巨大化する恐るべきディズニー帝国の野望

12月3日(月)6時12分 JBpress

マレーシアのパハン州にあるゲンティンハイランド(クアラルンプールから車で1時間)の再開発地区に建設中の米20世紀フォックス初のテーマパーク「20世紀フォックス・ワールド・ゲンティン」。2019年開業を目指し、全体の70%ほどが完成している(2018年12月1日、筆者撮影)

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 米メディア映画界の世紀の買収劇がとうとう、アジア市場に飛び火してきた。

 日本のカジノ解禁で日本市場参入最有力候補の一つで、米英など世界各国にカジノを敷設した統合リゾート(IR)を経営するマレーシアのゲンティン・グループに激震が走った。

 米大手複合メディア「21世紀フォックス」の傘下の米大手映画会社、20世紀フォックスは、同社の映画を主題にした世界初のテーマパーク「20世紀フォックス・ワールド・ゲンティン」をマレーシアに開業予定だった。

 ところが、20世紀フォックスは今年11月、ゲンティングループとの契約破棄を一方的に通告した。

 ゲンティン(同社グループ公式サイトhttp://www.genting.com/)は、日本人にも人気の高原カジノリゾート、ゲンティンハイランドの再開発地区で2019年開業を目指し、同テーマパークを建設中だった。

 「ほぼ70%が完成していた矢先の20世紀フォックスなどからの一方的な通告だった」と、ゲンティン関係者は驚きと憤りを隠せない。

 また、ゲンティンハイランドには、ユニクロを始めとした日系企業も参入しており、同テーマパーク開業による敷設事業へのさらなる投資を目論んでいた日系企業関係者にも衝撃が走っている。

 契約破棄通告を受けて、ゲンティンはすかさず訴訟に踏み切った。

 11月26日(日本時間同月27日)、米カリフォルニア中央地区連邦地方裁判所に、これまでの投資額などに相当する10億ドル(約1140億円)の支払いを求め、フォックス・エンターテインメント・グループと米ウォルト・ディズニーを訴えた。

 ゲンティンは提訴の合法的妥当性をマレーシア証券取引所(Bursa Malaysia)に提出した声明の中で次のように主張した。

 「合意覚書で保証されている権利を徹底的に行使し、10億ドル(約1140億円)を超える投資費用と懲罰的損害賠償を請求する」

 「さらに、弊社への損害賠償の範囲などは、法的手続きの結果が明白になるまで確認できない」

 訴えられた21世紀フォックスやディズニーなどは、訴状内容を否定しつつも、いまだ明確な声明を発表していない。

 ただし、同社などハリウッド関係者によると、「21世紀フォックス買収の締結完了を進めているディズニーが、カジノとの協業は同社のイメージに相応しくないと難色を示した」ようだ。

 同計画が持ち上がったのは2013年6月。20世紀フォックスとゲンティンが、世界初となる「フォックステーマパーク」の契約を締結。

 ゲンティンがテーマパークを所有して経営を担い、フォックスが小売や飲食分野の一定割合を引き受ける契約内容で合意していた。

 すでにアジアに進出しているディズニーやユニバーサルスタジオに対抗する米映画のテーマパークの新たな進出は、期待とともに業界関係者の間には「脅威」とも受け取られていた。

 ゲンティンにとっては、ゲンティンハイランドの再開発の一番の目玉事業がフォックスとの世界初のテーマパークだっただけに、その落胆ぶりは計り知れない。

 ゲンティングループは、英国、米国、香港、フィリピンなどでもIRリゾート開発を展開している。

 ほかにも石油・天然ガス開発、造船、不動産開発など、アジアでも一大財閥グループとして成長したマレーシアの巨大コングロマット企業(本社クアラルンプール)だ。

(参照:「ハウステンボスが公海上でカジノ運営を先行開始」 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38877、「アジアのカジノ先進国に続け」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38829)

 2010年に開業したシンガポールの「リゾート・ワールド・セントーサ」の開発でも知られ、カジノを解禁する日本への参入を長年、切望してきた。

 大阪府の松井一郎知事はゲンティングループが経営するシンガポールとマレーシアのIR事情を何度も視察している。

 「アジアの統合型リゾート(IR)を肌で感じ、多くを学びたい」と視察の目的を語っていた。

 アジアや米ラスベガスを中心に、今でこそ世界的に注目されるIRだが、それを半世紀前にマレーシアのジャングルで発案、建設したのが、 現在の同グループの創業者で現会長のリム・コックタイ会長の父、故・林悟桐(リム・ゴー・トン)氏。

