クリスマスの日に弾劾されるトランプ大統領

12月4日(水)6時0分 JBpress

11月30日、報道陣を前にドナルド・トランプ大統領弾劾手続きについて説明するジェリー・ナドラー米下院司法委員会委員長

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マンハッタン舞台に因縁の対決

 米下院司法委員会(ジェリー・ナドラー委員長=民主党ニューヨーク州選出)によるドナルド・トランプ米大統領に対する弾劾審議が12月4日から始まる。

 下院情報特別委員会(アダム・シフ委員長=民主党カリフォルニア州選出)による「ウクライナゲート疑惑」審理を受けて弾劾決議権を持つ司法委員会が最終判断を下す。

 余談だが、ナドラー氏とトランプ氏には因縁がある。40年前に遡る対決だ。

 ナドラー氏がニューヨーク州下院議員の時だった1980年代、トランプ氏がナドラー氏の選挙区だったマンハッタン・ウエストサイドの土地を買い占め、「テレビ・シティ」建設を計画していた。

 これに地域住民は猛反対した。ナドラー氏は住民の反対を代弁してトランプ氏と激しく渡り合った。

 トランプ氏の周辺には怪しげなカネも飛び交ったとも言われている。

 結局、この対決の軍配はナドラー氏に挙がった。建設計画は断ち切れとなった。

 それ以後、トランプ氏はことあるごとにナドラー氏を「太っちょのジェリー」と罵ってきた。顔を見るのも嫌な存在かもしれない。

(https://www.washingtonpost.com/politics/ive-been-battling-nadler-for-years-feud-between-trump-democrat-rooted-in-decades-old-new-york-real-estate-project/2019/04/08/1c848f7e-57af-11e9-a047-748657a0a9d1_story.html)

 そして2019年末、そのナドラー氏が下院司法委員長としてトランプ氏を弾劾に追い込もうというのだ。

 シフ下院情報特別委員会委員長は当初、マイク・ポンペオ国務長官らトランプ政権高官や大統領の個人弁護士として「ウクライナゲート疑惑」の中心的人物、ルーディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長の召喚を試みた。

 だが、トランプ大統領は大統領特権を行使して政府高官をはじめ関係者の証言を拒んできた。

 ナドラー委員長もトランプ政権高官らの証言を強く要求している。一方で、4日からの公聴会では「大統領弾劾の憲法上の根拠」を議題に著名な法学者4人を招いて弾劾の法的正当性を質す。

 その質疑応答をテレビ中継することで「米国民に弾劾の意味を知ってもらう」のだという。4日の証人は以下の通りだ。

●ノア・フェルドマン教授(ハーバー大学法科大学院)

●パメラ・カーラン教授(スタンフォード大学法科大学院)

●マイケル・ゲーハート教授(ノースカロライナ大学法科大学院)

●ジョナソン・ツゥ—レイ教授(ジョージワシントン大学法科大学院)

(https://www.axios.com/house-judiciary-impeachment-hearing-witnesses-26694a26-41b8-4ca7-8ab1-39dca3dbf516.html)

 民主党としては、公聴会での質疑応答を踏まえて12月第2週までに弾劾決議案を可決・成立させ、下院本会議に送付し、25日のクリスマスには下院本会議で同決議案を賛成多数で成立させる方針だ。

 下院が現職大統領を弾劾するのは、1869年のアンドルー・ジョンソン第17代大統領、1989年のビル・クリントン第42代大統領に次いで今回は3回目。

 ジョンソン、クリントン両大統領はともに上院で放免されている。

(リチャード・ニクソン第37代大統領は下院司法委員会が弾劾決議案を可決、成立させた段階で辞任している)


トランプ大統領に捺される烙印

 下院の弾劾決議を受けて上院は年明け第2週から「弾劾裁判」(Impeachment Trial)を行う。下院決議の是非を問う審議で上院議員の3分の2の賛成で可決・成立する。

 だが上院は与党共和党53議席、民主党47議席(無所属2議席を含む)と、共和党が多数を占めており、「多勢に無勢」。下院で成立した弾劾決議案が上院で承認される可能性はゼロだ*1

