元KARAク・ハラの自死で考える 韓国に蔓延る空気の正体

12月5日(木)16時0分 NEWSポストセブン

ク・ハラの死を悼みソウル市内の病院に設けられた祭壇(AFP=時事)

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 韓国のアイドルグループKARAの元メンバー、ク・ハラ(28)の自死から10日が過ぎた。韓国では自死に至る経緯(元交際相手によるリベンジポルノ問題)などをめぐり、現在も議論が紛糾している。歴史作家の島崎晋氏が、現代韓国にも根強い儒教文化との関連を考察する。


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「ク・ハラが自殺」──その第一報を目にしたとき、多くのK-POPファンが驚いたに違いない。今年6月に日本の芸能プロダクションと専属契約を結び、11月13日にはファースト・ソロアルバム『Midnight Queen』をリリース。翌14日の福岡に始まり、15日に大阪、17日に名古屋、19日に東京での公演を終え、一時帰国した矢先の出来事であった。


 それに加え、ク・ハラの自殺より42日前には親しくしていたf(x)の元メンバー、ソルリが自殺をしており、3歳年長のク・ハラは訃報に接した直後、ソーシャル・メディア上にソルリとハグして目を閉じている写真を掲載し、「姉さん(ク・ハラ)があなた(ソルリ)の分まで一生懸命生きるから」と書き込んでいた。誓いを宣言してまもない自殺とあれば、ファンのあいだで当惑が広がるのも無理はない。


 ク・ハラを精神的に追い詰めたそもそものきっかけは、元交際相手とのトラブルにあったと指摘されている。相手も人気アイドルグループのメンバーであったことから、相手側ファンによるネット上での誹謗中傷がいつまでもやまず、今年の3月に眼瞼下垂の手術をした際も「二重まぶたの手術、なぜまたしたの?」「目つき矯正じゃないの?」といった書き込みが多くなされた。


 眼瞼下垂とは、瞼を押し上げる筋肉の力が弱まって上瞼が下がる症状のことで、矯正・切除手術などによって治療することが多く、整形とは異なる。かつて整形疑惑が浮上した際も彼女は眼瞼下垂の手術をしたことを堂々と明かしていたから、再び持ち上がった疑惑の声に「またか」という思いでいたに違いない。


 プロ意識の強い彼女は、「管理の重要性! 顔のバランスが合ってこそ、エネルギーが出るタイプ」「10年たゆみなく童顔の管理を受けてきた私の健康運動の一つ」といった書き込みに加え、毎朝マスクパックを欠かさない様子や脊椎の矯正、顔の非対称の矯正などを目的としたマッサージを受けている様子なども公開していたから、それらの努力を完全スルーしての悪質コメントに怒りを通り越して、絶望感さえ抱いた可能性もある。


 韓国の歴史や伝統文化を顧みると、ク・ハラが自殺した動機の何割かを儒教文化に求めるのは、それほど見当違いではないだろう。ちなみに儒教の経典に以下のような記述がある。


「身体髪膚はこれを父母にうく。あえて毀傷せざるは孝のはじめなり」(『孝経』)


「父母がまったくしてこれを生み、子がまったくしてこれを帰すは孝というべし」(『小学』)


 つまり、親が大学合格のご褒美や成人、就職などのお祝いに整形費用を出してくれる風潮はあくまでカウンターカルチャーであって、整形を経験していない人にとっては、整形疑惑をかけられること自体が大変な屈辱であるわけだ。親不孝者と決めつけられたのも同然で、両親の面子を潰されたことにもなる。


 ただでさえ精神的に参っている人間に対し、畳みかけるようなバッシングを続ければどうなるか。「己れの欲せざる所、人に施す勿かれ」という『論語』の一節が心にしっかり刻まれていれば、傷口に塩を塗るような行為をしてはならないと自制心が働いて然るべきはずなのだが。


 芸能界に限らず、韓国の自殺率は経済協力開発機構(OECD)加盟国中最悪で、一昨年減ったかと思えば、2018年はリトアニアを抑えて再び自殺率1位に返り咲いた。人口10万人あたりの自殺者数はOECD平均(11.5人)の2倍以上(26.6人)。38分間に1人が自殺している計算になる。


 国連加盟国全体を見ても、韓国の自殺率の高さはワースト10位前後。内戦下や国民の大半が飢餓線以下にあるならともかく、そうでない国としては異常な高さで、経済の低迷や芸能界の闇といった言葉で片づけられない問題があると言わざるをえない。


 統計上の宗教区分では、キリスト教の信者が1位、仏教が2位となっているが、社会の底辺には儒教、それも朱子学の教えがいまだ根強くあることから、それとの関係性を無視するわけにはいかない。近代中国の文豪・魯迅が儒教を「人が人を食らう」教えとして痛烈な批判を浴びせたように、儒教は現代社会において正負の二面性を有している。


 また孔子の教えと儒教はイコールではなく、何よりも思いやりの大切さを説く孔子とは異なり、正邪の区別をはっきりさせる朱子学であればなおさらである。使いようによって、良薬にも毒薬にもなりうる取扱注意の代物なのだ。


 大胆な仮説を述べるならば、現在の韓国は儒教の負の側面と欧米伝来の個人主義が変に混ざり合い、言論の自由のはき違えと合わさって、おかしな空気に満たされているのではないか。文明の衝突の一種ではあるが、同様の悲劇が繰り返されぬよう、韓国の人びとにはぜひとも伝統を尊重しながら文明間の融和も図り、誰もが生きていてよかったと思えるよう、社会全体を健全な方向に導いていってもらいたい。


【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など著書多数。最新刊に『ここが一番おもしろい! 三国志 謎の収集』(青春出版社)がある。

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