 標高約2000メートルの高地に広がるジャングルを開拓し、今では「マレーシアのラスベガス」とも称される高原リゾート「ゲンティン・ハイランド(中国語:雲頂高原)」(雲の上のカジノ)を作り、大成功させた。

 アジアのビジネス界では、知る人ぞ知る起業家の神様である。世界に日本の即席ラーメンを普及させた日清食品の創業者、安藤百福氏のような存在と言えば日本人には分かりやすいだろうか。

 彼の次男が現会長のリム・コックタイ氏。今回の20世紀フォックスとの世界初テーマパーク誘致について、「映画テーマパークで、ゲンティンハイランドを世界の主要観光地に育てたい」と意欲的だった。

 その野望も、ゲンティンの雲の上に、シャボン玉のように泡となって消え失せてしまったわけだ。

 ゲンティンは声明で、「今回の事業中止や訴訟が同社の経営や営業に悪影響は起こさないだろう」とするが、当然、企業の今後のグローバル戦略の舵取りへの影響は避けられない。

 それにしても、なぜ突然、20世紀フォックス初のテーマパークがご破算になったのか。ディズニーによる21世紀フォックスの買収が背景にあるにせよ、筆者には何か負に落ちない。

 「ディズニーのファミリー志向のブランド戦略に“そぐわない”」というもっともらしい理由がつけられているからこそ、なおさらだ。

 実は、20世紀フォックスは、同社冠のテーマパークをアブダビを代表する国際的なコングロマット企業のアル・アハリグループ(AA)(http://alahliholdinggroup.com/)と2015年11月にアブダビ(ドバイ)で開発することで合意。

 テーマパーク「20世紀フォックス・ワールド・ドバイ」はAAグループ所有で、建設費などに8億5000万ドル(約1兆円)をかけ、2020年の開業を目指していた。

 しかし、現地の欧米企業関係者に取材すると、現在「テーマパーク建設は、『無期限の延期』となっているようだ」とのこと。

 日本のメディアでは報道されていないが、ドバイの20世紀フォックスのテーマパークも事実上、中止の公算が高いことが明らかになった。

 ドバイのテーマパークは、AAグループ開発のリゾートホテルを敷設する大規模レジャーランドで、イスラム圏で禁止されているカジノとは無縁だ。

 その中止の理由は「ドバイには、テーマパークなど、すでに多くのレジャー関連施設があり、飽和状態だから」とか。こちらも、説得力のない理由からだ。

 間違いなくディズニー「意向」が影響していることは否めないだろう。

 ディズニーは今年7月末、700億ドルを投じてフォックスのコンテンツ資産の買収を最終的に決定した。

 独占禁止法の問題もあったものの、米司法省はディズニーによる買収を大筋で承認。公に発表されてはいないが、事業買収の手続きは、「2019年の夏までに完了するだろう」(米フォックス関係者)といわれている。

 そんな中、11月8日、ディズニーは、米国で映像配信サービス「Disney+」を開始すると発表。

 今回の買収劇の最大の目的の一つが、ディズニーが「独自のネット配信ビジネスに参入するための布石」として、動画配信「Hulu」(フール—)の経営権を取得することだった。

 さらに、フォックスの映画やテレビスタジオ、関連するキャラクターなどの知的財産(IP)を手中に収めることも買収の主な背景だ。

 その「IPを最大限に生かす」という意味で、ディズニーが展開するテーマパーク事業は、最大の強みだ。

 ディズニーは先頃、「カリフォルニアとフロリダに、2019年の夏と秋に、それぞれスターウォーズのテーマパークを開業する」ことを明らかにした。

 テーマパークビジネスの元祖であるディズニーが、傘下となった20世紀フォックスによる世界初のテーマパーク新規参入を阻止したかった本当の背景がここに垣間見える。

 ディズニーの基幹事業への競合は許さないということだろう。

 フォックスの会長のメディア帝王のルパート・マードック会長はディズニーに身売りした本当の理由をこう話す。

 「10年後には、大手米企業4社と大手中国企業2社が市場を席巻し、最終的に生き残るのは『ディズニー』だからだ」

 巨大化するディズニー帝国の隠された「野望」が次第に暴かれようとしている。

(取材・文 末永 恵)

筆者:末永 恵

JBpress

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