を迎えている。

「水素、EV、ハイブリッドに加え、IT、AIやロボット、自動運転からカーシェアまで、自動車に関連する分野では何が突然起きるか分からない。いくらあっても投資額と人材が足りない」(大手日本メーカー役員)という時代だ。


新本社完工まであと7年

 現代自動車グループも、ハイブリッド、EVさらに水素自動車の開発を急いでいる。特に、水素自動車については、「トヨタ自動車に負けない」という意気込みだ。

 2018年11月には、東南アジア地域で配車サービス事業を皮切りに事業をどんどん拡張しているグラブに2億5000万ドルを出資した。

 さらに2019年9月には、米国に自動車部品大手、アプティブ(旧デルファイ)とそれぞれ20憶ドルを出資して、合弁で自動運転技術の開発会社を設立した。

 現代自動車グループも、必死なのだ。

 現代自動車は1967年の創業以来、大きな失敗なしに順調に成長した。

 当初は、三菱自動車の技術を導入して小型車開発技術を磨いた。小型乗用車「ポニー」や「エクセル」の開発で、事業を軌道に乗せた。

 1990年代末以降は、鄭夢九会長が起亜自動車の買収や積極的な海外進出で一気に事業を拡大させた。

 鄭義宣総括首席副会長は、ここ1〜2年で父親に代わって事実上の経営トップの役割を担うようになった。

 代替わりを果たしたと思ったとたん、「宿題」が山積しているのだ。

 本社の完工まで7年。105階建ての本社の執務室で鄭義宣氏が業務を始める頃、現代自動車グループは、世界のトップグループで疾走を続けているのか?

 道のりは険しい。

筆者:玉置 直司

JBpress

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