*1=筆者は、弾劾を決めるのは下院であり、上院はそれを承認あるいは放免するという認識に基に執筆している。

 トランプ大統領には弾劾されない「安全弁」があるわけだ。

 弾劾の動きを定点観測してきた米主要紙の記者は4日から始まる弾劾心理の意義について筆者にこう指摘する。

「確かに上院の壁でトランプ氏は弾劾を免れるが、下院から『弾劾に値する大統領』と烙印を捺される政治的インパクトは計り知れないものがある」

「対外的にも極めてまずい状況になる。信用度はがた落ちだ。そのことを知らないトランプ氏ではない。いくら口では民主党の党利党略だと嘯いても『烙印』がついて歩く」

 一応「安全弁」を保証されているトランプ大統領は、こうツイートしている。

「民主党は歴史上最も馬鹿げた弾劾に向けた公聴会を開く」

「(ウクライナ大統領との電話会談の)会話録を読んでみろ。何も悪いことはしていないし、話してもいない!」

「急進的な左派が我が国の価値を低下させている」

「(下院司法委員会の)公聴会は北大西洋条約機構(NATO)首脳会談と同じ日程だ」

 ツイッターを見る限り、トランプ大統領は強気の姿勢を崩していない。

 アフガニスタンへの電撃訪問に次いでNATO首脳会談出席のため2日訪英している。英国には2日から2日間滞在し、エリザベス女王とも会見する。

 トランプ氏としては弾劾騒ぎを撥ね退け、大統領選での再選に役立つ外交ショーを演出したいところだろう。

 だが12日に総選挙を控えている英国にとっては「厄介者のトランプ」(英メディア)は歓迎すべき賓客ではなさそうだ。

 英メディアはトランプ訪問を冷ややかな目で見ている。


「カネ、カネ、カネ」

 下院司法委員会の公聴会が4日から始まれば、テレビ局は生中継するし、ニューヨーク・タイムズをはじめとする主要紙やネットメディアは公聴会での審理を克明に報じるのは必至だ。

 主要紙の報道はどちらに転んでもトランプ大統領に好意的なものにはなりそうにない。

 そうした中で、トランプ大統領の強気の姿勢とは裏腹にホワイトハウスも与党共和党も臨戦態勢を敷いている。

 政権内部からの政府高官によるリークを警戒している。これ以上「ホイッスルブローワー」(内部通報者)が出ればトランプ大統領にとっては致命傷になりかねない。

 世論操作にも力を入れている。

 トランプ大統領と共和党は巨額のカネを使って世論操作に乗り出しているのだ。

 トランプ共和党は10月1日以降、民主党の弾劾の動きを激しく批判するテレビ広告を全米規模で展開、その額はすでに680万ドルに上っている。今後さらに増えそうだ。

(民主党もこれに負けじとトランプ弾劾の正当性を訴えるテレビ広告を流しているが、使ったカネは共和党の7割の470万ドルにとどまっている)

 また、トランプ陣営ではすでに来年2月2日のアメフトのスーパーボウル中継(フォックス・ニュース)の主要スポンサーになる話も進んでいるようだ。

(2019年のスーパーボウルをテレビで観戦した人の数は9820万人だった)

 トランプ陣営はTV広告に加えてネット広告に200万ドルを投じて「反弾劾キャンペーン」も繰り広げている。その大半はフェイスブックだ。

 2016年の大統領選の際に売り出した「MAGA」(Make America Great Again)キャップで味を占めたのか、弾劾にちなんだTシャツを制作、発売中だ。

 商品として売りながら民主党の弾劾工作を批判する世論を形成しようという狙いだ。

 そのロゴは「Bull-Schiff」や「Bull」の後に下院情報特別委員会のシフ委員長の似顔絵。

 同委員長は、トランプ大統領に対する弾劾追及の急先鋒。

 前者は卑語「Bullshit」(でたらめ)のShitに発音の似たSchiff(シフ)をひっかけている。似顔絵はどちらかというと首の長いシフ氏を茶化している。

 もう一つ売り出されているTシャツは「Where's Hunter?」

 共和党が下院情報特別委員会に証人喚問させようとしていた民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領の息子ハンター氏のことを皮肉ったものだ。

 トランプ陣営によると、2つのTシャツの売れ行きは上々だという。

 12月は、攻める側にとっても守る側にとってもクリスマスそっちのけの、戦いの30日間になりそうだ。

筆者:高濱 賛

JBpress

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